13.女子会

 やばいやばい、ここで選択肢を間違えたら俺はおそらく殺される。どうすればいいんだよぉぉぉ!! てか、ヴィグナとノアって一緒にお風呂に入るくらい仲良しだっけ?



「どうしたんですか、ヴィグナさん」

「ええ、何か気配を感じるのよね……覗きだったら生まれてきたことを後悔させてあげようかと思って……」

「うーん、猫かもしれませんね。この時期は冷えてきましたし、お風呂の暖かさにつられてきたのかもしれません」

「にゃーんにゃーん」



 ナイスだ、ノア!! とばかりに俺は猫の鳴きまねをする。しかも、これはただの鳴きまねではない。『世界図書館』に猫の泣き声を聞いて、参考にしたものだ。

 これならヴィグナもごまかせるはず……てか誤魔化されてくれよぉぉぉ。生まれたことを後悔って何をされるんだよぉぉぉ。しばらくの沈黙があたりを支配した。すっげえ、俺の胸がドキドキするんだけど……ばれたらヤバイとなると緊張感がすさまじい。



「そうね……確かに猫みたいね。じゃあ、お風呂に入りましょうか。というかその……すごい大きいわね……実はパッドでも入っているのかなとか思ったけど本物なのね」

「もう、そんな風に見ないでください。これでも気にしているんですよ。ヴィグナさんこそ、すごいスレンダーで綺麗じゃないですか。ああ、でもスライムでパッドとか作ったら売れませんかね? あの感触ってけっこう気持ちよいですし……」

「いや、スライムは魔物なのよ……パッドにするって頭おかしいでしょう」


 

 そんな女子会的なトークを聞いてしまい、罪悪感に押しつぶされそうになる。てか、ノアのはどれくらい大きいんですかね?

 それはそれとして、自分で言うのもあれだが、魔物で避妊具を作った俺も頭おかしいよななどと思う。



「それで……ヴィグナさん、お話って言うのはなんでしょうか? ただ一緒にお風呂に入りたいって言うのでもいいんですが……大事なお話があるんでしょう?」

「ええ、単刀直入に言うわね。あなたはグレイスの事を異性としてどう思っているのかしら?」

「なるほど……」


 

 ヴィグナの言葉にノアは納得したように頷いた。いやいや、何話してんだよ。そもそも俺とノアは元婚約者なだけで会ったのは数回くらいなのだ。別に好感度を稼いだ覚えもない。

 これって間接的にフラれるじゃなねえかよぉぉぉ。



「そうですね……多分初恋に近い人だったんでしょうね。私の趣味をちゃんと聞いてくれて、なおかつ色々と興味を持ってくれる方はいませんでしたから。あの人と話すのはとても嬉しかったし、会えるのを

楽しみにしていました。でも……婚約の話がなくなったら、そこから無理に会おうとするほどの強い想いではなかったですね。ずっと、あの人の傍にいるために努力をしていたあなたとは違って」

「う……気づいてたのね……」

「ええ、幼いながらも、ああ、この人はグレイス様の事をすっごい好きなんだろうなぁって感じてましたよ。気づいていないのはグレイス様くらいでしょうね」

「そうね……ボーマンも気づいていたし、あの鈍感男だけでしょうね」



 俺のいないところでぼろくそに言われてるんだが!! てか、ヴィグナってそんなに昔から好きだったのかよ。可愛いな。おい。

 俺はノアの言葉で頬を赤らめているだろうヴィグナを思い浮かべて思わずニヤニヤとしてしまう。



「ただ、今は……正直わからないというのが現状ですね。グレイス様には好意的な感情を抱いてますが、これが恋愛的な感情かと聞かれると悩ましいです。今はゴーレムの作成や、ガラテアさんなど色々と興味深い事がたくさんありますしね……それで……わざわざそんな事を聞くっていう事は、私とグレイス様に結婚する気がないという事を聞きたいということでしょうか?」

「ええ、やはり、わかるわよね……私の言いたい意味が……」

「今のアスガルドは良くも悪くも目立ちすぎていますからね……カシウス家の力を借りれば確かに貴族としての地盤は固められますから、私とグレイス様の婚姻は有効でしょう。ですが、それはグレイス様は望んでいないのでは? あの人は私を口説く気配はありませんし、むしろヴィグナさんに勘違いされないように気を遣ってすらいると思いましたが……」

「う……あのバカ……私は気にしないっていったのに……」


 

 そう言う風に答えるヴィグナだが、その声色はどこか嬉しそうである。



「うふふ、ヴィグナさんはグレイス様の事を本当に想っているんですね……だって、本当は彼を独占したいんでしょう?」

「そりゃあそうだけど……だけど、私は孤児だもの。そういう面では力になれないわ。だったらせめて、アスガルドを利用しようと近づく知らない女より、ノアと結ばれてくれたらいいなと思ったのよ」

「なら、ご安心ください。今度パーティーが開かれるでしょう? そのパーティーには父も出席をしてもらうように手配をしておきました。グレイス様の能力と、アスガルド領で発明された数々の品をプレゼンすれば、父ならばきっと力になってくれますよ」

「ノア……ありがとう」

「お礼はいりませんよ、だって、短い間ですがここで過ごして私もここにが大好きになりましたから。私はカシウス家では普通の令嬢であることを強いられていました。仕事も普通の書類作業や、礼儀の勉強ばかりです。ですが、ここの方々は私をただのノアと扱ってくれて、魔法も自由に使って良くゴーレムも自由に作れて……ガラテアさんも触り放題見放題……うへへ」



 そういうと最後の方はどこかいやらしい笑みをこぼすノア。途中まですごいいい感じだったのになぁ……でも、彼女もここを好きになってくれているというのはありがたい。



「ああ、でも、そうですね……もしも、私が本気でグレイス様を好きになってしまったらその時は協力をお願いするかもしれませんよ」

「え……」



 ノアの最後の言葉にヴィグナが何と答えたかは残念ながら聞こえなかった。そして、彼女たちはしばらく雑談をしてからお風呂を出るのだった。

 よかった……後少し長引いていたら全裸で凍死するところだったぜ……



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