14.パーティー準備

「くしゅん……」



 お風呂から出て自室で休んでいるとくしゃみがでた。やっべえ、風邪ひいたかなぁと思いつつ暖炉に火をつけるとノックの後にヴィグナが入ってきた。その手には湯気の立っているカップを持っている。



「こんばんは、コーヒーを淹れてきたんだけど、よかったら一緒に飲まない?」

「おお、珍しいな。どんな風の吹き回しだ。遠慮なくいただくけど……」

「ええ、スケベな猫が風邪をひいていないか心配になったのよ」

「んんーー!!」



 やっべえ、全部ばれているじゃん。殺されるって思って冷や汗をかいているが、彼女は不思議とほほ笑むだけだ。一体どうしたんだろう? あれか死刑囚を殺す前に優しくするっていうやつだろうか?



「グレイスにお願いがあるのだけれどいいかしら?」

「ん、なんだ? 拷問は勘弁してほしいんだが……」

「何の話をしているのよ……ドレスを一着用意して欲しいんだけどできるかしら?」

「ああ、別に構わないが……この前のドレスも結構似合っていたと思うけどな」



 俺はエドワードさんの所でのダンスで着ていた彼女のドレスを思い出す。ヴィグナの髪の色ととてもあっていて好きだったんだけどな。



「ふふ、ありがと。でも、私のじゃないわ。私もあなたと初めて正式な場で踊った思い出のドレスですもの。今回も着るつもりだから楽しみにしてなさいな」



 そう言うと彼女は嬉しそうに少し顔を赤らめながらコーヒーを口にした。つられたわけではないが俺も口をつける。苦みが口内に広がっていく。

 てか、もう、あそこにいたってばれているんだったらいいよな。



「それと、ヴィグナ……俺は他に嫁を娶るつもりはないからな」

「ええ、今はそれでいいわ。あんたが本気で私を正妻にするつもりっていうのもノアに色々聞いてわかったから……巨乳好きなのにちゃんと我慢しているみたいね」



 あのあと一体二人でどんなことをはなしたのだろうか? そして一つ否定をしなければいけないことがある。



「いや、べ、別に巨乳好きじゃないし……」

「嘘つきなさい、前々からサラの谷間を時々みているのしってるわよ」

「うげぇ……」



 いやいや、仕方なくないか?あれは男の本能なんだよ。そんな事を思っていると、ヴィグナがこちらを真剣な目で見つめてきた。



「ノアはここのために一生懸命やってくれているし、信用もできると思うわ。だからあの子がもしも、あなたの事を本気で好きになったら、その気持ちを受け止めてあげてちょうだい」

「いや、でも……」

「あなたがどうしてもいやだっていうのなら無理強いはしないわ。でも、私は気にしないって言うのをちゃんと心にとめておいてね。あと……全然知らない人間があなたと政略結婚をするくらいなら、ノアの方が絶対いいもの」

「考えとくよ……」



 俺は彼女の言葉を噛み締めながらうなづいた。まあ、確かに婚約話に関してはこれからも色々とついてくるだろう。それでも、ヴィグナは別に他に嫁をとってもいいというがやはり、自分の中でひっかかるというのはあるのだ。

 彼女もこれ以上はその話をするつもりはないらしく、最近の近況報告をお互い済ませる。訓練は順調らしく、大砲も実用化してきてひと段落ついたらしい。

 そうして、俺達は久々にゆっくりと一緒に休むのだった。






「ガラテア、ノエル、準備はどうだ? ボーマン、今回発表する超ミスリル合金のプレゼンは大丈夫だろうな? アグニは、公衆浴場はちゃんとできそうか?」

「マスターから興奮と緊張を感知致しました。精神抑制の効果のあるハーブティーです。お飲みください」

「ああ、ありがとう」


  

 緊張しまくっている俺を見かねたのか、ガラテアがクスクスとわらいながら俺にお茶を淹れてくれた。それを飲みながら深呼吸をする。

 いやいや、緊張するのもしかたなくないか? 子供のころから外れスキルと言われたせいでこういう社交の場はあんまり慣れていない上に今回は俺の主催である。今回はエドワードさん経由で貴族と他の商人も何人か誘ってもらっている。

 今回のパーティーがうまくいけば魔力回復の効果のある馬鈴薯や、超ミスリル合金の販売経路が一気に増えるだろう。そうすればこのアスガルドも一気に豊かになるはずだ。

 そして、宣伝して難民たちも引き入れるのだ。



「ご主人様ーお客様ですよ。エドワードさんがいらっしゃいました」

「お疲れさま。ノエル。通してくれ」



 俺が頷くとノエルの後ろからエドワードさんがやってきた。その仲間のカルコさんとセイレムさんも会場に来ているらしい。見知った顔がいるとだいぶ落ち着くよな。



「今日はお招きいただきありがとうございます。グレイス様、この日を楽しみにしておりましたよ」

「エドワードさんこそいらしてくださってありがとうございます。色々と準備でもう疲れちゃいましたよ」

「ははは、グレイス様ならいつも通りやってくださって下されば大丈夫ですよ。馬鈴薯や、鉱石がもっと貴族たちに広まれば私はカルコとセイレムも大儲けできますからな。楽しみにして下ますぞ」

「余計プレッシャーをかけないでくださいよ……」



 俺が弱々しい声を出すとエドワードさんが申し訳なさそうに苦笑する。しかし、さらにプレッシャーをかけることを言ってきた。



「ですが、今回はカシウス家の当主様もいます。ピンチのようですがチャンスですよ。この地方のリーダーであるあの人にここでアスガルドの生産品を売り込めば、今は新しいものに手を出すのを渋っている貴族たちにも、一気に興味をしめすでしょう」

「はい、できる限りは頑張ります」


 

 そう、当初はそこまで身分の高くない貴族だけを誘う予定だったのだが、カシウス家の方からパーティーに招待して欲しいという打診があったのだ。おそらくノアの仕業だろう。

 彼女には感謝しかない。そして、俺はアスガルドのためにこのチャンスをつかんでみせよう。



「それに……グレイス様はまだ独身ですからな。いろいろとそういう申し出が会話の中で来ると思います。私がいう事ではありませんが派閥を選ぶのを失敗しないようにしてくださいね」

「いや、俺は……」



 ヴィグナと結婚をするつもりで……と言おうとした時に扉がひらいた。



「うおお、やっぱり綺麗だな……」

「ふん、当たり前でしょう? あなたの恋人ですもの」



 入ってきたのはいつぞやの赤色のドレスに着替えたヴィグナだった。彼女は俺の言葉に顔を少し赤くしながらも答える。可愛いな、おい。



「エドワードさんお久しぶりです。今回はもう一人グレイスがエスコートをする女性がいるからその心配は無用だと思いますよ。ノア入ってきなさい」

「はい……その……久々にこういうのを着るので少し照れますね……」



 そう言って入ってきたのは金色の髪にヴィグナと対比するような青を基調としたドレスに着飾ったノアだった。元の顏の造形がいいこともあり、すごく似合う。だけど、それより目を引くのは……



「「でかい」」



 そう、その胸元である。いや、元々すごいとは思ったけれど、谷間を強調されていて本当にやばい。てか今エドワードさんもでかいっていったような……

 そう思って彼を見ると気まずそうに明後日の方向をむいている。



「本日はエスコートをお願いいたします。私がいればグレイス様に粉をかけようという女性は減ると思いますよ」



 彼女は少し恥ずかしそうにしながらもそう言った。確かにカシウス家の令嬢である彼女を俺がエスコートをしていればそういう話をしずらくもなるだろう。

 ヴィグナがお風呂場ではなしていたのはこういうことだったのか……



「ありがとう、ヴィグナ」

「ふふん、私に感謝しなさいな。でも……見すぎよ」

「いってぇ!!」



 そう言うと彼女は俺のももをつねりやがった。それを見てノアがクスクスと笑う。



「ふふ、これなら心配はなさそうですね」



 そんな俺達を見てエドワードさんは苦笑しながらそういった。

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