15.アスガルドでのパーティー

そうして、我がアスガルド領でのパーティーが始まった。すでにガラテアやノエルが料理や装飾などの準備をしてくれており、何とも華やかだ。今日に限ってはボーマンも珍しく礼服で参加しており、つまみ食いをしようとしてノエルに注意をされている。

 あの二人も一緒に研究をしたせいか仲良くなっているようだ。



「フフ、緊張していますね、グレイス様。これをどうぞ」



 俺が深呼吸をしていると、ノアがリンゴジュースをコップについでくれる。このリンゴジュースはうちで収穫されたリンゴを使っており、肥料の効果で体力回復効果があるのだ。

 できれば精神安定効果も欲しい所である。



「ああ、こういう場はあんまり経験が無くてな……ノアはどうなんだ?」

「なら今日は私にサポートをさせてください。父の付き合いでこういうのはしょっちゅうつきあわされていたんです。本当はゴーレムの研究をしたかったのに……」



 俺の言葉にノアが優しく微笑みながら言ったが、最後にぼそりと呟いた。まあ、ノアのお父さんの気持ちはわかる。彼女は美しいし、動作に気品があるからいるといろいろと場が盛り上がるのだろう。

 反面外れスキルと言われていた俺は王家の恥という事で、こういう社交の場には呼ばれなかったのだ。だから……今はこうして主賓になっているというのは正直嬉しい。



「まあ、ノアがいると華やかになるからな」

「ふふふ、珍しく口説いてくれて嬉しいですが、ちらちらと胸を見るのはやめた方が良いと思いますよ」

「別に口説いているわけじゃないんだが!! でも、胸は見てました。ごめんなさい」



 ノアの言葉に俺は慌てて反論する。でもさ、谷間があるとついついみちゃうんだよぉぉぉ!! そんな事を話していると、扉が開いてヴィグナがやってきた。



「何を騒いでいるのよ……そろそろ客が来るわよ。いつものように威厳あるフリをしなさいな」

「フリってお前な……」


 

 いつものような毒舌をもらったおかげか心が少しシャキッとする。何か調教されている気がするなぁ……とそんな事を思っているとなぜかヴィグナが、腕を胸の近くに寄せている。



「お前こそ何をしているんだ? まさか怪我をしたのか?」

「別にそんなんじゃないわよ、馬鹿……どうせノアほど大きくないわよ……」



 俺が心配をして声をかけたのになぜかつれない反応である。最後の方はぼそぼそ言っていてよくわからなかったし……

 俺が詳しく聞こうとするとエドワードさんとガラテアが、招待客をエスコートしてきた。やっべえ、気合を入れないと思いながら隣を見るとヴィグナは鋭い視線で、ノアは優しい微笑みを浮かべながら招待客たちを迎えている。

 うちの女子達頼りになりすぎるな……



 そうして、貴族ではない商人たちが入った後に、貴族たちが身分の低い順に入ってくる。やはり、商人の数に比べて、貴族の数が少ないのは仕方ない事だろう。彼らがこちらを値踏みするように見てくるのは気のせいではないだろう。

 そして、入場がひと段落した時にひと際高価な衣装に身を包んだ。40歳くらいの鋭い眼光の壮年の男性が入場してきた。周りの商人や貴族たちの間に緊張が走る。



「お父様……」



 そう彼こそがノアの父であり、カシウス家の当主であるレメク=カシウスである……実は幼い頃に会ったことがあるのだが、その時は強面だが、ノアの事になるとすごい甘いおじさんという印象だったのだが、今は公の場であるし、子供に見せる顔と、貴族としての顔は違うだろう。

 彼は俺の前に来ると、鋭い眼光で俺をみた後にノアを見つめほほ笑んだ。



「お久しぶりですな、グレイス王子。こうして挨拶に伺うのが遅れてしまい申し訳ありません」

「そんな……今の俺は、王子ではなく、アスガルド領の領主としています。そんな風にかしこまらないでください」



 いきなり、頭を下げたレメクさんに、逆に俺は慌てる。いや、確かに俺は王族なのだが、ほとんど名ばかりだし、今はアスガルド領の領主としているのだ……ここら一帯の貴族を取り仕切るレメクさんにこんな風に接されるとそれはそれでやりにくい。

 困惑している俺を余所にざわざわと騒がしくなった貴族たちの俺をみる目が変わった気がした。なるほど……ここでレメクさんが俺を王子として扱った以上他の貴族たちも、俺を舐めたりはしなくなるということか。そう思って視線を合わせると彼はウインクをした。



「それではお言葉に甘えさせていただきます、この度はアスガルド領の評判は色々と聞いています。魔物を使う野盗の集団を倒したり、魔力を回復する馬鈴薯、様々な発明品など、活躍を聞くたびいつかお話を聞きたいと思っておりました」

「いえいえ、そんな……よろしければ我が領土で作った発明品や、馬鈴薯などを楽しんでいただけると幸いです」



 そんな風に社交的な挨拶をかわす。しばらく談笑してからレメクさんはノアに声をかけた。



「ノアよ、アスガルドでの生活はどうだ? グレイス様に迷惑をかけていないか?」

「ええ、グレイス様のおかげでとても楽しく過ごさせていただいています」

「ご安心を……彼女の事務能力や、魔法、ゴーレムによってとても助けられています」



 そう言うと、レメクさんは頷いた。一瞬嬉しそうな顔をしたのは気のせいではないだろう。ちょっと意外だったが、まあ、ノアがここに来ても、連れ戻さなかったこともあって、肯定的なのかもしれないな。



「他にもグレイス様とお話をしたい方がいると思いますので、そろそろお暇させていただきますね。これはほんのお気持ちです。ソウズィの遺物を集めているのでしょう。どうぞ」

「そんな……ありがとうございます」



 そうして、レメクさんから高そうな宝石箱を受け取ると、彼はお辞儀をして立ち去っていく。俺はガラテアを呼んでこれをどこかに保管してもらおうと思うと、何か紙がついているのに気づく。



『二人でお話をしたい。お時間をいただけますかな?』



 一体何を話すのだろうか? ノアの事か? そう思うながら紙を自分のポケットへとしまい、俺は他の貴族たちの相手をするのだった。

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