54.ドワーフ王の提案

 俺たちが席につくと飲み物と共にちょっとした食事が置かれる。まずは一口と思ったが嫌な予感がして匂いを嗅ぐと、酒じゃねえか、まじかよ。

 間違いかなと思いきや、彼らはおいしそうに酒をのんでいる。ドワーフにとっては当たり前なのだろう。流石にアインは……と思いきや彼女も同様に楽しんでいるようで、少し顔が上気している。



「どうした、客人? ドワーフの酒は口に合わないか? ああ、もしかしてこちらの方がよいかな? 人間には酒に弱いのもいることを失念していた。申し訳ない」



 アルヴィスの言葉で、彼の横に控えていたドワーフが慌てた様子で水を持ってくる。今度こそ俺は口をつけて一息をつく。どうやら、人とドワーフの間にはいろいろと常識の面で違いがあるようだ。俺といるときはボーマンはこっちに合わせてくれたのだろう。

 いや、あいつもしょっちゅう酒飲んでたな……ひどい時なんて酒飲みながら剣を打ってたし……それはともかくだ。本題に入らねばならないだろう。



「それで俺を待っていたというのはどういうことでしょうか? ドゥエルの王は俺よりも兄を待っていたようですが……」



 先ほどの出来事を思い出し、俺はつい皮肉気な笑みを浮かべてしまう。するとアルヴィスは大きくため息をついた。



「ああ、人の王が失礼をしたようだな。先代はもっと話の分かる男だったのだがな……われらドワーフはゲオルグという男には興味はない。ボーマンの手紙とわが弟ギムリの話で貴公がドワーフに偏見を持っていないということは理解している。それでお願いがあるのだ。われらドワーフの移民をアスガルドに受け入れてはくれないだろうか?」

「移民……ですか?」



 信じられない言葉に俺は一瞬ガラテアに視線を送ると、彼女は黙ってうなづく。アルヴィスの言葉に嘘はないということだろう。



「ああ、そうだ……われらドワーフはもう、限界なのだ。鉱山アリの侵略によって、鉱物はろくに掘れないため、食料を買う金もなくなってきている。今はこれまで作ったものを貿易で売っているからなんとかなっているが、それも時間の問題だろう。われらの国はもう終わりかけているのだよ……」



 アルヴィスは悲しそうに顔を歪める。どこかやつれた様子とテーブルに並んでいる食事の質素さでわかる。彼らは彼らなりにいろいろと頑張っていたのだろう。それでもどうしようもなかったのだ。そして、ドワーフがドウェルからいなくなれば資金源が亡くなったこの国がどうなるかは想像に難しくない。

 これが……俺の親父たちが侵略した国の末路か……人の王もまた、現状に気づくのはいつになるかはわからないが、やがて現実を知って絶望するだろう。

 クソ親父にクソ兄貴どもめ、奪うだけじゃこうなるんだよ……



「そんなに追い詰められているのですね……じゃあ、ギムリとアインはドワーフの移民先をみつけるために旅をしていたのか?」

「いや、それも違うぞい……我らは本当にこの国に見切りをつけていたんじゃよ、ただ、種族の種と技術は残さないといかんからのう。ドワーフに偏見がなく、ちゃんと暮らせるところを探していたんじゃ。アスガルドは予想以上に楽しく、わしらを歓迎してくれたからのう。もしかしたら儂とアインだけでなく、ここのドワーフも受け入れてくれるのではないかと思っての」

「はい、私も当初はアスガルドからドウェルへの道案内をするだけのつもりでした……ですが、私たちはグレイス様に未来を見たのです」



 ギムリとアインの言葉に俺は最初に契約をした時を思い出す。何度も契約条件を確認していたのは異国から来た上にドワーフであるギムリに不利な条件を何度か吹っ掛けられた経験からなのかもしれない。

 


「もちろん、ただでとは言わない。お金の代わりと言っては何だが、我が国の残りのミスリルを土産に渡そう。それに我が移民に考えている中にはボーマンほどの腕ではないが優れた鍛冶師や鉱山に詳しいものもいる。貴公の領地には鉱山があり、技術者がたりないのであろう? 我らドワーフの技術は必ずやアスガルドの発展に役立つだろう。頼む……受け入れてくれ……」



 そういうとアルヴィスはテーブルに頭をつきそうなくらい頭を下げる。やめてくれって。そんなことをされたら断りにくくなるだろ。それにさ……その前に確認しなきゃいけないことがあるんだよ。



「顔をあげてください、アルヴィン殿。ご質問ですが、移民にはあなたも含まれているのでしょうか?」

「まさか!! 我は王として、先祖代々伝わるこの地を捨てるわけにはいかぬ。最後までここで鉱山アリどもと戦う予定だ。戦士たちも大半は残るだろう。その代わりルビーを貴公の領土に送りたいと思う。ドワーフの王族の血は残さねばいけないからな」

「お父様ーー聞いてないぞーー!! それに鉱山アリなんてカインが倒してくれるぞー。なあ、カイン!!」

「ルビー、落ち着いて。僕だけじゃあいつらを倒しきるのは無理だってわかっているだろう?」



 アルヴィンの言葉に、ルビーが文句を言おうと席を立とうとするのを自称カインが推しとどめる。それでおとなしくなるってことで二人の関係性に確かな信用があるということだろう。

 だけど、その様子で俺は悟った。彼らも本当は故郷を捨てたくないのだ。それに……ボーマンだって故郷が亡くなるのは嫌だろう。俺だってアスガルドが失われるなんて言われた耐えられない。



「話はわかりました。ですが、俺は移民の話をしに来たのではありません。まずは鉱山アリを倒し、それから改めて話しましょう。そのための発明品を俺は持ってきたのだから、ガラテア!!」

「さすがはマスターです。そう言ってくれると思いました」



 そういって、彼女は俺が持ってくるように言っていた魔法銃剣と馬鈴薯をカバンから取り出した。

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