55.
「おお。すごいなー。でも、こんな高いところで作物が育つのかー?」
「はい、この馬鈴薯というのはむしろこういう高地の方が育つのですよ。そして、アスガルド産の肥料を加えると……おそらく明日には収穫できるでしょう」」
会議の後に俺は馬鈴薯と肥料のすばらしさを披露すべく、一部の平地を借りて、さっそく馬鈴薯を植えさせてもらったのだ。久々の農業はやはり頭を使わないからか楽しい。
クワを片手に汗をぬぐった俺は久々の達成感に心が洗われるような気分になる。
「明日には!? アスガルドはいったいどうやってこんなものの開発を……」
「それにこのクワもなかなかおもしろいですな……」
俺の言葉に他のドワーフたちも驚きの声をあげる。ふははは、これが我が領土の発明品肥料とクワである!!
村の方で馬鈴薯の味はドワーフたちの口にも合うことは証明されているので明日には、馬鈴薯を使った料理のお披露目パーティーもできるだろう。
「しかも、この馬鈴薯を揚げたものが、酒とあうんじゃよ」
「酒にですか!! それは最高ですね。久々に塩以外のつまみを食べれそうです!! 楽しみですな」
ギムリの言葉でドワーフの重鎮たちが騒ぎ始める。いや、どんだけ酒が好きなんだよ。この人たち……そんな風に少しあきれた様子で見ていると声をかけられた。
「グレイス殿……本当に感謝をしてもしきれん。兵力だけでなく、食料まで援助してもらえるとは……この恩は必ず返す」
「いえ、困った時はお互い様ですからね。気にしないでください。それに……ここは俺の師であるボーマンの故郷でもありますから」
頭を下げるアルヴィス様に俺は笑顔で答える。ボーマンの大切な故郷なのだ。できる限り力になりたいし、そもそも彼らがここまで困窮しているのはもとはといえばくそ親父たちのせいである。この体には残念ながら、同じ血が流れているのだ。決して無関係とはいえないだろう。
「それで……本当に、我が兵士たちがこちらに滞在しても問題がないのですか?」
「ああ、もちろんだとも。幸いにも人が住むところはたくさんあるからな。今頃アインが地上にいる君の兵士たちをこちらによんでくれているだろう」
そう答えるアルヴィス殿の表情は少し寂しそうだ。アインやギムリのようにここを後にするドワーフたちが絶えないのだろう。俺はそのことに胸を痛ませつつも礼を言う。
「ありがとうございます。それでは俺たちは魔法銃剣が鉱山アリに有効かを確認してみたいと思います。どなたかに鉱山を案内をお願いしたいのですが……」
「それなら、私がいくぞーー」
俺たちの会話に割り込んだのはルビーである。彼女は笑顔で手をあげる。
「私はよく鉱山の見回りをしているからなー。それに魔法も使えるからその魔法銃剣というやつも使えると思うぞー」
「だが、ルビー……お前は……」
やる気満々のルビーを制止しようとしたアルヴィス殿だったが、彼女がそれを最後までいわせることはしなかった。
「お父様……私だってこの国を守りたいんだぞ。他国の人間に命をかけてもらって私だけ安全なところにいるなんてできないぞ」
「ルビー……」
「それに私にはすごい強い護衛がいるから大丈夫だぞー、なあ、カイン」
「え、僕もいくの?」
満面の笑みのルビーに呼ばれた仮面の男……自称カインは間の抜けた声をあげて……そして、俺の方を見て無茶苦茶気まずそうな空気を醸し出すのだった。
俺だって同じ気持ちだっての!!
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