56.

「それでなー、ここは昔はみんなでミスリルの掘り合いをしてたんだぞー。一番大きい塊を見つけたやつが酒をみんなに酒をおごってもらったりしてたんだ。私も子供の頃にこっそりと分けてもらって一緒に騒いだんだぞ」

「それは中々楽しそうですね。アスガルドでも一番大きい馬鈴薯を掘り当てた人にサラさんの食堂無料券のプレゼントでもやったら楽しそうですね。グレイス様」

「ああ……そうだな……」

「……」



 鉱山の中を俺と自称カインは少し気まずい雰囲気の中歩いていた。ルビーが楽しそうに語るのをガラテアが笑顔で相槌をうっている。

 アスガルドで馬鈴薯バトルをやったら絶対ジョニーとアルフレッドが強いなぁとか、ボーマンが酒のためにやばい肥料を作りそうとか、ドワーフって子供の時から酒飲むのかよとか色々と突っ込みたいことはあるが、正直、俺の関心は当たりを見回しながら先頭を歩いている男である。

 まあ、ガラテアが行動にうつさないって事は、今のこいつには悪意はないんだろうけどさ……



「ここだね。鉱山アリたちの足跡があるよ」

「流石だな、偉いぞー。ご主人様」

「ありがと、まあ、僕のご主人様はルビーの方なんだけどね」



 そう言って横道に大人がかがんで入れる程度の穴の前で自称カインが声をあげた。決して俺の方を見ないのは彼も気まずいのだろう。確かにそこにはわずかだが何かが歩いたような痕跡が残っている。



 これは……俺をはめるための罠か……?



 俺を暗殺するならば絶好の機会だろう。なぜならここにはドワーフはルビーしかいないのだ。俺とガラテアを魔法を使って分断させ、鉱山アリには武器が通じなかったとでもいえば、俺を殺すことは容易い。

 だが、カイルはガラテアが感情を読むことができるのを知らない。もしも、こちらに敵意があるのならば、ガラテアが教えてくれるはずだ。

 そう思って彼女を見つめると、横に首をふった。カイルに敵意がないだと……



「お前らなにしてるーー? 迷ったら大変だぞー」

「ああ、悪い悪い。鉱山があまりにも強大だからびっくりしたんだよ」

「そうだろー、うちの鉱山はすごいんだぞー。質のいいミスリルが採れるし私たちドワーフのふるさとであり、すべてなんだぞー♪」



 俺が適当にごまかすとルビーが誇らしげに笑顔で答える。その顔を見て俺はモノ悲しい感情を抱く。ドワーフたちはその故郷を捨てる覚悟を決めているのだ。相当な覚悟で決断したのだろう。



「マスター。ルビー様、カイルさん。敵の気配を感じました。数は三です。気を付けてください!!」

「うへ!?」

「こいつの名前はカイルじゃなくてカインだぞー。確かに言いにくいよなー」

「ガラテア……絶対わざとだろ……」



 びくっとしてガラテアの方を見つめる自称カインにざまあみろと思いながらも、いちおう俺は突っ込みを入れる。事情を知らないルビーの言葉にちょっと申し訳ない思いになる。

 それはさておき、鉱山アリは手ごわい魔物である。俺が気を張って銃を構えると、誰かに腕をつかまれる。



「安心してください。マスター。あなたの事は私が守ります」

「ありがとう……だけど、俺だって銃は使えるんだ。自分の身は守ってみせるさ。カイルとかいう馬鹿な兄を倒したしな」

「くはぁ!!」

「どうしたー? 変なものでも食べたかー?」



 少し心配そうにこちらを見つめるガラテアに俺は笑顔で返す。そう、俺だってカイルとの戦いで修羅場をくぐったのだ。自称カイン君が変な声を上げているが気にしない。



 カリカリカリと何か硬いものを食べる音が奥の方から響いてくる。嫌な予感がした俺たちが足音を忍ばせていると、人と同じサイズのアリが地面に顔をつけている……のか?



「あれは……食事中のようですね……」

「そうだぞー、あいつらは鉱物はもちろんのこと石もたべるからなー、ストーンアルマジロも鉱物なんだぞー」



 二人の言う通りあいつらはストーンアルマジロを強靭な顎で食っていやがったのだ。そして、あいつらがこちらを振り向くと無機質な目でみつめてきやがった。

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