57.鉱山アリ

初めて見た鉱山アリは異質な外見をしていた。人と同じくらいのサイズで、金属のような光沢のある甲殻に覆われており、感情の一切ない目でこちらを見つめている。



「ここは……アリだーー!! と叫ぶところでしょうか?」

「いや、アリだけど……急にどうした?」

「父が好きだったゲームのネタです。思い出したのでつい……」



 俺がきょとんとしているとガラテアが懐かしそうに微笑む。ソウズィは昆虫の退治でもしていたのだろうか? とにかくだ。こいつらに銃が通じるかを試さねばならない。

 俺が持ってきた普通のライフルからパァンと乾いた音が響く。



「いざ見るとビビるな……」



 予想通りというべきか、ミスリルと同化している甲殻によって、ワイバーンの鱗すら貫いたライフルの弾はあっさりとはじかれる。

 俺は鉱山アリとの脅威をその身に実感しながら、ルビーに声をかける。



「ルビー!!」

「任せてほしいぞー」


 

 ルビーが持つ魔法銃剣から弾丸が放たれて、鉱山アリの足を貫き、バランスを崩して、そのまま倒れる。だが、そこから先は俺の予想を超えていた。やつはまるで痛みなど感じないかのように、すぐに四つん這いになって這ってくる。

 いや、本当に痛みを感じていないのだろう。昆虫は痛覚が存在しないということを聞いたことがある。それと同様にこいつらも痛覚がないのか……つまりは急所を射抜かなければ動きを鈍らせるだけの効果しかないという事だ。結局ルビーがもう一発を額にお見舞いにして、ようやく、その動きは止まった。

 そして、あとの二体の鉱山アリはというと……



「炎神の息吹よ、矢となりて我が敵を射抜け!!」

「なかなか硬度ではありますが、私の敵ではありませんね」



 一体は自称カインの魔法に焼きつくされて、もう一体はガラテアによって胴と首を引きちぎられていた。やはり腕力、腕力は全てを解決する。ガラテアが強すぎるな……



「おお、グレイス、この武器すごいぞー!! 私だけでも鉱山アリを倒せたぞ。今まで五人がかりで倒してたからなー。これでカインにばかり苦労をかけなくてすむぞー」

「ああ、アスガルドの力はすごいだろ」



 満面の笑みを浮かべるルビーに笑顔で考えながら俺はこれからをどうしようか頭を悩ませていた。魔法銃剣が有効なのはわかったが、今回は一匹を倒すので精いっぱいだった。

 アスガルドの兵士たちも不意打ちならば急所を射抜き一撃で仕留めることはできるだろうが、相手が動いていたり乱戦の場合はきついな……このまま、アリの巣に突っ込めば……どうなるかは想像にたやすい。

 こうなったら、こちらも魔法銃剣を増やし、ドワーフたちにも使ってもらうしかないだろう。銃には慣れていないだろうが、扱う事ができるのはルビーが証明してくれた。



「なあ、カイン推測でいいから、教えてほしんだけどさ、うちの国でこいつらを簡単に倒せるのは何人くらいいると思う?」

「え……? ああ、そうだねぇ。これはあくまで僕の推測だけど、ミスりルの対魔力を無視できるほどの魔法が使えるのは『魔聖』の部下の魔法使いでも、一部……十人くらい。後は『剣聖』のゲオルグかなぁ……彼ならミスリルごと斬ることもできるだろう。彼の親衛隊も複数人なら可能だと思うよ。ただ……広い場所ならばともかく、鉱山では陣形を作る余裕もない。かなり苦戦するだろうねぇ……まあ、それをどうするかも王は見たいんだろうけど……」



 いきなり話しかけられて、驚いて自称カインだが、俺の意図を察したのか、冷静にゲオルグがひきつれてくるであろう戦力を分析する。確かに戦場が平地ならば、甲殻が固い鉱山アリでも数の暴力で倒せただろう。だが、こんな狭い上に横道などがたくさんある場所では、苦戦は必至である。

 俺は既に息絶えている鉱山アリに手を触れる。



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鉱山アリ(ミスリル)


 鉱山にある石を食べて甲殻を作成する魔物。ミスリルによって、その硬度と魔法体制はさらに強化されている。また、痛覚などはなく、痛みをあたえても女王のために向かってくる。


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 おお、実際に戦って鉱山アリの事を理解したからか前に調べた時よりもさらに細かい情報が出てきたぞ。これでこいつらの生態がわかれば倒すための有効打も見えてくるかもしれない。

 とりあえず女王というのが気になるな……



「マスター……その顔は何か希望を見出したのですね? 流石です!!」

「ありがとう、ガラテア。これからグレイス=ヴァーミリオンの偉業が始まるぜ。なあ、ルビー、ドワーフたちは鉱山アリに関しての情報を集めていたりとかしないか?」



 頼もしそうに俺を見つめるガラテアにうなづく。そう、俺の武器は発明力だけではない、知識だ。このまま、鉱山アリの情報を学ぶことによって俺の世界図書館は更に有益な知識をくれる可能性は高い。



「おお、それなら誰かが書いたレポートがあるぞー。あとで案内するなー。あと、さっきこれを使って思ってけど、改良点も思いついたから工房のみんなで相談していいかー!!」

「まじか、たすかるぜ!! ボーマンに急ぎで作ってもらったからな。まだまだ強化できるところもあると思う」

「そうか……グレイスは何か決定打を見つけたのか……」



 俺とルビーが話していると自称カインがどこか羨ましそうな顔で何かを言った。そして、鉱山アリを抱えて、ドワーフたちの城に戻っている時だった。



「グレイス……二人で話があるんだ」



自称カインは少し緊張した様子でそういった。

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