58.カイルの考え
「それでいったい何の用だ? ちゃんとふたりっきりになったぜ。カインさん」
自称カインに呼びだされた俺は人通りの少ない坑道の横道へと連れ出されていた。どこに鉱石があるかわからないため、こういった横道はかなりあるらしく、中には相当奥にまで掘られている道もあるようだ。
「まさか、本当についてきてくれるとは思わなかったよ……」
目の前の自称カインが仮面越しにだが自虐的に笑ったのがなぜだかわかった。そして、彼はその仮面を外す。
俺と同じ金色の髪の毛に、見覚えがありすぎる端正な顔。その正体は……俺の予想通りカイル=ヴァーミリオンだった。だが、以前とは違うところもある。その顔には痛々しい火傷が残っており、ヴィグナによって斬られた左腕は当然ながらもう、存在はしない。
だけど、一番変わったのはその表情である。いつも皮肉気な笑みを浮かべていた彼は、何とも言えない顔で俺を見つめている。
そう、その顔は何とも申し訳なさそうにしているのだ。
「やっぱり驚かないし……怒らないんだね。僕はもっとこう……いきなり怒鳴られるかと思ったよ」
「勘違いするな。お前のせいでアスガルドは大きな損害を受けたよ。本音を言えばお前を殴ってやりたいけど、今はそんなことはどうでもいい。お前は何を考えてドウェルにいるんだ?」
話しながら俺は懐の銃に手を握る。カイルが魔法を使っても即座に対応できるようにだ。まあ、ひそかに俺たちを見張っているガラテアが乱入してこない以上カイルがこちらに敵意はないのはわかっているんだけどな。
「そうだね……どこから話そうかな。僕はお前らに返り討ちにあって、死にかけの所を冒険者に助けてもらったんだよ」
「ああ、知っているよ、あのドラゴンテイマーだろう。あいつもここにいるのか?」
俺からすればあいつもカイルと同じくらい憎い存在である。皮肉の一つでも言わせてもらわないと気が収まらない。いや、それでも、気はすまないけどな。
「彼は今頃強力なドラゴンをテイムしにどこかへいったよ。ここが彼の出身でね、ドワーフたちが生きるための資金を稼ぐために冒険者をやっていたのさ。だから、戦に負けて行く場所がなくなった僕をここに連れてきてくれたんだよ」
「行く場所がなくなったって……あのまま王都に戻ればよかっただろ? お前の部下だってまだまだいるんだろうが」
「はは、それは難しいだろうねぇ。グレイスだってわかってるだろ? 僕ら兄弟は仲良しこよしってわけじゃない。むしろどちらかを蹴落として王になろうって関係だ。大きな失敗をした上に傷だらけの僕をゲオルグ兄さんが、見逃すと思うかい? 僕だったら絶対逃がさないぜ!! お前に殺されたってことにするさ。そうすれば、王になるためのライバルはグレイスだけになるんだからね」
カイルが自虐的に唇をゆがめて笑う。確かにカイルの敗北を知ったゲオルグがひそかにこいつを殺そうとする可能性がないとはいえない。いや、するだろう。そして、あのくそ親父はそれすらもどちらが王にふさわしい戦いの一部だと判断し助けることはしないだろう。
城にいたメイドのようにカイルを慕う人間はいるかもしれないが、頭数の多いゲオルグに逆らうほどの力はない。
「まあ、そんなことはどうでもいいさ。僕が君を呼んだ理由は一つだ。一つだけでいい僕のお願いを聞いてくれ」
「……今更許してくれなんていっても、もう遅いぞ」
カイルの言葉を俺は冷たく切り捨てる。確かにこいつはもうこちらに害をもっていないかもしれない。だけど、そんなことはどうでもいいのだ。俺を馬鹿にし続けてきたというのも許せないが、なによりもアスガルドを攻めてたことが許せない。
だが、彼のお願いは俺の予想外の言葉だった。
「僕はお前のどんな命令も聞く……このまま土を食えというなら食おう。メイド服を着ろというなら喜んで着よう!!だから、ドウェルを……ルビーの笑顔を守ってくれないか? グレイスは僕と違って、彼女たちを救う方法を見つけたんだろう? だったら頼む」
カイルは手のひらを地につけて、地面に額をつけて、俺に懇願をする。あのプライドの高いカイルがあんなに馬鹿にしていた俺にこんな態度をするなんて……
「なんでだ……? 今までお前だったらルビーのことだって利用する今しか考えなかっただろう? なのに……」
「僕がさお腹を空かしているとさ……パンをくれたんだ……大丈夫かって優しく声をかけてくれたんだよ……自分たちだって貧しいのに食料をわけてくれたんだよ。全てを失った僕にね……」
「ドウェルを貧しくしたのは親父とゲオルグだぞ!! そして、お前だって他国で同じようなことをしていただろうが!!」
「ああ、そうだよ……僕はクズだった。父に認められたいから、力を示したいからってさぁ、色々とやってきたよ。僕は気づいていなかったんだ。奪われた側がどうなるのかって……その国がどうなるかってさぁ!!」
俺の言葉にカイルが顔を歪める。その表情に俺はわからなくなる。だって、俺にとってのカイルは悪だった。俺を追放した完全なるくそ兄貴で……いつも世界を馬鹿にしているような男で……
なのに、こいつは守ってくれという。アインやギムリのようにドゥエルを守ってくれと必死に懇願してくるのだ。
「おーい、グレイス、カイン。迷ったかー?」
「マスター、大丈夫でしょうか?」
ちょうどいい乱入者に俺はほっといきをはく。正直どうすればいいかわからんかったらだ。カイルを横目に見ながら俺はドワーフたちの所へと戻る。
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