39.
ボーマンとノエルから頼まれていたものができたと連絡を受けた俺は広場に向かっているとヴィグナとすれ違ったので状況を確認することにした。
彼女には今、魔法の才能がある人間をイースさんと共に教育してもらっているのだ。
「それでどうだ、イースさんは?」
「そうね……さすがノアの推薦だけあるわね。教えるのがかなりうまいわ。魔法のまの字も知らなかった彼らも徐々にだけど感覚を掴んでいるわ。だけど、あのくらいじゃあ、実戦では使い物にはならないわよ。ましてや、鉱物アリ相手じゃあ詠唱を使う時間もないわ」
「そうか……とりあえず簡単でもいいから魔法を使えるようにしてくれればいいさ。それに関しては考えてあるからな、ボーマンたちに色々と頼んでいるんだ」
あれから一週間、イースさんの授業は順調なようだ。そして、ヴィグナの疑問に関しての答えもちゃんと用意はしてある。そもそも魔法自体が素質があるにしても、習ってすぐにポンポンと使えるようなものじゃないからな。
そして、ヴィグナと別れ広場につくと、試作型らしき長身の銃……ライフルと、タイヤにゴムを巻いたような無限軌道の蒸気自動車がそこにはあった。坑道で動けるように小型で二人乗りのそれには先っぽに太い砲身がくっついており、ボーマンとノエルが何やら話あっている。そして、アインが興味深そうにうんうんと頷きながら話を聞いていた。
「あ、グレイス様。ご足労ありがとうございます」
俺に気づいたノエルが嬉しそうに手を振ってくる、それとともに俺達に他の二人も気づいたようだ。
「ああ、ようやく試作品が完成したようだな。それで彼女は……?」
「ああ、興味深そうにしていたからの、見ておけと言ったんじゃ。この娘は儂よりも後にドゥエルを発ったからな。鉱山アリにもより詳しいと思っての」
「はい……合金という新しい金属を見させていただきました。素晴らしい発明ですね」
彼女も鉱石を多く発掘しているドウェル出身という事で、興味があるのだろう。ボーマンの言葉にアインが礼儀正しくきっちりと腰を折ってお辞儀をする。その仕草がどこか貴賓を感じれて、冒険者と言うのに少し違和感を覚える。俺はひそかに彼女相手にスキルを使って調べた結果を思い出す。
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冒険者
アイン=プロビデンス
年齢:22歳
得意分野:土魔法、ピッケル術、鉱物鑑定
スキル:大地に祝福されしもの。
情報:ドウェルの元貴族。アスガルドにいわれるがままにの祖国に嫌気がさして師匠のギムリと共に冒険者になった。真面目な彼女と適当だが実力のあるギムリは相性がよく、そこそこ成功している。
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元貴族の彼女がなぜ冒険者をやっているのかはわからないがドウェルはそれほどヤバい状況なのだろう。まあ、他の国に援助を頼むくらいだしな……俺の視線で勘違いさせてしまったのか、アインは気まずそうに口を開いた。
「申し訳ありません、グレイス様。新参者の私にこれらの発明品を見せるのが抵抗があれば席を外しますが?」
「いや、アインも期間限定とは言え領民だからな。遠慮なく意見を言ってくれ」
「冒険者である私が領民ですか……それではお言葉に甘えさせてもらいます。それにしてもこの超ミスリル合金というのは美しいですね」
一瞬驚いたように目を見開いた後に彼女はふっと笑って、新しい銃を愛おしそうに触れる。やっべえ、鉱物鑑定が得意とか書いてあったけど、まさか彼女もノア系か? 変態はもう十分なんだけど!!
「それで……この銃はどうなんだ?」
「ふん、百聞は一見にしかずじゃよ。アインさっそく使ってみてくれ。これは魔法を使える人間ではないと使いこなせんからな」
「わかりました。ただあの的はとても硬そうですが……」
「では比較としてグレイス様、こちらのライフルを使ってあれを狙ってみてください」
ノエルから衛兵たちが使っているライフルを受け取って、俺は的にむかって放つ。轟音と共に弾丸は金属製の的にわずかにめり込んだ。
「これって超ミスリル合金製か!!」
「はい、鉱物アリの強度を意識して作ってみました。やはり今までのではダメみたいですね」
カイルの魔法でもライフルを防がれたが、それと同じくらいの守備力だなと思っていると、今度はアインがライフルを構えて、的を射抜く。火薬の音と共に銃が光り、弾丸が発射され……その弾丸は的を貫いた。
「なっ……? は……? この的ってさきほどみせていただいた超ミスリル合金なんですよね? ミスリルよりもずっと硬い……それをあっさり……」
「これは……? すまない。ちょっと貸してくれ」
撃った本人も驚いているがそれ以上に俺も信じられなかった。サイズ的にはただのライフルと同じなのだが……
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『量産型魔法銃剣』
ミスリル超合金によってつくられた銃剣。銃の先に超ミスリル合金製の刃が取り付けられている。超ミスリル合金の弾丸を放つ際に火薬と魔力の爆発を同時に行う事によりより早く、するどい破壊力の銃弾を放てるようになった。
弾丸を放つ際には、魔力を込めなくても撃つことはできるが、その場合は普通の銃と同じ威力である。発射時の威力に耐えるように設計されているため超ミスリル合金を大量に使用しているためコストが高い。
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火薬と魔力をあわせてより強力な弾丸を撃てるようにしたのか!! ボーマンには火薬の力と魔力を重ねればより強力なものができないかとは言っていたがここまでの破壊力とは……
「これは……俺が頼んでいた以上の成果だな!!」
「お前さんと話していた新しい銃じゃな。ちゃんと弾丸を放つ際に火薬と魔力両方を使うことによりその威力を倍増にさせたんじゃ。魔力を放つだけじゃから、これならば魔法に慣れない人間でもつかえるぞい。アインよ。これならば鉱物アリも倒せるじゃろ」
「はい……すごい威力です。こんなものを作れるなんて……これがあれば……ドウェルも救われるかもしれない……」
話を振られたアインが興奮気味に口を開く。その目はきらきらに輝いている。普段から冷静そうなイメージだったがそれだけ驚いたのだろう。
「そしてこれがもう一つの新兵器です!! 鉱物アリを倒し、かつ鉱山でつかっても大丈夫な武器ですよ」
そして、ノエルがまってましたとばかりに蒸気自動車を指さした。
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