40.新兵器

ノエルの言葉と共にボーマンが蒸気自動車を操縦する。ずいぶんと大きい砲身なので、威力はあるだろうがそんなものを坑道で使ったら色々とやばいんじゃないだろうか?

 俺の表情に気づいたのか、ノエルが安心させるように微笑む。



「グレイス様の心配はもちろん察していますよ。でもこれはそれらの問題を解決した画期的な武器なんです。ボーマン様、もう少し近づいてください」



 ノエルの言葉に従って、蒸気自動車が人が二人ほど横になったくらいの距離まで接近する。こんな近距離で大砲を撃ったらボーマンもまずいんじゃ……

 そんな考えの俺をよそに弾が放たれて……的が蜂の巣の様になる。



「「「は……?」」」



 俺とヴィグナ、アインが信じられないとばかりに声を上げる。そう、文字通りハチの巣状態になったのだ。貫通するほどの威力はないけれど、まるで数十発弾丸を浴びたようにボロボロになっている的を見て俺は慌てて的を確かめる。



「これは……」

「はい、これは大きいケースにたくさんの弾を入れているんです!! これならば動きが素早いアリさんの急所にも命中しやすいと思いますし、距離が開けば開くほど威力が散るので坑道へのダメージも抑えれると思いまして」



 得意気に説明をするノエルの頭を撫でると彼女はうれしそうに微笑えむ。可愛い事を言っているがこれ結構えぐい武器じゃないか? 今回は魔物だからいいがもしも人間に使ったら……想像するとしばらく肉を食えなくなりそうだ。

 こんな武器も異世界にもあるのだろうか? 俺が『世界図書館』に問うと即座に返事が返ってくる。



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ショットガン

 近距離で使用し、撃った瞬間に大量の弾をばら撒く大口径の大型銃。弾の一粒一粒が小さいため、貫通力や射程に関してはライフルに大きく劣るものの、拡散する分命中率は格段に上がるため、すばしっこい小動物や飛翔する鳥類を撃つ際に重宝される。

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 やはりあるのか……確かにこれなら魔法が使えず、練度が低くとも鉱物アリの急所に当てることができるだろう。

 


「ちなみにこれの小型化はできるか? これなら練度の低い人間でも扱えると思うんだが……」

「すまんのう、今は魔法銃剣の量産で手一杯じゃ。それにまだまだ魔法銃剣も、この武器も改良が必要じゃからのう。連射の問題や、命中率がまだまだなんじゃよ」

「そうか……でも、二人のおかげで鉱物アリの攻略の目途が見えたよ。あと一週間後に鉱山のワイバーン退治をしようと思うが、それまでにいくつか実践レベルに仕上げれるか?」

「もちろんです!!」

「それだけ時間をもらえばいけるぞい。楽しみにしておけ」



 返ってくる二人の声は力強い。ボーマンはいい。だけど、ノエルは……本当にわかっているのだろうか? この武器はいずれか人相手にも使われるだろう。今更かもしれないが、俺はいたいけな少女にとんでもないことを頼んでいたのでいたのではないかと不安に思う。

 そんな俺にボーマンが耳打ちをする。



「変な心配をすんじゃないぞい。この子はお前さんが思うよりもずっと立派だ。難民時代に修羅場をくぐったからじゃろうな。命の重さを知ったうえでアスガルドのために頑張っているんじゃよ」

「そうか……余計なお世話だったかな……」

「そうでもないじゃろ。お前さんが領民の事をかんがえているのがわかって儂は嬉しいぞ、それよりももっと褒めてやるんじゃ」



 俺とボーマンがこそこそと話しているからか不安になってしまったのだろう。ノエルが心配そうな目をする。



「どうしたんですか、グレイス様? 何か私はやってしまいましたか?」

「いや、ノエルがすごいって話をしていたんだよ、えらいぞ。ちなみにこれは何て言う武器なんだ?」

「えへへ、ありがとうございます。これは花が咲くように弾が放たれるので「フラワーガン」となずけようと思います。どうでしょうか?」

「ああ……ノエルらしく可愛い名前だな」



 俺が褒めると彼女は幸せとばかりににこりと笑う。彼女の才能は本当にすごい。イースさんの私塾に通わせるのもありかもしれない。今度ガラテアとも相談してみよう。

 でも名前は可愛いが効果はえぐいな……とも思う。



「こんな武器があるなんて……これさえあれば……」



 魔法銃剣と蒸気自動車を見てアインが何やら難しい声をしてぶつぶつと呟いているのが気になった。まあいい。まずは鉱山のワイバーン狩りだな。

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