23.裏切者の扱い
ガラテアから準備ができたと呼ばれた俺は少し重い気分で建物に入る。ここは戦闘になった時に捕虜を入れるためにつくったのだ。まさか戦闘が始まる前に使う事になるとは思わなかったけどな……
「ガラテア様子はどうだ?」
「お疲れ様です、マスター。こういう汚れ仕事は私に任せてくれればいいんですよ」
「何を言っているんだ。お前の手だけを汚させるものかよ。俺は……戦うって決めた時から自分の手も汚す覚悟を決めたんだ。こいつは寝ているのか?」
俺は牢獄に吊るされて、気を失っているシルバを見る。彼はげっそりとして痩せこけており、服もびちゃびちゃに濡れているようだ。見るも無残な姿である。
「素晴らしい志ですね、マスター。そろそろ尋問を開始しようと思っていたところです。すぐに起こしますね」
「ひやぁ!!」
そう言うとガラテアはバケツに入った水を牢獄越しにシルバにぶちまけた。情けない悲鳴と共にシルバが目を覚ます。
「グレイス様、反省しています!! だから助けてください!! 五分おきに無表情に「……で?」って聞かれるのにはもう堪えられないんですぅぅぅぅ!!」
彼は俺を見つけると泣きながら助けを求めてきた。確かにガラテアは彫刻のように美しい事もあり、無表情に延々と同じことを何でも聞かれるのは相当怖いだろう。俺にとっては可愛いメイドさんであり護衛なんだけどな。
「だったら、なんで俺達を騙すようなことをしたんだ。こうなる事も考えていたんだろう?」
「その……街に行って仕事を探していたらアズール商会の人間に話しかけられて……それで……」
俺の質問にシルバは目をそらして気まずそうに答える。声が尻すぼみになっていくのを見て俺は内心ため息をついた。
金目当てか……
もしかしたら脅迫をされているのかもしれないが、外傷はなかったらしいし、それに……こちらに助けを求めるチャンスはすでに与えている。
「マスター、こいつは敵です。即座に殺しましょう」
「ひぃ、そんなぁ……グレイス様……お助けを……」
「ガラテア、落ち着け。シルバもそんなにおびえるな。俺の方から何とかするように言うよ。その代わり……アズール商会の作戦を全て教えてくれないか? それが条件だ」
ガラテアにすっかりビビったシルバはまるで俺を救世主であるかのように見つめてくる。アメとムチ作戦は成功のようだ。
「は、はい。わかりました!! アズール商会は自分たちの私兵と雇った冒険者を野盗のような恰好をさせて、この村を襲わせるつもりです!! それと……カイル王子も参戦するらしいです。計画では私がグレイス様たちの武器の情報や戦力を教えて、その情報が届き次第、村に攻め入る予定でした」
「へえ、あの兄貴がね、あの兄貴の近衛兵もいるのか?」
「すいません、そこまでは……」
申し訳なさそうにするシルバを無視して俺は考える。エドワード商会の情報網に引っかからないという事は旅人を装って何人か隣の街に来ているだろう。カイルのクソ兄貴の近衛兵はヴィグナとは違い、接近戦はそこまでではないが、魔法が得意な連中で固められている。おそらく少数だが、厄介極まりない。
ファイヤアローなどの遠距離魔法はまともに戦えばかなり厄介だが、ライフルならば射程外から打ち抜ける。ライフルに関しては隠した方が良いな。
「それで……情報はどうやって、あっちに伝えるんだ?」
「はい、合図をすると飼育された鳩が私の元にやってくるんでそれに手紙をつける予定でした」
「なるほど……」
「ひ!!」
俺はうなずきながら懐から銃を抜く。彼はその音に面白いように驚いた。まさか撃たれるとでも思ったのだろうか?
「これが秘密兵器の銃という武器だ。近距離でしか打てないが、弓よりも早く撃て威力も高い。こっちの戦力はそうだな……10人くらいで、ヴィグナがリーダーをやっている。何をしているんだ、早く手紙を書くんだ。ガラテア、彼に書くものを」
「はい、マスター!! 余計な事を書いたら……わかっていますね」
「え、あ、はい……」
ガラテアにすごまれたシルバは泣きそうな顔をして手紙を書き始める。俺は彼に少しの真実を混ぜつつ自分に都合のいい情報を与え、手紙を書かせた。そして、彼が口笛をふくと白い鳩がやってきたのでそいつに手紙をくくり付ける。
これで彼らは偽の情報に踊らされるだろう。
「グレイス様!! これで解放していただけるんですよね?」
「ん……ああ、そうだったな」
媚びるような彼の顔を見て、俺は難民を最初に迎えた時にガラテアに誓った言葉を思い出す。俺はみんなの笑顔を壊すような奴は裁くと決めたのだ。
「シルバ……お前は今回の戦いが終わったら処刑にするか、奴隷にするか決める。それまでここで大人しくしていろ」
「そんな約束が違うんじゃ……」
「先に嘘をついたのはお前の方じゃないか、心配しなくても食事はやるよ。ガラテア戦の準備をするぞ!!」
「了解しました。マスター。素晴らしい判断です」
背後から恨みの声が聞こえるが俺達は構わず外へと出る。そして……その翌日に戦闘がはじまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます