22.出戻り
俺の部屋には今、三人の人間がいた。俺と護衛のヴィグナ、そして……
「ああ、グレイス様……お会いしてくれてありがとうございます」
「シルバか……どうしたんだ? ここは下手したら戦場になるぞ。それが嫌だから逃げたんだろう」
俺は今、一度この領から出て行った元領民と会っていた。目の前の中肉中背の平凡な青年は、シルバと言いサラ達とかと同じタイミングで移民してきた人間だ。少し、臆病な性格で、農業をやっていたがアグニ達からここが戦場になると聞いて、戦いは嫌だと出て行ったのだ。
もちろん、ある程度の食料とお金も渡しているのでもう二度と会う事はないと思っていたのだが……
「はい、あれから色々と考えたんです。ですが、私が困った時や仕事をくださったグレイス様を見捨てて逃げるのは何かが違うと思ったのです」
「そうか……ありがとう……俺は領民に恵まれたな」
俺は大げさなまでに喜んで、彼に握手を促す。彼は怪訝な顔をしていたが、少し迷いながらも俺の手を握る。そして、そのまま『世界図書館』を発動させる。
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難民
シルバ
年齢:25歳
得意分野:農家
スキル:なし
情報:アスガルド領を出た後に、アズール商会に捕まり、彼らに色々と命令をされている。臆病な性格で強いものには逆らえない。
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やっぱりな……わかっていたことだがやはりつらい。俺は内心ため息をつく。元々は彼は臆病な性格だが、悪い人間ではなかった……だけど、アズール商会に脅されたのかもしれないし、金に目がくらんのか……そこまではわからない。そこまで彼を理解していない。だから俺は……最後のチャンスを与えることにする。
「なあ、シルバ……俺はこのアスガルド領が好きだ。俺を慕ってくれる領民を愛している。だから、敵対する者には容赦をするつもりはない。徹底的につぶすつもりだ。そして、俺の味方をするやつは絶対守るつもりだよ。一つ質問なんだが、この領を出てから何か変わったことはあったか?」
「いえ……特にはありませんでした。ただ、アスガルド領に危機が訪れるのにこのままでもいいのかと考え直しまして……」
「そうか、ありがとう。とりあえず今日は休んでくれ。あとで何をやってもらうか伝えるよ」
「はい、ありがとうございます」
お前はそっち側につくんだな……俺は失意に満ちた目でお辞儀をしているシルバを見つめて鐘を鳴らす。
するとガラテアがやってきてシルバに微笑みながら案内をする。幸い戦闘訓練に参加する前に去ったシルバにはガラテアは高性能な家事用ゴーレムだと思われている。彼も油断しているだろう。これから拷問をされるとも知らずに……
「そろそろ戦が始まるな……カイルのクソ兄貴の事だ。シルバには大した期待はしていないだろう。むしろ、情報を得たらボロを出す前にさっさと攻めてくるはずだ。その情報がガラテアの拷問によって歪まされたものとも知らずになぁ!! 飛んで火にいる夏の虫だぜ。はっはっはー、この戦い勝ったぞ!!」
「グレイス……つらいなら無理に笑わなくていいのよ」
どうやら俺の空元気は幼馴染の恋人様にはバレバレらしい。やりずらいなと思っていると後ろから柔らかい感触と共に温かい体温に包まれる。
「ヴィグナ……?」
「元気が出るかなって思って……嫌ならやめるけど?」
「このままでお願いします……」
そうしてしばらく俺は彼女に癒されていた。そして、俺は自分に冷徹になれと言い聞かせる。ヴィグナを筆頭に領民を守ると決めたのだ。裏切者に甘い顔をするわけにはいかないのだから……
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