21.模擬戦

ある日のお昼、俺達は建物の上から下を見下ろしていた。ここからは下が良く見えるため、下に潜んでる領民たちの様子がよくわかる。



「グレイス、そろそろみんな配置についたころよ。よく見ていなさい。私たちの訓練の成果を!!」

「マスター、ニールさん達はだいぶ戦い方が上達しましたよ。楽しみにしていてください。ゴブリン達なんかには負けませんから!!」



 二人とも誇らしげに配置についたニールたちを見つめながら言った。そう、今回はいわゆる模擬戦である。近くのゴブリンの巣に高級馬鈴薯を置いて、味を覚えさせておびき出しているのだ。今は守護者の鎖が機能しているから侵入はしてこないが、ガラテアいわく森の奥に気配を感じるので何匹か潜んでいるのだろう。

 


「では、行ってきますね。マスター!! ゆっくりと観戦していてください。二人っきりになったからってイチャイチャしてばかりじゃだめですからね」

「「な」」



 からかうように言って去っていくガラテアに俺達は顔をあわせて顔を真っ赤にする。いやいや、マジでそんな場合ではないのだ。

 今からニールたちの実戦訓練が始まるのだから……ガラテアは何も遊びに行ったわけではない。ゴブリン達をあえて侵入させるために、守護者の鎖の一部を外しに行ったのだ。



「ここまで魔物は来ないと思うけど、一応気を付けなさいね。まあ、何かあっても絶対私が守るけど」

「ああ、頼りにしてるぜ。マイハニー」

「え? ああ……その……任せなさい、ダーリン……でいいのかしら?」



 顔を赤くしながら、ヴィグナが返す。俺の軽口に乗ってきたぁぁぁぁ? いつもだったら「何くだらない事いってるのよ、死になさい」って冷たく流すだろうに……これがツンデレのデレ部分ってやつなのだろうか。かわいすぎない?

 そんな事をやっている間に銃声が響いてきたので俺は気を引き締める。ガラテアが開けた部分からゴブリン達が攻めてきたようだ。



「ライフルって言う武器は本当にすごいわね……近寄る前に一方的に倒せるなんて……」



 ヴィグナが、仲間を打ち抜かれ、何がおきているかわからないとばかりにあたりをきょろきょろと見ているゴブリンを指さして驚きながら言った。

 入り口は一つであり、そこにゴブリンが集中しているため物陰に潜んでいたニールたちが狙撃をしているのだ。

 だが、ライフルには連射ができないという弱点がある。そして、ゴブリン達もライフルを警戒し始めたのだろう。死んだ仲間を盾にしながら進んでくる。さすがゴブリン生き汚い。

 


 だけど……それは悪手だぜ。



 弓矢だったらその盾は意味があったかもしれない。魔法だって属性によっては被害を防げたかもしれない。だけど、俺達が使っているのはライフルだ。

 自分の仲間という盾を持ったため動きが鈍くなったゴブリン達を再度弾を補充されたライフルの弾丸が襲い掛かる。そして、ライフルは轟音と共に盾ごとゴブリンを撃ち殺すのだった。



「数でこちらが有利になりました!! 次は白兵戦に切り替えてください!!」



 ガラテアの声が戦場に響き渡り、それと同時に待っていたとばかりに、ニールたちが接近戦を挑む。混戦の中、剣とハンドガンを駆使して圧倒する。超ミスリル合金で作られた鎧や盾はゴブリン達の矢を弾く上に軽いため、機動性を保ったまま、ゴブリンを攻め続け相手の数をどんどん減らしていった。

 そして、俺が勝利を確信した時だった。一体の大剣を持った巨大なゴブリンが森の中からすさまじい勢いで走ってきたのだ。



「あれはゴブリンチャンピオンか!!」

「ええ、そうね、ゴブリンが大型に成長し、戦闘経験を経たゴブリンの戦士よ。あれが群れのリーダーかしら」

「さすがにまずいだろ? ゴブリンチャンピオンは近衛騎士でも一騎打ちだと負けるんだぞ。助けに行かないと!!」



 俺は落ち着いているヴィグナに言うが彼女は変わらず動かない。むしろ子供を諭すように言った。



「この距離じゃ間に合わないし、ガラテアがいるわ。それに……あなたはもっと自分が開発した武器と、領民を信じなさいな」



 決着は一瞬だった。白兵戦に参加しなかった狙撃手がライフルでゴブリンチャンピオンの眉間を射抜いたのだった。百戦錬磨のゴブリンチャンピオンも未知の武器には対応できなかったようだ。そしてその一撃が決定打になり生き残ったゴブリン達は我先にと逃げ出していく。そして、決着はつき戦場は歓声が響き渡る。



「グレイス様、見てくれましたか!! 僕たちやりましたよ!!」



 俺を見つけたニールが得意げな笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。彼も最初にここに来た時はただの農民上がりの難民だったというのに、すっかり成長したものだ。

 剣やライフルなどを抱えている姿はもうどこから見ても違和感はなく、立派な戦士である。



「ああ、よくやった。短い間でよくここまで強くなったものだな!! みんな聞いてくれ、今日は宴を開くぞ!! サラの店を貸切るから好きなだけ飯と酒を頼むといい。全部俺のおごりだー!!」



 俺の言葉に歓声が響き渡る。やっべ、ノリで言っちゃたけどどうしよ。とりあえず、後でサラに謝ろうと思いながら、俺は彼らを褒めたたえるのだった。

 これならアズール商会の傭兵といい勝負ができると思うだけど、俺は一つだけ引っかかっていることがあった。

 それはカイルの事だ。あの人は性格が悪く絡め手を好む。だから、あの人がからむとしたら何らかの策略を練ってくるだろう。そして、俺の勘は当たる事になるのだった。






 戦闘訓練も無事に終え、俺が鉱山に関しての報告書を読んでいるところだった。ノックと共にノエルが入ってきた。これはもう、ノックをしたら勝手に入っていいよといってあるからである。忙しいとノックの音にきづかないこともあるんだよな。



「ご主人様お仕事お疲れ様です!! クッキーと紅茶はいかがですか?」

「おう、ちょうど甘いものが欲しかったんだ。ノエルは気が利くなぁ」



 俺が感謝の気持ちとばかりにいつものように頭を撫でようとするとさっと避けられた。あれ、嫌われた? 俺なんかやったかな?



「ご主人様、そういう事をしているとまたヴィグナさんが拗ねますよ」

「あー、そうだな……気を付けるよ」



 俺が寂しそうな顔をしていたからだろう、ノエルが小さくため息をつきながら忠告をする。

 俺はこの前、ノエルの頭を撫でているところを見られたら、無茶苦茶不機嫌そうに睨まれた上、仕事が終わった後一時間くらい頭を撫でさせられたことを思い出す。

 あいつ結構嫉妬深いんだよな……俺が本当にほかの子を第一夫人にしたら絶対許さないでしょ。まあ、ヴィグナを第一夫人にするんだが……



「それと……以前出て行った領民の方がお会いしたいと言っているのですがどうしましょう?」



 おそらく、こっちが本命なのだろう。ノエルが少し言いにくそうに口にする。あー出戻りか……しかし、タイミングが怖いなぁ……俺は頭を抱えながらもこれからの事について考えるのだった。

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