60.ボーマンの工房
「それで、俺はクワを王に出したのにさ、そうしたらあいつはどうしたと思う? 目の前でぶっ壊しやがったんだぜ。信じられるかよ」
「まったくじゃのう。人間の権力者は本当に発明の大事さを分かっておらん。今度は儂の話を聞いてもらおうかのう。下に人間の街があるじゃろ? あそこの彫刻を作っていた時にな……」
「マスター無茶苦茶なじんでますね……」
「まあ、グレイスはあのボーマン殿の一番弟子じゃからの。ボーマン殿はよほど気に入ってるんじゃな。アスガルドで、飲んだんときもグレイスとヴィグナの話を楽しそうにしておったぞ」
工房に入ってから、俺は施設の説明を受けた後、ちょっとした雑談しているとやたらと盛り上がっていた。子供のころからボーマンと一緒に何かを作ったり、手伝いをしていたから、会話には困らないどころか、話が尽きないのだ。
ドワーフ独自の技術や発明あるあるトークなどまだまだ話したりない。
「それにしても、あのボーマン殿が弟子を……しかも人間の弟子を取るとは予想外じゃったの。グレイスの力になってくれと手紙ばかりもらってるんじゃ。わしらはなんでもするぞい」
「ったく、余計なことをしやがって……」
ボーマンが珍しく気を利かせていたことと、俺のことを大事に思ってくれたのがわかり、つい憎まれ口をたたいてしまう。
「じゃあ、この魔法銃剣を作ってくれるか? 設計図はもらってきたからわからないことがあったら聞いてくれ。しかし、なんでギムリがここにいるんだ?」
「ああ、元々儂もボーマン殿もこの工房にいたからのう。よかったらボーマン殿の作品も見てみるかの?」
「へー、そうなのか。ちょっと興味があるな……ガラテア悪いけど、ちょっとここで待っていてくれるか?」
「はい、マスターお任せください。ドワーフの皆さん、魔法銃剣に関してわからないことがあったら何でも聞いてくださいね」
笑顔で返事をしてくれるガラテアに感謝をして、俺がギムリについていく。そして、奥の部屋の扉を開けるとカビの匂いがむわっっと香る。
「なかなかひどい匂いだな……」
「まあ、わしがいたころも大掃除の時くらいしか、開けなかったからのう」
部屋は申し訳程度に整理された工具と、資料らしき本に、やたらと立派な酒瓶がいくつも並べられている。その中でもっとも目立つのは、壁に飾られているであろう、ボーマンの作品だろう。
精緻な彫刻のされた石像に、カンテラ、後はミスリルと石で作られた家の模型、あとは儀式用なのだろうやたらと装飾のついた鎧や剣がある。
「ボーマンはここにいるときはどんな感じだったんだ? お、これとか綺麗だな。ちょっとさわるぞ」
そんな中綺麗に輝くミスリル製のカンテラを見つけちょっと興味を引かれていじらせてもらう。なんか色々ギミックがありそうだ。
「おお、好きにせい。お前さんになら触れられてもボーマン殿も気にせんじゃろ。あの人はそうじゃな。まさしく努力の天才じゃったよ。彫刻などの腕前はさるものながら、金属の加工のスキルがドワーフ一番すごかった。彼のおかげで、我々ドワーフのミスリルの扱いは一つレベルが上がったといえよう。ただ、一つ欠点があってな……」
ギムリの話を聞きながら俺は、カンテラを掲げる。何らかの加工をしているのか煌びやかに光っているのに見惚れているといきなり底が抜けて、何かの小さい瓶が落ちてきた。咄嗟に受け止める。
「うお、なんだ。これ? って酒くせーーー!!」
「おお、これじゃよ。ボーマン殿は遊び心がすごいんじゃ。鉱山で作業中に酒を飲みたくなるんじゃが、昔酔っぱらってえらい事になったことがあっての。それ以来持ち込み禁止になったんじゃが、ボーマン殿は色々と工夫をして持ち込もうとしたんじゃろうな」
「お前らマジで酒を飲む事しか考えてないのかよ!!」
俺はギムリの話を聞きながらグレイス像の事を思い出す。確かに遊び心がやばかったなぁ……
「そして、心優しい人でもあった。誰かがお前さんの国にいかねばならんといわれたときに自分と真っ先に手を挙げたんじゃ。わしらは彼らとの別れを悲しみ、三日三晩共に酒を飲んだものじゃ。そして、その感謝として、わしらはこの部屋をそのままにしてあるんじゃ」
「そうか……」
彼はどんな気持ちで、故郷を去ったのだろうか……俺といた時はどんな気持ちだったのだろうか? 城にいた時の彼のつくったものには遊び心なんてか許されなかった。
あいつにとって俺といた時間は……
「そんな顔をするではない。ボーマン殿はおまえさんと一緒に暮らした時間は楽しかったと言っておったぞい、じゃから、一緒にアスガルドにいったんじゃろ」
「そうか……そうだよな。あとで、ボーマンの好きだった酒を教えてくれ」
何度俺は同じ過ちを繰り返すのだろうな。あいつは俺と一緒にいて楽しかったと言ってくれているのに……自分の愚かさに苦笑する。
今の俺にできることは一つだけだ。ドウェルを救って、ボーマンの好きな酒を一緒に飲みながらあいつと故郷の話をするのだ。そのために俺は鉱山アリなんかに負けるわけはいかない。
「それと、これはボーマン殿からじゃ。あの人がずっと大切にしていものでな。王から直接もらったもので大事にしておったんじゃ。何かの役にたつかもしれないからつかってくれとのことじゃ」
ギムリはそういうと、やたらと厳重な箱を差し出した。それを開けると何やら長い筒のようなものが入っている。
これはまさか……
俺が慌てて手に触れると脳内で『世界図書館』の声が響く。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
ショットガン
近距離で使用し、撃った瞬間に大量の弾をばら撒く大口径の大型銃。
一粒一粒が小さくなり空気力学的な安定性も低い散弾は、貫通力や射程に関してはライフルに大きく劣るものの、拡散する分命中率は格段に上がるため、すばしっこい小動物や飛翔する鳥類を撃つ際に重宝される。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
これは……ノエルと一緒に開発したショットガンの原型なのか? そして、自分たちで大型とはいえショットガンを開発したからか、いつもより手に入る情報が多い。
より仕組みなどが頭の中に入ってくる。この技術を使えばもしかしたら、もっと小型なものも作れるんじゃないか?
新しい知識に胸を熱くしながら俺はガラテア達の元へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます