61 資料館

 俺はソウズィの遺物を受け取って、工房を後にする。ガラテアはギムリたちと共に、魔法銃剣の制作のサポートをしてくれているようだ。

 そして、俺は鉱山アリについて研究資料の集められた建物へと向かう。その最中に竪琴か何かの音と共に、何かの歌が聞こえてくる。

 ふと、気になったので足を運ぶとアインが普段はあまり見せない優しい顔で、演奏をしていた。どうやら、ドワーフの子供たちに囲まれて英雄譚をきかせているようだ。



「そこでは馬鈴薯という植物を食料としており、領主のグレイス様が……」

「って俺の話かよ!!」

「え? グレイス様!?」



 思わず突っ込みを入れてしまい、隠れていたのがアインにばれてしまった。彼女は気まずそうにあははと笑っている。なんか最初に会ったときに随分と変わったな……

 ドワーフの子供たちはルビーと同じくらいの小柄だが女の子も男の子ぱっと見わかりにくいくらい可愛らしい顔をしている。これが何年かするとボーマンやギムリのような髭ずらのおっさんになるかと思うと本当に不思議である。



「アインこれは一体どういうことなんだ?」

「いやぁ、子供たちに今回来たグレイス様がどんな方か説明しようとしたんですが、せっかくなら英雄譚のようにした方が受けがいいかなと思いまして……」

「えーー、この人がグレイス様なの? ほそっちいじゃん」

「でも、頭はよさそう!! 人間は力はドワーフより弱いけど、その分は色々と知ってるってお父さんがいっていたよ」

「ねえ、このお姉さんがグレイス様なら鉱山アリから私たちを守ってくれるって言っていたけど本当?

「こら!! あなたたち失礼ですよ!!」



 好き勝手騒ぐ子供たちをアインがなだめようとするがちょうしに乗った子供たちは止まらない。俺は気にするなと目線で訴えてしゃがんで子供たちに声をかける。



「ああ、俺は弱いよ。だから、俺は知識と仲間に頼ってさ頑張っているんだ。いろんなことを学んでそれを生かして頑張って強い敵も倒してきた。だから、俺が……グレイス=ヴァーミリオンが約束しよう。この街をドゥエルを鉱山アリから守るってな!!」

「うわーー、お兄ちゃん!! かっこいい!!」

「はっ、お前のようなほそっこい男に何ができるっているんだよ……でも、本当に守ってくれたら認めてやってもいいぞ」

「ああ、任せろよ。俺の部下にしてくれってっていわせてやるよ。アインついでに道案内をしてくれるか?」

「はい、おまかせを」



 俺は子供たちに手を振って広場をあとにする。



「グレイス様先ほどの子供たちの無礼をお許しください。あの子の両親は鉱山アリに襲われ怪我をしたものなどもいるのです……」

「だから、俺が助けに来た時嬉しそうな顔をしたり、不安そうな顔をしていたんだな……」



 両親を傷つけられてショックを受けたのだろう。そして、俺に希望を見出す子と、絶望したままの子がいたわけだ。

 ますます、負けられなくなったなと思う。彼らの中にずっと鉱山アリへの恐怖の気持ちがあるのは良いことではないし、救ってあげたいと思うのだ。

 そして、しばらくするとアインの足がレンガ造りの一軒家で止まる。



「こちらになります。資料室になっていまして、鉱物や鉱山アリ、ストーンマジロなどの研究がされていたときの資料があります。ここならば鉱山アリの生態について色々と書かれたものがあるはずです。昔は管理人もいたのですが今は定期的にドワーフが掃除に入るくらいのようですね……」



 扉を開けるとかび臭い匂いが俺を襲う。まあ、ドワーフたちはあんまりこういうところには興味がないんだろうな……元は人間が管理していたが、その担当者もどこかへ逃げてしまったのかもしれない。

 そんなことを思いながらも、俺は机の前に大量の資料を並べた。



「グレイス様……その……結構な量ですよ。私も手伝いましょうか? それに古い資料の中にはドワーフ語で書かれている物もあるので解読に時間がかかるかと……」

「ん? ああ、大丈夫だよ。ドワーフ語だって読めるぞ。人と交流する前にドワーフたちの間で広まっていた記号文字だろ?」

「え? ドワーフ語をご存じなのですか!?」



 かつてのドワーフたちは簡単な記号のみを使っていたのだ。結局人間達と交流していくにつれてこっちの方が便利だからと、人の文字を使うようになったのである。



「城の書庫には色々な国の本があったからな、読んでいるうちに覚えたよ。俺は元々本を読むのが好きだし、俺の『世界図書館』はな。学べば学ぶほど詳しい情報を教えてくれるんだ。それと……」



 人とは違う観点で文明を発達させていたドワーフたちの生の資料があるのだ。目の前の未知の知識に思わず舌なめずりをしてしまいそうになる。



「俺は物事を調べるのが大好きなんだよ」

「は、はぁ……」



 もともと本ばかり読んでいたのだ。このくらいの量は苦でもない。むしろ、ご褒美である。そうして、俺はアインに少しひかれながらも本に手をだすのだった。

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