20.新しい乗り物

 俺は思わず目の前を走る鉄の塊を見て驚愕の声をあげる。大きな荷台を支えるかのように、それぞれ左右前後に合計四つの車輪がついており、荷台の上には金属の箱のようなものがあり、煙突から白い煙を吐いている。運転をしているだろう、ヴィグナが楽しそうに悲鳴をあげているニールを追いかけている。



「これは……」



 俺が癖で『世界図書館』に訊ねると、あっさりと返事が帰ってきた。



『これは蒸気自動車ですね……一気に文明のレベルが上がりましたね』

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 蒸気自動車


 蒸気機関を用いて駆動する乗り物。異世界ではエネルギーの問題であまり広まらなかった。

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 『世界図書館』の言葉と共に目の前の者への知識が入ってくる。というか世界図書館が世間話を振ってきたんだけど!?

 そう言えばスキルは成長するという……異界理解度の上昇や、最近未知のものに触れることが多い事もあり、使用回数が増えたため世界図書館のレベル自体が上がったのだろうか? 



「なあ、ヴィグナにもっと惚れてもらいたいんだがなんかいい手はないか?」



 返事はない、ただのスキルの様だ……何で無視をするんだよぉぉぉ!! その後も俺は『世界図書館』に色々と話しかけてみるが完全に無視をされた。



「ご主人様大丈夫ですか? その……ぶつぶつと何かつぶやいていますが……最近忙しかったからまさか精神的に……」



 ノエルが無茶苦茶心配そうな顔をして、俺の顔を覗き込んできた。確かにいきなりぶつぶつ言い始めたらやべえ奴だな。



「大丈夫だから!! 俺は元気だっての。それよりすごいな。あれはなんなんだ?」

「はい、あれは蒸気機関の力を応用して作った乗り物なんです。アスガルドってまだお馬さんがあまりいないので、いつもボロボロにしごかれた兄さんを運ぶのが大変だったので、何かいいものがないかとボーマンさんと相談をして作ってみたんです」



 そう言うとノエルが自慢げに蒸気自動車を指さした。いや、まだこっちの世界では蒸気自動車という存在は無いのだ。彼女とボーマンが命名するべきだろう。



「そうか……これで荷運びが楽になるな。ありがとう。これは何て言う乗り物なんだ?」

「はい、これはグレイス号って言います!!」

「あれ? なんか聞いたことのあるノリなんだが!!」



 また、俺の名前が使われてるーー!! なんかムチャクチャ嫌な予感がするんだけど……またロクでもない機能を付けられそうである。



「いや、そういうんじゃなくて……この乗り物は何て言うのかなって」

「ああ、そういう事ですか!! 実はまだ決めていないんです。よかったらグレイス様が決めてもらってもいいでしょうか?」

「いいのか? こういうのって作った人が決めるんじゃないのか?」

「えへへ、グレイス様の領地で作ったんですからグレイス様が作ったも同じですよ。ボーマンさんも納得してます……というか『わしはネーミングセンスがないから頼む』って言われました」

「そうか……じゃあ、蒸気自動車でどうだ? 蒸気の力を使って自動で動く車だからさ」

「はい、それで構いません!! 蒸気自動車一号は『グレイス号』に決まりました!!」



 どうやらグレイス号は決まりの様だ。色々と言いたいことはあったが、満面の笑みを浮かべているノエルに俺は何も言えなくなる。



「マジックストーンをいれるだけで動くなんて……魔法も色々と使い方があるのね……」

「ふひひ、こういう風にずっと追われるのも悪くないですねー」



 まあ、異世界と同じ名前だがそっちの方がいいだろう。そんな事を言っている間にヴィグナとニールがこちらへとやってきた。

 というかニールの笑みが何かきもい。最近どんどんやべえ性癖が開花してんな……



「それで……これはどういう原理で動いているのかしら?」

「はい、このマジックストーンに火の魔法を込めてもらって、ボイラーの水を沸騰させて蒸気の力を使って走っているんです」

「??  そう、すごいわね……」



 ヴィグナがキョトンとした顔でうなづく。絶対わかっていないな……まあ、蒸気機関に関してはわかっているのは『世界図書館』を使える俺と、自力で発明したボーマンやノエル、異世界の文明を知っているガラテアくらいだろう。



「はっはっはー、仕方ないなぁ。愚かで脳筋なお前に説明してやろう」

「ふーん、グレイスは私の事をそんな風に思っていたんだ……好きって言いながら内心では馬鹿にしていたのね……」

「その返しはずるくない? 愛してます。ヴィグナは愚かじゃないです。愚かなのは俺でしたぁぁぁぁ!!」

「わかればいいのよ」



 久々のやり取りだったと言うのに、今までにない反撃を喰らってしまった。ヴィグナのふふんとちょっと得意げな顔が憎らしいが可愛らしい。

 そんな俺達を見てノエルとニールが苦笑している。



「ノエルちょっとこのグレイス号を借りていいか?」

「ええ、構いませんがどうするんですか?」

「ちょっとデートにな、ヴィグナ、暇だろ」



 ちょうど二つほど彼女に相談したいことがあったので試運転がてら、俺はヴィグナを誘う。するとなぜかノエルとニールが顔を真っ赤にした。



「さりげなくデートに誘う……大人です……」

「その……エッチな事はしないようにね」

「お前らまじで俺を何だと思っているの!!」



 というわけで彼女とグレイス号に乗ってデート? をすることになった。

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