第4話 ターニングポイント

「あれはサイズ的に古竜だろうな……ヴィグナ、お前だけでも逃げろ。ボーマン悪いが一緒に地獄へ付き合ってもらうぞ。」

「竜種は年を取ればとるほど厄介だからのう……仕方ない……あの世でもわしの実験に協力するんじゃぞ」



 俺は護身用の剣を構えながら、ボーマンに声をかけると彼もまたやれやれと言いながらピッケルを抜いて俺の横に立つ。剣とか久々に抜いたわ。これから俺の人生が明るくなるかもと思った矢先これだ。よっぽど神様は俺を嫌いなのだろうか……

 火竜はドラゴンの一種だけあって強力な魔物だ。中規模の街なら壊滅させるほどである。古火竜(エルダーフレイムドラゴン)となると、正直王都の警備クラスじゃないと勝てないのではないだろうか?

 ただえさえ絶望的なのに、並大抵の攻撃を通さない硬い鱗に炎のブレスを吐くため、接近戦がメインの前衛職では不利なのだ。魔法剣士であるヴィグナとは相性が悪い。


 だからこそ、こうするのが一番いい手なのだ。それなのに反発をしたのは案の定ヴィグナだった。



「ちょっとそんな風に震えながら何を言ってんのよ!! 逃げるなら王子のあんたでしょうが、何で私を……」

「体の弱い俺を守ってみんな死ぬよりも、戦闘能力が高いお前だけでも逃げた方がましだろうが!! 自慢じゃないが、俺じゃああいつから逃げられても森で魔物に襲われて野垂れ死ぬぞ!!」



 俺は彼女に怒鳴り返す。これで俺を見限ってくれないかな? だいたいさ、元はと言えばさ俺だけが最果てに追放されてんだよ、お前らがこんな目にあってんのは俺のせいなんだよ。

 ヴィグナはもちろんのことボーマンだって、責めようなんてしない。ああ、くそ……俺はいいけどさこいつらは死なせたくないなぁ……でも、俺だけだと多分1秒も時間を稼げないんだよなぁ……



「ふざけないでよ……私が何のために強くなったと思ってんのよ。こういう時にあんたを守るためじゃない。なのに……」

「はっはっはー、俺がお前を助けたのは実はお前の力を利用するためだったんだよ、だから気にしないで俺を見捨てろっての」

「ばか……こんな時にくだらない嘘をつかないでよ」



 ヴィグナも俺の言う事が正しいという事はわかっているのだろう、その瞳に涙を溜め唇を強く噛み締めて悔しそうな目で古火竜を睨みつけている。



「マスター、あのトカゲを排除したいのですか?」



 そんな緊張感を破ったのはガラテアの一言だった。彼女はまるで、「今日の朝ごはんを食べますか?」といった気楽さで聞いてきた。



「え、そりゃあ、排除できるなら排除したいけど……」

「了解いたしました……トカゲの排除を始めます」

「おい、ガラテア!?」



 そう言うと彼女は俺が止める間もなく猛スピードで古火竜の方へと向かっていく。狂王の娘みたいなものって聞いていたしメイド服だから、家事手伝い用かなと思っていたが、戦闘用だったのか? 


 猛スピードで接近していくガラテアに気づいた古火竜が大きな口を開いて息を吸い込み始めた。俺は『世界図書館』からの知識を動員する。まずい、この動作は……



「ガラテア!! 鉄すらも溶かす炎のブレスだ。避けろぉぉぉ」

「拒否します、トカゲごときのブレスは私にダメージを与えません」



 そういうと彼女はそのまま大口を開いてブレスを吐いた古火竜につっこんでいき、その横面を全力で蹴飛ばす。すると轟音と共にすさまじい勢いで古火竜がふっとんでいった。

 待って!? ゴーレムってあんな強いもんなのか? いや、ガラテアはロボットなんだけどさ……



「なんじゃありゃーーーーーー、わしの知っているゴーレムとは比べ物にならんぞ!!」

「すごい……古火竜が相手になってない……あんなの剣聖でも無理よ……」



 ボーマンやヴィグナにとっても信じられないほどの強さだったようだ。やっぱり強すぎるよな……ガラテアが目が覚めたら、目の前の人間を殺せとか命じられてなくてよかったと俺は一安心をする。瞬殺されてたわ。


 何かを蹴飛ばしたり叩きつける音がその後も何度か周囲に響いたと思うと、少し土埃に汚れたガラテアが平然とした顔で戻ってきた。



「マスター、古火竜の撃退に成功致しました」

「おお、ありがとう……てか、ガラテア強いな」

「父の護衛もかねて造られましたから。マスター!! それよりもご褒美をいただけますか?」



 俺の目の前に立つとなぜか彼女は目をつぶって、俺の方に頭を差し出した。え、ご褒美って何をすればいんだよ。世界図書館に聞くが答えがない、くっそ役に立たないスキルだぜ。

 あれか……まさか目をつぶるって事はキスをすればいいのか? 確かに美しい顔だけど、こういう事は正式に交際をしてからだな……



「説明不足でした……父の様に頭を撫でてくださると嬉しいです」

「え、ああそうだよな……親子だもんな……」



 あぶねえええ、キスをして軽蔑をされるところだった。とはいえ、俺も女の子相手にそんなに頭を撫でたことはない。

 一回女の子にモテる本を読んだのでヴィグナに試したら「女の子の髪を触るな!!」って怒られたんだよな。その後、「訓練直後だけど匂いとか平気よね……」って怖い顔してぶつぶつ言っていたヴィグナを見て俺はそのモテる本の知識は封印したのだ。


 それはさておきだ、今回はガラテアからのおねだりである。少し恐る恐るとしながらガラテアの頭を撫でるとまるで人間の様なさらさらの髪の感触に俺は驚く。肝心の彼女はと言うと、幸せそうな顔をして、目をつぶっている。



「懐かしい感覚です。嬉しいを感知いたしました。ありがとうございます。マスター」



 そう言うと彼女は満足そうな顔をしてお辞儀をした。可愛いな、この子!! 素直に感謝されたりするのが久しぶりすぎて感動していると、何やら視線を感じたので振り向くとヴィグナが不満そうに唇を尖らせていた。



「何をにやにやしているのよ、いやらしい」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「この小娘はゴーレムと違って素直じゃないのう、私も頑張ったから頭を撫でてとでも言えばいいじゃろうに……」

「誰もそんなこと言ってないでしょう!! 他に周囲に魔物がいないか見てくるわ」



 そう言うとヴィグナは顔を真っ赤にして、外へと出て行ってしまった。なんで怒ってるんだあいつ。



「ツンデレを感知致しました。ほっこりしますね、マスター」

「え、ツンデレ? ああ、そうだな」



 異界の言葉だろうか、なんかツンって響きが攻撃的だし、凶暴って言う意味だろう。あいつは口は悪いけど優しんだけどな。まあ、徐々に仲良くなれば誤解も解けるだろう。



「それでは、ここを統治するマスターに見せたいものがあります。ついてきていただけますか? 我が父の工房となります」



 彼女の言葉に俺はボーマンと目をあわせる。一瞬罠の可能性も考えたが、ガラテアが俺に危害を加える可能性は低いだろう。彼女がいなければとっくに死んでいたしな。

 それに異世界の知識というのにはとても興味がある。ガラテアのような強力で、頭のいいロボットを作るくらいなのだから。



「ああ、案内をしてくれるかな?」

「はい、こちらへ、お連れ様も一緒にどうぞ」

「おお、楽しみじゃのう、狂王の遺物の話は聞いておるからな。ひょっとしたらお宝があるかもしれんぞ」



 そうして俺達は彼女についていくのだった。そこでの出会いが俺の人生の大きなターニングポイントになる事も知らずに……

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