第2話 辺境の地アスガルド
広大な森の中俺達は歩いていた。木々が生い茂っており、太陽の光すらも遮断されている。
「ここは地獄だ……やっぱり帰ろうヴィグナ、ボーマン……どっか新しい街で名前を捨てて生きよう」
「あんたね……さっきの威勢はなんだったのよ、私の感動を返しなさいよ、バカ」
そう言うと彼女は魔物の返り血を拭いた後に剣を鞘にしまう。いやいや、なんなんだよ、ここ。魔物がむっちゃ出てくるんだけど!! 辺境ってレベルじゃねーぞ。ダンジョンかよ。誰だよ、俺とボーマンがいれば大丈夫って言った奴? ヴィグナがいなかったら速攻魔物の餌だったわ……
「中々えぐいのう、これは先が思いやられるわい。それで道はあっているのかのう?」
「ああ、地図が古いから多少の誤差はあるが問題はないぞ。とりあえず水辺の近くにある狂王の館を拠点にするとしよう。屋根があるだろうし、テントよりはマシだろ」
「でも、こんなんじゃ、方向感覚が狂っちゃいそうよね」
俺は『世界図書館』を使い当時の地図を脳内で開きながら、ボーマンに答える。地図上ではここらへんは道が整備されていたようだが、今は見る影もない。
だが、俺の顔に絶望はない。信頼できる二人もいるし、俺のスキルもある。そして、俺は地面に咲いている青色の綺麗な花に触れスキルを使う。
『水月花 水源が近くにある場所にのみ咲く花。その葉には治癒の効果があり、ポーションの原料にも使われる』
これが俺の『世界図書館』の力の一つだ。触れたものがどんなものかを教えてくれるのである。そして、実際に俺が触れたものならば、俺が知らない物でも教えてくれるのだ。もちろんなんでも教えてくれるわけではない、手に入れる事のできる情報は俺の知識レベルに準ずる。
今回も俺が料理に詳しければ調味料としての使い方などの知識も手に入ったかもしれない。今度はそっちも勉強してみるか。
「ほら、見ろよ、この花は水源があるところでのみ咲くんだ。こいつがあるってことは川が近いってことだからな、道はこっちで正しいはずだ」
「へぇー、流石ね、グレイス。本当だわ、水の音が聞こえてきたわよ」
ヴィグナの言う通り、しばらく、歩くと、水が流れる音が聞こえてくる。よっしゃ!! 正直ちょっと不安だったぁぁぁぁぁ。俺の知識はちゃんと役に立っていることに内心ガッツポーズをしながら先へと進む。
「ほう……これは中々のものじゃな。だからこそ壊れているのが惜しい。まあ、修理のし甲斐はありそうじゃがのう!!」
木々の開けたところに行くと、そこには朽ちた屋敷が寂しく建っていた。元は綺麗な白い建物だったのだろう。壁には蔦が巻き付き、魔物か何かに荒らされて壁や天井に穴が開いているのが少し悲しい。
「ゴーレムとやらがいるかもしれないし、ここからは警戒しなきゃね……雷帝の腕よ、我が願いを聞き届けよ」
「おお、流石近衛騎士最強、自慢のミスリルの剣はやはり魔術と相性がいいな」
「ええ、ミスリルの質次第だけど、一回魔術をかければ一日もたせることもできるのよ」
彼女の言葉によって雷が剣にまとわりつく。彼女がもつ剣は近衛騎士最強の証ともいえる最高峰のミスリルで作成された剣だ。何とも心強い。
「あれは……」
「何かしら? 人?」
俺がヴィグナの後からおそるおそる屋敷に入ると、そこは広間になっており、その中央に人型の像がまるで眠っているかのように、横たわっていた。その真っ白な肌と銀色の髪の毛は、人間離れしていてどこか神秘的だ。しかし、なんでメイド服を着ているのだろうか?
この服装と、優れた容姿から。もしかしたら、彼女は噂に聞く凶悪なゴーレムではなく、家事用のゴーレムなのかもしれない。
「おお、ゴーレムじゃーーー!! しかも何とも美しい!! いくぞ、坊主ども!!」
「ちょっとボーマン!? 先に行かないでよ、危ないでしょう」
「いやいや、誰か俺の護衛してくれっての、魔物に襲われたら死んじゃうからな!! 貧弱なんだからな!!」
目を好奇心で光らせながら、ゴーレムに駆け寄っていくボーマンに俺とヴィグナも慌ててついていく。「すごい、どんな技術を使えばここまで人に寄せれるんじゃ……」とボーマンが熱心にぺたぺたと触っている。
はたから見たら、少女にセクハラをする髭面おっさんだなぁと思いながら俺もゴーレムを見つめる。
全身は何かの金属で作られているのか、傷一つない。そして、目を瞑っているというのに、まるで極限の美というべきか、とても美しい顔立ちをしている。
「確かにすごいな……」
俺もボーマンほどではないがこういうものには興味があるせいで、つい引き寄せられるように触れた。本当にすごい、確かに人間を模したゴーレムというのはあるがここまで美しく、かつ人間に近づけた造形のものは聞いたこともない。
金属の冷たい感触が俺の指先を刺激した瞬間だった。
『異世界の知識に触れました。知識の一部を解禁致します』
「うおおお……」
脳内に『世界図書館』の声が響くと同時に俺の中で新しい本棚が開かれる感覚がした。それと同時に触れたゴーレム、いや〇〇〇〇の知識が入ってくる。
目の前のソレの知識を得た。でも、これはいったい何なのだ……こいつはゴーレムなんかじゃないぞ。
「ほら、ヴィグナも早く魔力を込めんか!! これは素晴らしいゴーレムじゃぞ!! 動くところもみてみたいんじゃ」
「さっきからやっているのよ、でも、全然動かないの。壊れているんじゃないかしら?」
二人の声がどこか遠くから聞こえる。俺は新しい知識を得た衝撃に頭を押さえながら、おそるおそる提案をする。
「違う……ヴィグナ、彼女には魔力じゃないんだ。雷を与えてあげてくれ」
「は? 雷系魔術を使えって言うの? まあいいけど、壊れないでしょうね。雷帝の腕よ、我が願いを聞き届けよ」
彼女の詠唱と共に右手から雷光が放たれそのまま目の前のソレに当たるとまるで吸収するかのように、吸い込まれていく。
予想外のことにヴィグナとボーマンがこちらを見つめるが、そんな目で見るなよ。俺も正直こうなるなんて知らなかったんだって……
そして、しばらくすると目の前のソレの目が一瞬光ったと思うとそのまま立ち上がる。
「うおおお、ゴーレムが立ち上がったぞ!! やるではないかヴィグナ」
「グレイス何でわかったの? すごいじゃないの!!」
「ボーマン……こいつゴーレムじゃないぞ、こいつは……」
俺がソレの正体を言おうとすると、ソレは起き上がりまるで人間の様に優雅なお辞儀をして見せた。そして、人間のような笑みを浮かべてこう言った。
「おはようございます、私の名前はガラテアです。そして、一つだけ勘違いを訂正させてください。私はゴーレムではなく、ロボットです。ここの領主になる方はどなたでしょうか?」
「「ロボット……?」」
ヴィグナとボーマンが何わけわからない事を言っているんだっていう顔をして異口同音にオウム返しをした。
そう、彼女は……ゴーレムではなく、ロボットなのだ。いや、ロボットってなんだよ。
『ロボットとは人の命令や願いをかなえるために何らかの行動や作業を自律的に行う装置、もしくは機械のことです。この世界とは別の世界、つまり異世界の技術です』
「それはさっき、あのロボットに触れた時に知ったよ。それより、別の世界ってなんだ……異世界だと……?」
俺の疑問に『世界図書館』が答える。だけどさ、異世界って何だよ……意味不明の言葉に俺は呆然と聞き返す事しかできなかった。
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