外れスキル「世界図書館」による異世界の知識と始める『産業革命』
高野 ケイ
第1話 それは開拓という名の追放劇
「グレイスよ、貴様に渡す領土が決まったぞ、最果ての地アスガルドだ。さっさと荷物をまとめて出ていくがいい」
「なっ、あのような辺境の地ですか……あそこはかつて狂王が統治していた不毛の地ではないですか? あんまりです、父上!!」
王座に呼ばれ、5年ぶりに話した父の第一声がこれだった。俺の悲痛に満ちた声に父と背後に控えている兄二人も同様に唇をゆがめ笑った。
「仕方ないんじゃないかなぁ、グレイス、お前は俺のように剣術も使えないし、カイルのように魔法だって使えない。くだらない知識をもってるだけの『口先だけの知識バカ』なんだからさ」
「所詮は妾の子だもんなぁ……まったく、お前のようなやつがいるから僕達のハードルが下がってたすかるよ」
先に口を開いたのが、長兄のゲオルグ。スキルはすべての剣技を使うことができるという『剣聖』を持っておりこの国一の剣士と言われている。そして、俺を妾の子と笑ったのが、次男のカイル。すべての属性の魔術を使うことができる『魔聖』のスキルを持つ、この国で最優の魔法使いと言われている。
二人とも俺とは違い次期王候補として名高く。力が全てのこの国で、戦闘力の無い俺の扱いはかなりひどく、こんな風に馬鹿にされることも日常だ。
「ゲオルグはもう貴様の年では、戦場に出て敵将の首を取っていたぞ、カイルも貴様の年で新しい魔法を開発していた。それで……グレイス、貴様は今まで何をやっていたのだ?」
「それは……俺はクワの改良を行いました。見てください、従来は木であるこの部分に金属を加えることによって強度と……」
「下らん!!」
部屋中に響くほどの怒声に、俺は思わず持ってきたクワを落としてしまい、金属の落ちる音が響く。
「そんなことは王族のやることではない、下民のやることだ。我ら王族は民に恐れを抱かれるように強くなくてはいかんのだ!!」
「ですが、俺のスキル『世界図書館』に戦闘能力はありません、その代わり、誰よりも知識があると自負しています」
「ならばその知識で、剣術や魔法でも使えるようにすればいいではないか?」
「それは……」
父の言葉に俺は何の反論もできなかった。俺のスキルである『世界図書館』が教えてくれるのは、あくまで知識だけだ。体が弱い俺は剣を使いこなせず、魔力が少ないため、魔法も使えなかった。
これでも、昔は父も優しくしてくれたし、兄達も普通に接してくれていたのだ。体こそ弱いものの、物覚えの良かった俺は、次男であるカイルを凌駕する魔法使いになると誰もが期待していた。
だが、年を重ねても、知識は増えるが魔力は増えず、スキルも『世界図書館』という非戦闘系のスキルだった事が判明し、俺の価値はゴミ同然になった。それ以降『口先だけの知識バカ』と呼ばれ、父は俺を無視し、兄達は俺を馬鹿にし続けた。
それでも、昔の家族として暮らした思い出があったから、俺はたくさん勉強して知識を活かすことによって、この国で役に立てるという事をアピールしようとした。だが……
「大体貴様の様な『口先ばかりの知識バカ』が何の役に立つというのだ。農作物が無ければ他国から奪えばよい、属国の技術が高まれば、吸収すればよい。この世は力だ。力が全てなのだ!! 貴様のような無能が我が血をひいていると思うと反吐が出る」
「ああ……」
その一言と共に放たれた父の魔術によって俺のクワが砕け散った。俺の努力の結晶は陽の目を浴びる前に破壊されたのだった。
そう、この国は力こそが全てなのだ。足りなくなったものは他国から奪えばいい。わが国はそのやり方で発展してきた。そのため文官よりも武官の方が圧倒的に優遇されており、王族に必要な力も、知識ではなく武力とされている。
「まあいい、貴様のような無能を見るのも、今日で終わりだ。さっさとアスガルドを開拓してこい、人が住めるようになるまで帰ってくるなよ」
父は破壊されたクワを手にしてうなだれている俺に吐き捨てるように言って部屋を出て行く。もう、何も話すことなどないというように……
「よかったじゃないか、お前の知識を使って開拓すればいいんじゃないか? まあ、あそこは魔物が多いからそんなクワを持っていても餌になるだけだろうがな」
「ははは、ひどいことを言うなよ、兄さん。まあ、これからは俺達二人兄弟で仲良くやっていこうよ。邪魔者も消えるみたいだしね」
そう言って二人の兄も去っていく。だからこそ気づかなかったのだ。うなだれたふりをしながら俺がニヤリと笑っていたことを……
王都から開拓という名の追放をさせられて、一週間ほどの時間がたっていた。あたりの風景はだいぶ変わっていた。地面もろくに管理されておらず揺れは激しいし、街の規模もどんどん小さくなっている。
「ふう、もうちょっとでアスガルドか……」
「ほっほっほ、わしもいろんな色んな所は行ったがアスガルドは初めてじゃのう、一応近くの街にはいたんじゃがな」
そう言って、俺の独り言に反応をしたのは、人間で言うと30歳後半くらいの土のような茶髪に髭面の男で、ドワーフのボーマンだ。
ドワーフという種族は人より小柄でずんぐりむっくりしている体型をしているが、手先が器用で何かを作るのが好きな種族だ。彼も例外ではなく、今も俺と話しながら何やら金属をいじっている。
「それにしても、本当に俺についてきてよかったのか? 国のお抱えの鍛冶屋なんてそうそうなれないんだろ?」
「ふん、あの王はダメじゃよ、武器を作れとしか言わんし、新しい事をしようとすれば余計な事をするなとキレる。現に坊主の案で作ったクワもろくに説明も聞かないで破壊したんじゃろ?」
「ああ、そうだな……くっそ、今思い出してもムカつくな。壊すことはないだろうに……」
俺があの時の事を思い出してムカムカしていると御者台の方から女性の声が聞こえてくる。
「ちょっとボーマン、そんな鉄くずをいじってないでそろそろ代わってよ、お尻がいたくなってきたんだけど」
「しかたないのう、これじゃから貧相な小娘は……」
「誰が貧相よ、あんたの髭を燃やすわよ」
「おーこわいこわい。これじゃから最近の若いもんは……」
そんな会話をしながら、ボーマンと入れ替わりにこちらにやってきたのは水色の長い髪をした軽装の鎧を着こんだ少女だ。つり目の綺麗な顔立ちの美少女である。もしも、女性らしい恰好をして街を歩いていれば結構な頻度で声をかけられるかもしれない。黙っていればという条件付きだが……
「それで……アスガルドってどんなとこなのよ? 私達以外誰もついてこなかったんだけど……よっぽどひどいとこなんでしょう? それともあんたの人望がないのかしら」
「うっせえよ。俺に人望がないことくらいわかってるっての!! てか、俺仮にも王族なんだが!! 敬語くらい使えよ!?」
「何言ってんのよ、子供の時からのつきあいじゃないの。それに私だって一応王国の近衛騎士だったんだからね。そこそこ偉いのよ。それなのにあんたについてきてあげたことに感謝しなさい」
「いや、俺が誘ったのはボーマンだけなんだが……勝手についてきたんじゃねーかよ……」
「あ? なんか言ったかしら?」
「ひえ……近衛騎士最強のヴィグナ様も来てくださって本当に嬉しいですーーーー!! もう、感動で泣いちゃいそうです。ぴえん」
「ふふん、わかればいいのよ。で、アスガルドってどんなとこなわけ?」
ヴィグナは俺の言葉に得意げな笑みを浮かべると再度俺に聞いてきた。せっかくなので俺はスキルを使う事にする。脳内で、大量の本棚が思い浮かぶ。
『世界図書館よ、アスガルドの情報を開示しろ』
『わかりました、概要に関する資料を開示致します』
俺の言葉に脳内から返答があり、情報が脳内に入ってくる。これが俺のスキル『世界図書館』である。事前にアスガルドについて調べて知識として溜めておけば、それに付随した知識も知ることができる上に、その資料をいつでも見ることができるのだ。
そして、世界図書館の力はそれだけではない。まあ、それに関しては後で説明するとしよう。
「アスガルドはかつて狂王ソウズィが支配していた地だな。突如現れた彼は、空を飛ぶ鉄の塊や、爆発する鉄の塊を召喚する魔法などを使い、この地を支配して国を作った」
「ああ、狂王ソウズィは聞いたことあるわね、確か様々なものを作り出すことができるけど、その作り方は誰にも説明をしなかったんだっけ、そして、その国はソウズィが死んだあとすぐ滅んだんでしょ?」
「ああ、結局彼の技術を受け継ぐものはいなかったからな。ソウズィを失ったその国は急速に力を失い滅んだんだよ。まあ、そこまでならいいんだが、その先には続きがあるんだ。その国には、一体のゴーレムがいてな。そのゴーレムは強力な力を持っていて侵入者を片っ端から殺していたらしい。だから、あの地にはいつの日か誰もこなくなったんだ。そして、人が寄り付かなくなった代わりに魔物が寄り付くようになり、最果ての地なんて呼ばれているんだよ」
「ふぅん、そのゴーレムとちょっと戦ってみたいわね」
俺の言葉に彼女は目を輝かせている。いや、俺の話を聞いてた? 絶対やばいんだけど、そいつ……それに、ゴーレムも永久的に動けるわけではない。魔力を与えなければ、一生は動けないのだ。
そして、ここ何十年はゴーレムの噂も聞かないようだ。もう、どこかで機能停止しているのだろう。
「でもさ、グレイス、本当にそんなところを開拓する必要なんてあるの? というかあんたのことなんだからわかっているんでしょう? 王様達はあんたをその……」
「無能はここで死ねっていうことなんだろうな。誰も俺が本当に開拓できるなんて信じちゃいない」
俺の言葉にヴィグナが悲しそうに顔を伏せる。ああ、まったくそんな顔をしないでくれよ。親父はろくに話しかけてこないし、兄たちは力のない俺を馬鹿にするだけだ。別にショックではない。いつの日か辺境に送られることは覚悟をしていたのだ。流石にここまでやばい所だとは思わなかったけど……
「だったらさ、逃げちゃわない? あんたの事をばかにしているやつらのいう事なんて気にすることないでしょ。私とボーマンがいれば食べるのに困らないくらいなら稼げるわよ」
彼女は真剣な瞳でこちらを見つめてくる。もしかしたら俺がアスガルドに開拓に行かされると決まってからずっと考えていたのかもしれない。
だからこそ、俺は彼女の目をまっすぐ見て自分の答えを伝える。
「それはできんな、俺もみそっかす扱いとはいえ王子として育てられたんだ。あのクソ親父や、兄たちは置いておいて、この国の民のお金で飯を食わせてもらい、教育も受けさせてもらった。俺にはその恩を返す義務がある。それに、もしも、俺がソウズィの遺物を発見し使いこなせれば、強力な技術力を手に入れることが出来るしな」
俺の言葉は半分は強がりだ。だけど、知識を力にする『世界図書館』ならば、ソウズィの遺物を使えるのではないかと俺は睨んでいる。そして、ソウズィの遺物は何も武器だけではない。
「ふーん、あんたって本当に馬鹿よね……でも、その……そういう所嫌いじゃないわよ」
「それに……頑固な父もいない、嫌味を言う兄達もいない!! この地では俺がトップだ。したい事の試し放題だぞ!! 誰が口先だけの知識バカだ。力しか信じないあの馬鹿どもが『グレイス様助けてください』と泣きつくような街をつくってやる!! 喜べボーマン!! お前の発明も自由だぞ!! 一日三回までなら爆発も許すからな!!」
「ああ、流石グレイスじゃ、話がわかるのう。楽しみにしておるぞ、そのために城からたくさんの素材をもってきたんじゃ。あそこでは爆発させたら怒られるからのう」
「あんたらね……もう心配した私がばかみたいじゃないのよ、でも、そっちの方があんたらしいか」
俺達が楽しそうに笑っていると、その様子を見た彼女が呆れながら言うが、その瞳はどこか嬉しそうだ。今なら言えるかなと思って俺はぼそりと本音をもらす。
「ヴィグナ……その……ありがとう、正直俺とボーマンだけじゃ心細かったから助かったよ」
「な……いきなり何言って……ふん、私に感謝をしなさいよね!!」
そう言ってそっぽを向くヴィグナの顔は真っ赤だったけれどきっと俺の顔も真っ赤だったんだろうなと思う。
そんな俺達をボーマンが何やら暖かい目で見つめていた。確かに追放はされたけれど、こいつらと一緒ならばどこまでもやっていける。そう思えた。
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カクヨムコンテストように新作をあげました。
読んでくださるとうれしいです。
『せっかく嫌われ者の悪役領主に転生したので、ハーレム作って好き勝手生きることにした~なのに、なぜかシナリオ壊して世界を救っていたんだけど』
本人は好き勝手やっているのに、なぜか周りの評価があがっていく。悪役転生の勘違いものとなります。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667726111803
『彼女たちがヤンデレであるということを、俺だけが知らない~「ヤンデレっていいよね」って言ったら命を救った美少女転校生と、幼馴染のような義妹によるヤンデレ包囲網がはじまった』
ヤンデレ少女たちとのラブコメ
https://kakuyomu.jp/works/16817330667726316722
よろしくお願いいたします。
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