34.

「これまでの銃では難しいのですね……」

「おそらく鉱物アリ相手には威力が足りん。眼や口を狙えればいいんじゃがな……奴らは動きも結構すばやいからのう……」

「そこまでの精度はないよな……大砲をぶっ放せればいいんだが……固定しないといけないのがネックだよな」

「防衛には使えるかもじゃが、攻める時には使えんからな……」



 ノエルを呼んだ俺とボーマンは三人であーでもない、こうでもないと意見を交わしていた。現状の銃や、最近開発した大砲は硬い相手と、鉱山内で戦うには不向きなのである。

 魔法銃剣を持っているヴィグナや、身体能力が人間離れをしているガラテアくらいしか決定打は与えれないのが現状である。これでは数の暴力でゲオルグのクソ兄貴には勝てないだろう。カイルの部下も引き入れているようだし……



「大砲の問題は反動と移動方法ですよね? それならば最近作った蒸気自動車にとりつけるのはどうでしょうか?」

「おお、いい考えじゃのう、ノエル。じゃが、鉱山は段差があって大して動けんじゃろ……」

「それなら石をたくさん乗せたトロッコに大砲をつけるのはどうでしょうか……? うーん、あまり効果的ではないですよね……」

「いや、蒸気自動車に乗せるというのは考え自体は悪くないと思うぞ……なんかいいアイデアがあれば……」



 要は蒸気自動車を鉱山でも走れるようにすればいいのだ。何かないかと唸っていると、ノアが作ったゴーレムが思い出された。あの六本足のゴーレムは地面の凸凹でも歩きやすいように、犬型は止まることはできないが速度重視のゴーレムらしい。

 つまり蒸気自動車も車輪部分を変えればいいんじゃないだろうか? 宝物庫で見たあれも車輪の一種だろう。俺は半ば祈りながら世界図書館に今回につかえそうなものがないか問いかける。

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無限軌道

起動輪、転輪、遊動輪を囲むように一帯に接続された履板 の環であり、起動輪でそれを動かすことによって不整地での車両の移動を可能にするもの

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 あったーー!! 宝物庫で謎の車輪に触れたおかげだろう。蒸気機関車とやらはわからないが、車輪の派生に関しては検索できるようだ。

 俺は即座に図面に書き起こす。



「ボーマン、ノエルこれを見てくれ。これなら鉱山でも動けるんじゃないか?」

「芋虫さんみたいですね……流石、グレイス様です!!」

「なるほど……確かにこれなら……うむ、蒸気自動車用に試しに作ってみるぞい」

「私は武器の方にもっといいアイデアがないか考えてみます!!」



 俺の言葉に感化されたのか二人ともやる気が起きたようだ。ボーマンはさっそく図面とにらめっこをはじめ、ノエルもそれのサポートに回る。

 あとは二人に任せておけばいいだろう。



「じゃあ、二人とも頼んだぞ」

「おう、任せろ」

「はい、必ずやいいアイデアを考えて見せます!!」



 俺は二人を激励して執務室に戻る。すると溜まっている書類を処理していたノアと目が合った。



「書類作業を任せてしまってすまないな……魔法を使える人間の目途はどうだ?」

「それですが……今のところは三人ですね……結構な給金を支払うと書いているのですが、やはりむずかしいようです」


 

 やはり芳しくはないようだ……まあ、魔法自体が貴族だったり、貴族崩れの冒険者が使うものだからな……魔法を使うには一定の知識が必要なため平民には使えるかどうかもわからないものに金をかける余裕はないのだ。ここらへんはスキルと一緒である。

 とりあえずは戦える人間には簡易的な魔法剣銃を渡して鉱物アリ対策にしようと思ったんだけどな……



「ちなみにその三人の前職はわかるか?」

「はい、冒険者が二人と、私の魔法の先生にきてもらう事にしました」

「え? いいのか……ノアの家の先生って事は結構な立場なんだろ?」

「えへへ、グレイス様のためにちょっと我儘を言ってしまいました。でも、結構乗り気でしたよ。腕は確かなのでご安心ください。教えるのがとてもうまいんですよ!!」

「そうか、ありがとう。ノア……」



 ちょっと得意げに胸を逸らすノアに礼を言う。てか、そんなことすると揺れる胸が俺の目に毒なんだよな。

 彼女はアスガルドを第二の故郷と言ってくれていたが、ここまで力を貸してくれるとは……もちろんこの件にはレメクさんも了承してくれているという事だろう。魔法を使える人材の流出はかなり重要だからな。



「なあ、ノア……魔法ってさ、素質がある人間が、武器に魔力を込めるだけならどれくらいでできるようになるものなんだ?」

「そうですね……1属性で……方向性を決めないんだったら1週間ほどで最低限はできるようになると思いますよ」



 俺は彼女の答えに笑みがこぼれる。だったら、俺の考えていることを実現にするにはギリギリ間に合うな。

 これで魔法を使える人間を増やすことが出来るかもしれない。



「そうか、ノアの先生がアスガルドに来たら歓迎パーティーをしよう。最近領民も増えたから交流もしておきたいしな」

「はい、手配しておきますね・うふふ、せっかくだから、私のゴーレムも先生にみてもらいましょう。あ、お祭り仕様のゴーレムを作るのもありですね」



 久々に先生に会えるからノアはいつもよりテンション高めだ。そして、俺も計画の準備を始めるのだった。

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