33.

 俺はボーマンが作業をしている工房へのとびらをノックする。しばらく無言が続いた後に返事が返ってきた。



「邪魔をするぞ」

「いつもはわざわざノックなんぞせんだろうが、勝手に入ってくればいいじゃろ」



 俺が部屋に入るとボーマンは何かの設計図を書いていた。それを見ると巨大な銃身に火薬の量が書かれている。

 さっそく俺が頼んだ武器を作ってくれているのか……故郷を荒らしている魔物への復讐心だろうか。だったら俺は……



「ボーマン、その……辛いなら作らなくていいんだぞ」

「何を言っておるんじゃ……お前さんが命令をしたんじゃろうが……」

「でもさ、元々ボーマンは武器を作るのは好きじゃなかっただろ? だからその……故郷が荒らされているからって復讐心のために武器を作らなくてもいいんだ。今はノアに頼んで魔法を使える人材も集めている。だから……」



 これは俺の我儘かもしれない。だけどボーマンにとっての発明は楽しみであってほしかったのだ。復讐の道具にはして欲しくなかったんだ。

 そんな俺の訴えを聞くと彼はいつものように豪快な笑みを浮かべた。



「本当にお前さんは余計な事を考えるのう……でも、ありがとうよ、儂は別に復讐のために武器を作るわけではないぞ。だって、お前さんが守るためにドゥエルに行ってくれるんじゃろ? だったら安心じゃ。そりゃあ、故郷がピンチなんだから多少は焦るがの」



 そう言って俺の目を見つめて、ふっと笑いながら設計図を見せる。



「これは儂の故郷をお前さんが守ってもらうための力じゃよ。ミスリル鉱山に出たというのはおそらく鉱物アリじゃろうな」

「鉱物アリか……昔本で読んだことがあるな……ドウェル特有の魔物だったはずだ」



 俺は『世界図書館』を使用して検索すると脳内に情報が入ってくる。


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鉱物アリ 鉱物を食べて生きるアリ。個体の能力は食べている鉱物によって変化する。また、鉱山アリの体自体に魔力が含まれているため、鉱山アリ自体が貴重な魔力を含んだ鉱物となり、武器や防具を作る際に有用な素材となる。

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 まるで辞書のページを開くように脳内に情報が入ってきた。鉱物によって強さがかわるって……



「ミスリルの鉱山の鉱山アリってかなりやばくないか? ミスリルは硬いし、魔法耐性もあるだろ」

「そうじゃな……だが、昔は……儂がいた時はそこまで数が多くなかったからのう。むしろ鉱山アリを素材にして優れた道具をつくったもんじゃよ。ドワーフと人間が共存する街でな。よく人間達も儂らの住処の鉱山に酒をもってきたものじゃ」



 ボーマンは遠くを見るようにして言った。おそらく、彼がいた時のドゥエルを思いだしているのだろう。そんな彼の平穏を壊したのは親父だ。ドゥエルに侵略をして、鉱山を奪い取り、技術者のドワーフも何人か王都へと連れて行ったのだ。

 そして……その中にボーマンもいた。彼は本当はずっとドウェルにいたかったんじゃないだろうか? だったら俺は……



「何をしんみりとした顔をしておるんじゃ。今の儂はアスガルドのボーマンじゃ。それにここに来た事を後悔はしておらんよ。王都では武器ばかり作らされたがその分技術は上がったし、お前さんにも会えたしな」

「ボーマン……」

「じゃが、そうじゃな。せっかくじゃ、お前さんがドウェルを救ったら儂に案内をさせてくれないか? いつか……お前さんに儂の故郷をみせてやりたかったんじゃ」

「ああ、もちろんだ。楽しみにしているぜ」



 俺は笑顔でボーマンに答える。すると彼は少し気恥ずかしそうに笑い返す。



「じゃあ、次は発明の話をするかのう。今回の装備は鉱山で使う事を前提に考えねばならないからな。せっかくじゃノエルも呼ぶぞ」



 そうして俺達は話し合いをはじめるのだった。守るための話し合いをはじめるのだった。

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