17.グレイスとレメク

 ダンスも無事に終えて、パーティーはお開きになる。超ミスリル合金や馬鈴薯、ゴムなど様々なものに対して貴族や商人たちも興味をもってくれたようだ。

 もちろん、銃に関しても何人かに聞かれたがそれに関しては適当に濁す。どうせ流通をするのだ。作り方くらいは流すが、それにはタイミングというものがある。



「おお、グレイス様!! 素晴らしいですね、このような規模の大浴場をお持ちとは!!」

「楽しみですなぁ」



 そして、今は希望者は大浴場へと案内しているところである。自分で言うのもあれだが、この規模の大浴場を持っているのはそこそこ裕福な貴族くらいであり、今日のパーティーに来たレベルの貴族はほとんど持っていない。もちろん、カシウス家は持っているだろうけどな。

 彼らは嬉しそうに大浴場へと向かっていく。そして、そんな中こちらを見つめている人物に俺は話しかける。



「レメクさん、もしよろしければこの後お話をいたしませんか?」

「おお、グレイス様、お忙しいところ声をかけていただいて光栄です。是非ともお願いいたします」



 俺が声をかけると彼は嬉々として頷いた。さっきの手紙と言いこの視線と言い、何やら話したいことがあるようだ。まあ、それに関してはちょうどいい。ノアの件もあるしな……それにここらの地方で有力な力を持っている彼に提案もある。



「二人で話せるところはありますかな?」

「ええ、もちろんです。すぐに手配を致しますね」



 そうして、俺は後の事はガラテアとエドワードさんに事情を話し、あとのことは任せて、レメクさんと話をすることになった。




 そして、俺は客室でレメクさんと対峙していた。テーブルにはサンドイッチなどの簡単につまめるものと紅茶が置いてあり、扉の外ではガラテアが見張っていてくれている。

 感情が読める彼女が止めようとしないっていう事はレメクさんは敵意を持っていないという事だ。



「ここはいいところですね、実は館に来る前に村の方にもよらせていただいたのですが、皆活気があり、幸せそうに暮らしていました。それに……グレイス様の像を大事にされており、皆に慕われているようですね」

「いやははははは」



 社交辞令の挨拶のようなものなんだろうが、グレイス像の事を触れられて、俺は思わず乾いた笑いをしてしまった。まさか、鼻から矢は出るし、お宅の娘さんが移動式グレイス像にしようとしている領民のおもちゃです。とは言えないからな……

 俺の反応に怪訝な顔をしていたレメクさんだったが、構わず言葉を続ける。



「新しい発明品や、優れた武器に、特殊な効果がある作物、このアスガルドはどんどん発展していくでしょうね……何もなければですが……」

「というと……?」



 意味深な言葉に俺は彼をまっすぐと見つめる。レメクさんの視線は俺を値踏みするかの様に視線を感じながらも、言葉を待つ。

 彼は出されている紅茶に一口口をつけて、続きを言った。



「王都でもあなたの活躍は噂になっています。第二王子であるカイル様を打倒したのです。そして、カイル王子の派閥だったものや、そもそも派閥に入る事が出来なかったものは次にあなたをこの国の後継者として、担ぎ上げようとしております。現に今日のパーティーにも、様々な派閥の貴族が来ていました。おそらく、このアスガルドの現状は王都の人間にも届くでしょう。そうすれば……」

「父や兄が黙っていないと……そういうわけですね?」

「はい、そして……すでに王は動いています。近いうちにあなたは王都に呼ばれる事でしょう。そしてその時の返事であなたと、この領地の未来が決まるでしょう」

「なるほど……」



 これまで、俺を馬鹿にしてきただけの父やゲオルグのクソ兄貴だったが、俺がカイルを倒したことによって評価が変わったのだろう。

 正直今さら何を言っていやがるっていう気持ちもあるし、王都には嫌な思い出ばかりだが招集されれば断る事はできないだろう。



「それで……私もあなたがどうしたいのかをお聞きしたいのです。グレイス様……あなたはこのアスガルドをどう発展させるつもりなのでしょうか?」



 真剣な顔で問うレメクさんに俺は言葉を詰まらせる。おそらく、ここがターニングポイントだ。俺の言葉で、彼は俺につくかどうかきまるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る