36.
イースさんを乗せて俺達は領地を回る。と言ってもそんなに広くはないのであまり時間はかからない。畑の方へと行くと新たに来た領民たちを指導しているジョニーが見える。
彼はこちらに気づくと鉄製のクワを片手に手を振ってくれた。
「領主様ー!! 今回もいい作物がとれそうですよー。よかったら、持ってきますか?」
「ああ、ありがとう。じゃあ、いただこうかな。それで作業の方はどうだ?」
俺は蒸気自動車を止めてジョニーから作物をもらう。彼とアルフレッドには農作業のリーダーとして、最近来た連中に農作業のやり方を教えてもらっているのだ。
肥料とか最初は抵抗あるからな。実際彼らが使用しているところを見てもらって納得してもらうのである。
「ええ、他の領民たちもうちのやり方に慣れて来てます。畑も増えてきましたし、今回は収穫が倍増するかもしれませんね」
「そうか、クリスさんに言って販路の確保とニールたちに追加の肥料の獲物を狩ってきてもらわないとな。そういえば、結婚生活はどうだ? 新婚なんだから仕事ばかりだと愛想を尽かされるぞ」
俺の言葉にジョニーが嬉しそうに笑みを浮かべた。彼は俺が王都に行く前に領民の一人と最近結婚したのだ。
自分の領民が幸せになるのは嬉しいし、家庭を持つくらい余裕があるという事なのだ。アスガルドが安定してきた証拠である。
「えへへ、もちろん、順調ですよ。でも、女は難しいですね。領主様も気を付けてくださいね。いきなり怒ったりしますから。まあ、俺はもう対処法とかわかりましたけど……」
「え、ちょっと今度その話を詳しく聞かせてくれない?」
確かにヴィグナもちょいちょい理不尽に怒ったりするときあるからな。まあ、そこも可愛いんだけど……
結婚まで言ったこいつの言葉は軽視できないだろう。
「はい、ぜひ……それで隣のお客さんは?」
「ああ、今度うちに来てくれるイースさんだ。改めてちゃんとした場で紹介するよ」
そうして俺は、大量にもらった作物を抱えて蒸気自動車に乗せて、再び走る。
「グレイス様は領民に慕われているのですね、それにあのクワは……」
「あ、わかります?あのクワは俺が開発してみんなに配ったんですよ!! あれはですね……」
「グレイス様……先生が引いています。落ち着いてください」
やっべえ、ついクワを褒められてテンションがあがってしまった。ノアの言う通り、イースさんが引き気味に苦笑している。
そんな中、仕切り直すようにノアはフォローする。
「まあ、グレイス様もちょっと変わったことはありますが、アスガルドの領民たちに慕われているのは本当なんです。みんなグレイス様の事が大好きなんですよ!!」
「そうみたいですね、領主と農民があんなに親し気に話しているのをはじめてみました」
「いやぁ、彼は最初の頃の領民って事もありますからね。友人のようなものですよ。荒地だったここを一緒に開拓した大事な仲間の一人です」
「そういう風にいえるのがグレイス様の素晴らしいところなんですよ」
俺が照れているとノアが自分の事の様に誇らしげな表情をする。そして、それを見たイースさんは幸せそうに微笑む。彼女が来たのはノアに頼まれたというのもあるだろうが、ノアが心配だったからという事もあるかもな。
そんな事を考えながら、俺はサラの店やアグニの建てた温泉、グレイス像などのアスガルドの名物を回った。その時に、ノアがグレイス像をゴーレムにしたがっているという話をふったら、イースさんがガチで説教を始めて大変だった。
そうだよな、みんなノリノリで改造計画に関して話し合っていたけど、だけどやっぱり不敬だよな……俺はちょっとしか気にしないけど……
一通り回った俺達は領主の館に戻り地下の工房へと向かう。ここの案内もイースさんの希望である。まだ開発中の物もあるがノアの信頼している女性なのだ。見せても問題はないだろう。
どのみち今回の計画に彼女は必要なのだ。
「ここがノアが誇らしげに言っていた工房ですか? 確かに見た事の無い形をした炉に、珍しいものがありますね……私は見ないほうがいいでしょうか?」
「いえ、他言無用にしていただければ構いません。俺はノアを信用していますから、ノアが連れてきたあなたの事も信用します」
好奇心を押さえようとしてるイースさんに、多少釘を刺しながらも、工房を案内する。短い間しか話していないが、ノアの事を大事に想っているのは伝わった。ノアの面子を潰すようなことはしないだろう。
そして、なにやら設計図を書いているノエルと目が合った。ボーマンはさっそく何かを作っているようで、こちらに気づきもしない。
「グレイス様!! ちょうどいま新しい武器が……あ、お客様ですか? すぐにお茶を淹れてきますね」
「グレイス様、長居はしないので大丈夫ですよ。それにまだ関係ない人間があまり気を使わせるのも申し訳ないですし……」
「そうですか……ノエル、そのまま作業をしていていいぞ。ちょっと覗きにきただけだからさ」
来客に慌てて席を立とうとするノエルを制止してそのまま作業を続行してもらう。ちらっと見えたが大砲を何か改良しているようだ。
イースさんの案内が終わったら詳しく聞いてみよう。
「グレイス様……ドワーフは職人とわかりますが、彼女は?」
「ああ、最初はメイドとして雇ったんだけど、頭の回転がいいから色々と勉強をしてもらっているんだよ」
「なるほど……ありがとうございます。見学はもう大丈夫そうです。契約についてお話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。じゃあ、二人とも頑張ってくれよ!!」
そうして、俺達は工房を後にして会議室に移動する。席に座ると同時にガラテアがやってきて紅茶と茶菓子を配る。
「こちらはアスガルドで採れた茶葉をつかったものです。お召し上がりください」
「これは……これが手紙にあったロボットなのですね……」
流暢にしゃべるガラテアにイースさんが目を見開く。まあ、事前情報があってもびっくりするよな。てか、この人もガラテアに興奮したりしないよな?
俺がちょっとびくびくしているとイースさんは微笑みながら返事をする。
「ありがとうございます。その誇らしげな表情……あなたもこの領地を愛しているのですね」
「はい、私はグレイス様とこのアスガルドを愛しています」
「なあ、ノアの先生のわりにまともなんだが……実はやばい性癖とか隠してないよな?」
「グレイス様……それはどういう意味でしょうか? まるで私がやばいみたいに聞こえますが……」
つい本音を漏らすとノアが拗ねたように頬を膨らます。だって、お前も初対面はよかったのにとんでもない性癖だったじゃんかよ……
そして、ガラテアがお辞儀をして退出すると、イースさんがぽつりとつぶやく。
「ここなら私の夢がかなうかもしれませんね……」
「夢ですか?」
「ああ、失礼しました。興奮のあまり本音が漏れていたようです」
少し気恥しそうに彼女は笑った。そして、真剣な目で俺をみつめる。
「グレイス様契約の前に二、三質問をさせてもらってもいいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
一体何を聞かれるのだろうか? 少し緊張してきた。
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