19.決戦準備

「ボーマン、調子はどうだ? 何か手伝えることはあるか?」

「そうじゃのう、銃の量産もうまくいきそうじゃし特には……ああ、そうじゃ、これを装備してみてくれんか?」

「いや、俺の貧弱さを舐めてんだろ? 金属の鎧なんて装備したらろくに動けないぜ」



 鉱山でのやり取りを終えた俺はボーマンが研究しているソウズィの工房に来ていた。彼の言う通り順調らしく、すでに銃が何丁か置いてある。先にできた試作品は今頃ヴィグナとガラテアの指導の下ニールたちが試しているはずだ。

 それよりもだ……俺は目の前におかれた金属製の鎧を見てげんなりする。鎧ってあんまりいい思い出が無いんだよなぁ……昔装備して、ろくに動けなくて兄たちに馬鹿にされた記憶が思い出される。



「いいから早く着るんじゃ、儂は忙しいんじゃからな」

「わかったよ……って、なんだこれ? 軽すぎないか? おお、動ける!! 動けるぞ!!」


 

 追い立てるようなボーマンの言葉にしぶしぶ鎧を装備すると俺はその軽さに驚く。以前鉄の鎧を着た時は歩くのが限界だったが、これなら余裕で走れるじゃん。

 従来の半分くらいの重さではなかろうか? これなら女子供用に小型の盾でもつくれば多少は身を守れそうである。



「これは坊主の指示で作ったアルミニウムとミスリルを混ぜた合金……超ミスリル合金で作った鎧じゃ、錆びないし、軽いし、防御力も高い最高の一品じゃぞ!!」

「ネーミングセンス以外は最高だな!! でも、これなら俺でも戦場で装備できそうだぜ」



 さすがに超ミスリル合金は安直すぎるだろと思いつつも、俺はボーマンの作ってくれた鎧を装備して体を動かす。すげえな、ジャンプもできるぞ!!

 これなら戦場を動き回れそうだ。俺がテンション上がりつつ動いているとボーマンが真剣な顔をして言った。



「グレイス……このアスガルド領の要はお前さんじゃ、万が一にでもお前さんに何かあったらまずいからのう。とはいえ、ここは戦場になるじゃろう。どうせ、お前さんはリーダーとして指揮をする気まんまんじゃろ? ガラテアや、ヴィグナの小娘の様に、ともに立っては儂は守れんが、かわりにそいつが守ってくれると儂は信じておるよ」

「ボーマン……」



 俺はなぜ彼が銃の量産で忙しいというのにわざわざこのタイミングこの鎧を作ったかを理解した。これは彼がヴィグナ用に魔法銃剣を作ったように、俺が戦場で動き回っても身を守れるようにするために専用の鎧を作ってくれたのだ。




「ありがとう。これは大事にするよ」

「何をいっておるんじゃ。ここに来て儂は新発見ばかりで毎日が楽しんじゃ、儂は最高の工房であるここを守りたいだけじゃよ。お前さんが変な事を言うから辛気臭くなったわい。さっさと出て行くんじゃ。他にも見るべきところはあるじゃろ。それに……なんだかんだ最近ヴィグナとゆっくり話せてないんじゃろ?」

「ああ、わかった。この『究極(アルティメット)の鎧(アーマー)』がきっと俺の命をまもってくれるだろう」

「さっき儂のネーミングセンスを馬鹿にしたが、おまえさんもたいがいじゃからな!!」



 そんな風に言葉を交わしながら俺は次の目的地へと向かう。





 村から少し離れた訓練所では先ほどから発砲音が響いていた。パァンと乾いた音も、最初は戸惑ったが、聞きなれるものだ。



「はい、きちんと狙いをつけて、反動に気を付けてください。こちらの銃は当たれば鉄の鎧も貫きますし、魔法が届かない距離からでも攻撃ができます。ただ、連射はできない上に重くて大きいので、こちらの動きはだいぶ制限されてしまいます。ですので、まずはきちんと、狙った通りの所に弾が行くようにしましょう」

「弓と違って軌道は直線にしか飛ばないから相手が隠れた時は、気を付けなさい。ただ、この火力なら魔法で作った土壁も、場合によっては貫くわ。状況によっては意表をつけるかもしれないわね」

「「はい、わかりました」」



 ガラテアがライフルという長い銃身を備えた銃の扱い方を、ヴィグナがハンドガンという片手で持って携帯できる小型の銃の使い方を、ニールを筆頭とした衛兵達に銃の使い方を指導しているようだ。

 二種類の銃を使い分けているのはそれぞれの役割が違うからだ。狙撃ならライフルが便利だし、乱戦ならハンドガンの方が有用である。もしも戦いがはじまったら彼らの働きが重要となってくるだろう。魔法使いがヴィグナしかいない俺達にとって銃という武器は生命線だ。

 領民たちに戦闘がおきるかもしれないことを伝え、二人ほど、アスガルド領を去っていったが、彼らは残ってくれたのだ。当然士気は高い。ありがたいな。

 そんな事を思いながら彼らの訓練を見ていると、ガラテアと目が合った。そして彼女はなにやらニコッと笑うとこう言った。



「ヴィグナ様、今日はもう遅いし、そろそろ訓練は終わりにしましょう。それに……マスターが何やらお話があるようですよ」

「そうね……あんまり根を詰めすぎてもあれですものね、今日はこれで解散にしましょう」

「終わったぁぁぁーー」



 ヴィグナがそう言うとニールたちは限界だったとばかりに地面に寝転がった。相当スパルタ教育されていたんだろうなぁ。ちなみにガラテアも俺には甘いが、訓練とかなると無茶苦茶厳しくなる。だからだろうか、ニールはすごい満足そうな顔をしている。



「それで……何の用かしら?」

「え? ああ、最近ゆっくり話せてなかったから少し話したいなって思ってさ」

「ふーん、まあいいけど……ちょっと待ってなさい。武器のメンテナンスが終わったらいっしょに村に戻りましょう」



 そう言うと彼女はさっさと武器の方へと戻っていった。なんかスキップしてるけど気のせいか? いや、本当はみんなの様子を見にきただけなんだが……別にヴィグナにだけ会いに来たわけじゃないんだからね!!



「マスターとヴィグナ様からドキドキを感知致しました。本当にツンデレですね。尊いです」



 俺が少し困惑しているとニコニコと笑ったガラテアが話しかけてくる。この子俺の事をからかってない? 全くこいつは……それと一つ勘違いを訂正しておかないといけないな。



「ガラテア変に気を利かせなくていいぞ。あとヴィグナはツンデレじゃないぞ。確かに乱暴そうだけど……その……俺の事をきちんと思ってくれているんだよ。だから勘違いしないで欲しいな」

「……?」



 俺の言葉にきょとんとしていたガラテアだったが、やがて合点がいったとでもいうように手を叩く。



「ああ、失礼しました。ツンデレという言葉がこの世界にはなかったのですね。認識の齟齬が発生していたようです。ツンデレとは『相手の事が気になっているけど素直になれないから普段はツンツンと冷たい態度を取ってしまう女性』の事をさすんです。だから……ファイトですよ、マスター」

「な……え……は……?」



 え、ツンデレってそんな意味だったのかよ。待て待て待て、ガラテアは俺と最初に会った時もヴィグナの事をツンデレって呼んでたよな。じゃあ、あいつは最初っから俺の事を……?



「待たせたわね、行きましょう」

「ん、ああ……」



 衝撃的な事実を知ってしまい挙動不審になってしまった俺をヴィグナは怪訝な顔で見つめる。いつもと変わらないのになぜかクッソ可愛く見えるんだが……

 そうして何やらニコニコ笑っているガラテア達に別れをつげ二人で帰路につくのだった。

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