1.新しい武器
「うおおおおおお、もう書類作業いやだよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ご主人様……また、お手紙が来ました。お相手は貴族様なので早めに返事を書かないとまずいやつです」
「ふっざけんなよぉぉぉぉぉ、どうせパーティーの誘いか、うちの娘をよかったらどうですか? みたいな内容だろ? 今までスルーしてたくせにぃぃぃ。久しぶりに領地を見回りたいんだよぉぉぉ!! ノエルつきあってくれ」
「かまいませんが、侯爵家からのお手紙です。これだけでも目を通してくださいね。あとは私も手伝いますから……」
現実逃避に逃げ出そうとする俺をノエルが呆れた顔をしながらもなだめる。情けないっていうかもしれないが、許して欲しい。カイル達との戦いから、一か月たったがしばらくずっとこんな感じなのだ。
王位継承権を持つカイルがなぜか行方不明になったいう事と何者かが俺がカイルを倒したという噂を流したせいか、ゲオルグのクソ兄貴や、カイルのクソ兄貴の派閥に入ってなかった貴族たちが、カイルを打ち破るほどの力を持つ俺達に興味をもったのだろう。自分の陣営にいれようとしているのか無茶苦茶お誘いが来るのだ。その多くはたいした権力もない貴族なので、適当にスルーをしてもいいんだが、中には無視できないほどの相手もいる。
「なんで、侯爵家レベルから手紙が来るんだよ……ん? カシウス家ってまさか……」
俺が封筒から手紙を取り出して読み始めると、例によってうちの次女と会いませんか? という内容の他に、達筆で以前の出来事の謝罪が書いてある。てか、あいつまだ婚約してなかったのかよ……侯爵家の次女なら相手には困らないだろうに……
とりあえず、丁寧な文書で「忙しいから結婚どころではないです。めんご」といった内容の返事を丁寧な言い方に変えて書く。さすがの俺もまだ今の力でここら一帯の貴族を取りまとめているカシウス家を敵に回す気はないからな。
とりあえず、明日に送ればいいだろう。俺は書き終えた手紙と、カシウス家からの手紙を机の上に置いて立ち上がる。
「じゃあ、行くぞノエル」
「はい、ご主人様、お気をつけてくださいね。一緒に領土を回るのも久々ですね」
俺の言葉にノエルがちょっと楽しそうに笑って頷づいた。そうして、俺達は屋敷の外へ散歩をしに行くのだった。
まずはどこに行こうかと思っていたが、訓練場の方からすさまじい音が鳴り響いていることに気づき、俺はそちらに向かう。
「なんだよ、あれは……」
「ああ、最近ボーマン様が作った新武器の実験ですね、しょっちゅう響いてきますよ。ご主人様は最近は屋敷に引きこもっていたから知らなかったんですね、ヴィグナ様もいらっしゃるはずです、お会いしたいでしょう?」
そういうと、ノエルはちょっとからかうような笑みを浮かべて言った。いや、別に今は仕事中だし、ヴィグナと会いたいわけではないんだが……晩飯とかいつも一緒に食べてるし……
あー、でも、領主として新武器の実験は気になるな。とりあえず顔を出してみよう。てか、これマジでうるさいんだが……騒音問題とか大丈夫なんだろうか……
「おーい、ボーマン何を作って……いや、これまじでなんなんだ? 銃じゃないよな……」
訓練場にいった俺が見たものは壁に埋められた巨大な金属製の筒だった。そして、その先っぽからは何やら煙が流れている。巨大な銃か?
大きな筒を囲んで何やら話し合っているヴィグナとボーマンがこちらに気づいたようだ。
「おー、久しぶりに会ったのう、坊主にノエル!! これは銃を応用してつくった新武器『竜殺し』じゃよ。銃を作った時に思いついていたんじゃがな、発射に耐えれる金属が無くてな。ようやく色々落ち着いたんで、超ミスリル合金で筒をつくったんじゃよ。ライフルではワイバーンはともかく巨大な竜には勝てんかったからな……」
「これはすごいわよ、発射までのロスとかあるから小型の魔物には当たらないかもしれないけど、混戦状態だったり、壁をこわしたり……巨大な敵を倒すのだったらこれの方がいいわよ。ボーマン、実演して見せて」
「おうよ、坊主にも見せてやろう。わがボーマンの最高傑作を!!」
そう言うとボーマンはおおきな鉄の球を筒に入れて、筒状の『竜殺し』の尻の部分にある導火線に火をつけると轟音を鳴らして金属の球が飛んでいき、的である金属の壁を粉砕する。
「ちなみにあの壁は鉄でできた壁よ……すごい破壊力でしょう」
「は……? それって下手したら魔法よりやばいんじゃないか?」
「ほっほっほ、力はパワーじゃからのう」
俺は驚愕の声を漏らす。鉄をあんなふうに破壊するのは魔法でもできる人間は限られている。そしてこれのやばい所は多少訓練をした人間なら誰でも使えるというところだ。
しかし、これも異世界にはあるんだろうか? 俺は『竜殺し』に触れながら世界図書館を使う。
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大砲 火薬の燃焼力を用いて大型の弾丸を高速で発射し、弾丸の運動量によって敵および構造物を破壊・する武器
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ああ、やっぱりあるんだな。まあ、異世界には魔法はないから壁を壊す武器があるだろうとは思っていたが……
「なるほど……これはさっきの火薬の爆発力で弾を飛ばしてんのか」
「そうじゃ、よくわかったのう。とりあえず試作機のこれをどんどん改良するぞい。これはグレイス像の股間にでもつけるかのう」
「お前まじでふざけんなよ、俺は聞いているんだからな、この前の戦いで俺の像の鼻に銃をしこんだろ!!」
「またしょうもない事を考えているわね……」
ボーマンの言葉に俺とヴィグナが呆れたようにツッコミを入れる。しかし、ボーマンは気にしないとばかりに笑っていやがる。絶対楽しんでんだろ……
そんな風に思っていると、服の袖を引っ張られる。ノエルが何やら難しい顔をしている。
「一体どうしたんだ? 別に俺は本気でおこっているわけじゃないから大丈夫だぞ」
「いえ、そうじゃなくて……これって魔法ではなく、火薬の爆発力を利用して物をとばしているんですよね?」
「ああ、そうじゃよ、火薬の爆発力を使用しているんじゃ。爆発の際におきる力はすさまじいからのう。方向性を集中すればすさまじい威力になるんじゃ。まあ、ちょっと危険じゃがな」
「それでは……以前グレイス様がおっしゃっていた蒸気のエネルギーも同様に、何かに利用できないでしょうか?」
「ほう……ようは今の爆発力を利用したように、蒸気が発生する力を利用して、なにかできないか試してみようという事じゃな」
「はい、うちは魔法を使えるのがヴィグナさんだけですし、魔法を使用せずに何かにできないかと……」
俺がソウズィの遺物から得た知識をボーマンに相談をしていたのだが、それをノエルも聞いていたからだろう。少し恐る恐るといった感じでボーマンにノエルが言った。
彼女の言葉にボーマンは嬉しそうにニカっと笑う。
「おもしろいのう、よしさっそく行くぞい。どのみちこれが完成したら蒸気に手をつけるつもりだったんじゃ。色々試すぞい。せっかくじゃ、ノエル。興味もあるようだし来るんじゃ」
「え、ボーマン様、私はまだグレイス様と見回りを……」
そう言うとボーマンはノエルを抱えてさっさと工房の方へと向かってしまった。はたから見ると毛むくじゃらのおっさんに誘拐されているみたいである。
そして、ここには残された俺とヴィグナに、大砲が残されている。
「行っちゃったな……」
「そうね……これの回収はニールにでも任せていきましょうか? まだ見回りの途中なんでしょう。護衛をしてあげるわ」
「まあ、別にいいんだが、何かサラにデートっていじられそうだな」
俺が冗談っぽく言うとヴィグナは少し顔を赤くしながら言う。
「別にいいんじゃないかしら。私たちはそう言う関係なんだし」
「あ、ああ……」
こいつ最近無茶苦茶かわいいな、そんな事を思いながらそうして俺達は二人で見回りをすすめるのだった。
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