7.ノアの性癖

あの後ニールたちが訓練をしている場所で銃を撃っている光景をみせたが、その時もやはり浅い反応だったようだ。

 正直それよりも、俺がノアと話すたびにチラチラこっちを見てくるヴィグナの視線が気になってしょうがなかったぜ……後でいっぱい愛を囁こう。



「このアスガルドは本当にご飯が美味しいですね、領民たちも楽しそうに暮らしていますし……グレイス様のお人柄でしょうか。このサンドイッチも美味しいですし、お店の方もすごいサービスをしてくれましたね」

「ん……ああ、そうだな……」



 小腹が空いたこともありサラの店に寄ってサンドイッチをもらったのだが、すっげーにやにやとした目で見てきやがった……まあ、俺が新しい領民と一緒に街を歩くことなんてめったにないからな……変な勘違いをしてそうで怖い。



「おや、あれはなんでしょうか?」



 サラになんと説明しようと考えているとグレイス像の方に来てしまったようだ。やべえ、こんなん見せたらすごい承認欲求の塊みたいに思われるじゃん。



「あの像は領民が勝手に作った像でな。鼻に銃がしこまれてボーマンたちのおもちゃになっている哀れなグレイス像だよ……」

「いえ、あちらの像ではなく隣のやつです。お風呂……でしょうか? 何やら悩んでいる様ですよ」



 そう言って、彼女が指をさしたのは小型のお風呂の前のうんうんと唸っているアグニだった。この前は得意げだったのだが、何かうまくいってないんだろうか?



「どうしたんだ、アグニ。鉱山用のお風呂がうまくいってないのか。あれ? ちゃんとお湯入ってるじゃん」

「ああ、グレイス様……とそっちの女性は……ああそういう事か、俺は何も見なかったことにするぜ。ヴィグナ様にばれないようにな。それにしてもグレイス様もやるようになったなぁ」

「いや、絶対変な勘違いしてるだろ……新しい領民だよ。村を案内しているんだ」



 厭らしい顔をしてウインクをしてくるアグニに俺は頭を抱えながら答える。サラといい、アグニといい俺がハーレムでも作るような男だと思っているのだろうか? いや、貴族ならわりかし普通なんだけどさ……正直俺はヴィグナがいれば十分なんだよなぁ……



「彼女はノア=カシウ……」

「ノアです。家名もないただのノアですよ。ねっ、グレイス様」

「ん? ああ……そうだな……」



 そう言えばさっきそんな事を言われたな……てか、今すごい圧力だったんだけど……笑顔なのに妙に迫力のある彼女に俺は言いよどむ。

 ヴィグナとは違う怖さがありましたね……



「ああ、俺はアグニだ。てっきりその外見から貴族かと思ったんだが……違うのか? 俺はグレイス様が貴族の令嬢と婚約でもしたのかと思っちまったぜ」

「なんでそうなるんだよ……」



 がっはっはと笑うアグニに俺は頭を抱えながら答える。多分俺が貴族と婚約するかもっていう話はヴィグナがぼやいてサラに伝わり、サラからアグニってところかな。

 さっきのサラの応援するような表情もそう言う事だろう。いや、貴族としては正しいんだが……それよりだ……



「この前話していたお風呂は完成したようだな。どれ、お湯加減は……あっちぃぃぃ!!」

「ああ、グレイス様!! だめだっての!! まだ改良中なんだよ」

「なんだこれ、拷問器具かよ!?」



 お風呂の手を突っ込んだ俺は思わず悲鳴を上げる。なにこれ熱湯なんだが!? こんな湯に入ったら全身火傷をするわ!!



「グレイス様、今すぐ冷やしたほうがいいですよ。失礼します。水の精霊よ……わが友を包め」



 ノアの言葉と共に魔法で作られた水の球体が現れ、俺がお湯に入れた部分を包み込む。すごいな……水を一定の形にしたり、威力を調整するのってかなり大変なはずなんだが……



「ありがとう、ノア。それで……アグニよ。お前は鉱山にいるドノバンたちを煮て食う気なのか? こんなん入ったら死ぬぞ」

「言ったろ、改良中だって。ヴィグナ様に頼んで魔法をマジックストーンに入れてもらったんだがどうも威力が高すぎてなぁ……このざまなんだよ」

「ああ……炉と違って後から温度を調整しにくいのか……」

「そうそう、氷魔法のマジックストーンを使っても調整が難しくてな……」

「マスター、治療用ポーションを持ってきました。お使いください」

「ありがとう……うおおおおおおお、ガラテアいつの間に」

「ふひぃ!!」



 俺がアグニと話しているといつのまにかガラテアが手にポーションを持ってやってきてくれた。でも、いきなり目の前にきたからびっくりしてしまった……でも、心配してくれたんだな。ありがとう!! てか、今また変な声が聞こえたよな。

 今度のは聞き間違いではない。俺は何もなかったかのように、微笑んでいるノアを見つめる。さっきと今回の共通点から察するに……やっぱりキーはガラテアか……



「ありがとう、ガラテア……ちょっと悪いんだが、このお湯の温度がどれくらいか調べたい。ちょっと服を脱いで試してくれるか?」

「了解です。マスター。マスターはハレンチですね。今の発言は録音してヴィグナ様にも報告しておきますね」

「お前、俺の意図わかってるだろ? てか、録音ってなに? 嫌な予感しかしないんだが」

『録音とは音を、再生することを目的として種々の媒体に記録することです』



 俺のくだらないつっ込みに『世界図書館』が答える。いや、今はそんなことはどうでもいいんだよ。こんなん聞かれたらマジで殺されそうなんだけど!!



「ふふふ、ロボジョークですよ。では、試してみますね。じっくりとみていてください」

「あっあっ!?」



 ガラテアがクスクスと笑いながら、ノアに見せつけるようにしてメイド服の裾を上げていく。その仕草はどこか色っぽくロボットだってわかっているのについ見てしまう……そして、それは俺だけではなかったようだ。



「はぁー、何ですか、その素材!? そして、人の様にきめ細やかなボディ!! まさに芸術ぅぅぅぅぅ!!」



 俺はちょっと……いや、かなりドン引きしながら声の主に声をかける。



「なあ、ノア……」

「あら、どうしましたか? グレイス様」

「誤魔化されるか、ボケェ!!」



 俺はさきほどまでよだれを垂らしそうなくらい興奮した顔でガラテアを眺めていたノアにつっこみをいれた。

 うわぁ……また、変な奴が増えてしまったようだ……そうして俺はノアから話を聞くことにするのだった。

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