第11話 守護者の鎖

翌日の夜に俺はヴィグナとガラテアを連れて、気配を隠して潜んでいた。それにも気づかずにゴブリン達がまたやってきて土壁によじ登ろうとして「グギャ!?」っと悲鳴を上げて、地面に落ちると恨めしそうにソレを見つめて去っていた。



「はっはっはー見たかヴィグナ、これが俺の開発した守護者の鎖ガーディアンチェーン だ」

「嘘でしょ、ゴブリン達が諦めて去っていった? これは……刺かしら……?」

「その通りだ。これを土壁の上部に巻くことによって魔物がよじ登れないようにしたんだ。すごいだろ」



 俺は土壁の上に刺のように尖っているミスリル合金の線を巻き付けたのだ。無理に手をかければ刺が刺さり負傷するので亜人系の魔物も侵入できなくなるはずだ。

 


「確かに……これはすごいわ。見張ってなくても魔物も迂闊に侵入できなくなる。でも、よく一日でできたわね」

「ああ、ボーマンに言ったらノリノリで作ってくれて、巻くのはガラテアがやってくれたからな」

「それってあんたは何にもやってないじゃないの……」



 俺が得意げに言うとヴィグナはジトーっとした目で言った。あれ、さっきまであった尊敬のまなざしが消えているんだが!?



「俺が発明したんだが!? いや、確かに口だけかもしれないけど……人には得手不得手があってだな……」

「そうです、マスターの指示があってこそですよ、それにしても素晴らしい有刺鉄線ですね、流石ですマスター」

「そうだろそうだろ、ガラテアはどっかの凶暴女と違って俺のすごさをわかって……待って、有刺鉄線って何? まさか、異世界にこれあんの? うっそでしょ」

「はい、父も家庭菜園に魔物や動物が来ない様に作ってましたよ」



 あきれた様子のヴィグナと違って素直に褒めてくれるガラテアに癒されたので頭を撫でようとしたところに衝撃的な一言をもらってしまった。俺が開発した守護者の鎖が異世界にはあるだと……だが、俺にはまだ隠し玉があるのだ。



「待て待て、これにはまだ秘密があるんだ。なんで俺があえて、鉄ではなくミスリル合金にしたと思う? 理由は簡単だ!! ヴィグナ、雷の魔法を頼む。あの守護者の鎖に放ってくれ」

「え……ああ、そういう事ね。雷神の腕よ!!」



 詠唱を終えたヴィグナの手から雷が放たれ、それが俺の守護者の鎖に当たると一瞬にて雷が全体に広がった。ミスリルは魔法を纏う性質があるため、しばらくの間帯電するのだ。そう、これが……



「本来の守護者の鎖の力だ!! これならば並大抵の魔物は近寄れまい!! 金属の棘による物理ダメージと、魔法によるダメージのコラボレーション!! どうだ、ガラテア、これなら異世界にも……」

「すごいです!! これは電気柵だったのですね!! これならここら辺の魔物も火竜でもないかぎり大丈夫ですね!!」

「あんのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! うっそだろぉぉぉぉ、異世界には魔法はねえんだろ!!」

「はい、その代わり発電機があるんですよ。そこから電気を供給したりするんです」



 異世界の文明やべえな、俺は完全な敗北感に苛まれて頭を抱えながら絶叫する。天才的なひらめきだと思ったのにすでに存在していたようだ。



「その……異世界にあったとしても、これを考え出したのは十分すごいと思うけど……少なくともこの世界でこれを初めて思いついたのはあんたでしょ。もっと自信を持ちなさいよ」

「ヴィグナありがとう!! お前もたまには素直に褒めてくれるんだな!!」



 俺がよっぽどへこんでいたからか珍しくヴィグナが慰めてくれた。だが、問題はない。むしろここからはじまるのだから……



「まあいい、そろそろ、金もなくなってきたからな、金を稼ぎに行くぞ!! 魔物の素材に、魔力を癒すよくわからねー馬鈴薯、そしてこのミスリル合金があれば、きっと金になるはずだ」



 俺は高らかに宣言をする。魔物の素材はなんだかんだこの国でよく売り買いされる商品だし、味がいい上に魔力を回復する馬鈴薯は、日常的に魔法を使わない人間にも魔法を使う人間にも需要はあるはずだ。そして、ミスリル合金は今やってみせたように、応用しだいで様々な使い方がある。頭のいい人間ならばこの有用性に気づいてくれるはずだ。



「まあ、確かに売れるでしょうけど、でも、いきなり、商会とか行って相手をしてくれるものなのかしら?」

「お前は忘れてるかもしれないけど、俺は一応王族なんだ。名前を出せば、流石に門前払いはしないだろうよ。それにアテもあるんだなーこれが」



 俺は勝利を確信した笑みを浮かべる。そう、開発の時間は一旦終わりで、ここから外部との行商により、我が領土の発展がはじまるのだ。



「ヴィグナは哀れんで慰めてくれたが、商人ならばきっとこれらの価値に気づいてくれるはずだ!! 商談がうまくいったらごちそうを食べるぞーー!! 酒も飲むし、ヴィグナの好きな砂糖たっぷりのクッキーも買ってやるよ。ガラテアもほしいものあったら言えよ。お前にはだいぶ助けられているんだからな」

「フフフ、マスターから希望を感知しました。それに、私にまで……ありがとうございます、マスターなら絶対商談も成功すると思います!!」



 素直に賞賛してくれるガラテアの頭を撫でると彼女は嬉しそうに微笑む。この期待は裏切れないな。


 というわけで初めての商売である。ミスらないようにがんばらねば……俺は栄光の未来を夢見て気合を入れる。



「私は慰めじゃなくて本気ですごいと思ったのに……グレイスの馬鹿……」

「え、マジか……ありがとう」

「なんで聞いてんのよ!?」

「その反応は理不尽だろ!!」



 ぼそっと言ったヴィグナに返事をすると、なぜか、真っ赤になった彼女に睨まれるのだった。ひどくない?

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