33.祝勝会

戦いが終わったという事でみんな無理にでも騒いでいるのだろう、いつもよりも酒の減りが早い。特に衛兵達は多少は覚悟していたとはいえ、共に戦った仲間が死んだという事もあり、みんなが顔を真っ赤にして彼等との思い出を語りながら浴びるように酒を飲んでいる。

 私も彼らの事を思い出しながらお酒に口をつける。近衛兵をやっていた時から同僚の死は経験してきたが慣れるものではない。彼等にも飲ませてあげたかった……そんな事を考えていると目の前に気配を感じた。



「ヴィグナさん、今日は無礼講という事で一つお願いをいいでしょうか?」

「ええ、何かしら? 私にできる事ならいいわよ。なんならグレイスにも口利きくらいできるわ」



 先ほどまで自分の無力さを悔やんで、同僚にぐちぐちと絡んでいたニールが、なにやら顔を真っ赤にして私の目をまっすぐと見つめてくる。一体何かしら? まさか衛兵を止めたいとか……だったら私はどうするべきだろうか? 最初は情けない彼だったが最近はどんどん才能の欠片を見せてきた。引き留める? でも、彼がやりたくないというのなら無理強いをするわけにはいかないだろう……



「その……俺の事を思いっきり罵ってください!!」 

「……は?」

「あ、その目いいですね、まるで道端に落ちているごみを見る目!! その目で俺を罵ってください。お願いします!!」



 こいつは何を言っているのだろう? 私の頭は混乱する。ああ、でも、ニールはなぜか私が叱ると元気になるのよね。彼なりの気合の入れ方なのかもしれない。

 真面目に考えていたのが馬鹿らしくなっちゃったわね……



「仕方ないわね。ちょっと耳を貸しなさい……****(とても書けない罵倒)」

「ああ……きっくぅぅぅぅ!! ヴィグナさん、いえ、ヴィグナ様!! 俺はもっと強くなります!! これで頑張れます!! だから、俺が強くなったらまた叱ってください!!」

「あ……そう……他の人たちにも挨拶をしてくるわね」



 耳元で囁いてやると何やら恍惚の表情を浮かべながら、無茶苦茶元気になったニールが気持ち悪かったので、私はサラ達の方へと向かう。背後でニールを囲んで「羨ましい」とか他の衛兵が言っているのはきっと私の空耳だろう。



「おお、ヴィグナか!! 大活躍だったらしいのう、じゃが、儂らの発明もたいしたもんじゃろ」

「特にグレイス様の像は大活躍だったもんな、鼻に仕込んだ銃が何体ものワイバーンを仕留めたんだぜ」

「へえ、すごいじゃないの、アグニ。ヴィグナもお疲れ様、あなたのおかげで、被害は少なく済んだわ。英雄みたいでカッコ良かったわよ。座りなさいよ。何か飲むでしょう」



 私がサラ達の元へ挨拶に行くと周りで酒を飲んでいたボーマンやアグニにも声をかけられる。しかし、アグニのやつはサラに褒められてニヤニヤしているわね。そういえばアグニのやつはしょっちゅうサラの食堂で食事に来てよく話すとか言ってたわね……もしかして……なんてね。



「ありがとう、あなた達も無事で良かったわ。みんなはどこにいたの?」

「私は食堂に集まっていた人たちを避難場所に誘導していたわ」

「わしとアグニはグレイス像の中で銃を撃っとったな。さすがの儂もこんな時は戦わないわけにはいかんからのう。じゃが、実際戦って武器の改善案も思いついたぞい」

「ああ、超ミスリル合金はすごかったな。でも、軽すぎるから家を作るのには向かねえんだよな。だが、あの技術は他の事には使えそうなんだよな……戦いも終わったし、なんかみんなが楽しめるものがこの村にも欲しいよな……なあ、ボーマン殿ちょっと試したいものがあるんだが……」

「なんじゃ、なんか思いついたのか、アグニ。ならば、発明は熱いうちに撃てじゃ!! ヴィグナ儂らはちょっと用事を思い出した、すまんの、席を外すぞい」

「ちょっと……あんたらね……」



 私が何かを言う前に二人はさっさと言ってしまった。残されたサラと顔を見合わせて苦笑をする。



「まあ、彼等には食事よりもあっちの方が気分転換になるのよ。それよりもグレイスはどうしたの? 一緒じゃないんだ」

「ああ、あいつは最後の後始末に行ったわ」



 そう、彼は今ごろアズール商会に出向き彼らにとどめを刺しているだろう。きっと虚勢を張って相手を威圧して、全てが終わったら疲れてた顔をして帰ってくるのだ。そして……死んだ領民の事を思って彼は悲しむのだろう。

 これだけの被害ですんだことが奇跡だし、グレイスが悪いわけではないのに……



「ねえ、サラ……グレイスを元気づけさせてあげたいんだけど、何かいい方法ってないかしら?」

「男を元気づけされるなんて簡単よ、一緒に寝てあげればいいじゃないの。恋人なんでしょう?」

「え、あーそうよね……」



 私はサラの言葉に顔が真っ赤になるのを自覚する。寝るって子供の時みたいに寝るって意味じゃないわよね……その、ああいうことをするっていうことよね……



「え、あんたらまだやってなかったの?」

「やってるとか言わないで!! 仕方ないでしょ、今回の戦いの準備で色々と忙しかったんだから!!」

「ふーん、グレイスも本当に奥手よね、王族なんだからとっかえひっかえだと思っていたわ。仕方ないわね、私が色々と教えてあげるわよ」



 私の言葉にサラは楽しそうに笑った。色々っていったい何を教えるつもりなんだろう……正直そういうことは少しこわいけど……グレイスが相手なら不思議と抵抗はなかった。というかグレイス以外の相手とか考えられなかった。

 それに……彼は今回すごい頑張ったのだ。私とのそう言う事で元気が出るかはわからないが精一杯頑張ってみようと思う。



「じゃあ、教えてくれるかしら。あと……こういうのって持っているかしら」

「うわぁ……グレイスってそういうのが趣味なんだ……まあいいわ。たしか持っていたわよ」



 私の言葉にサラがにやりとちょっと意地の悪い笑みを浮かべる。そうして、女子会が始まるのだった。

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