22.出発準備

「うわーーー、本当にここを商会として使用してもいいんですか!! あとその……グレイス様、私をここの商会長に推薦してくださってありがとうございます」

「ああ、クリスさんには色々とお世話になったからな。それにあなたがうちの連中とも仲良しだし、取引に関しても一番経験があるからさ。適任だと思ってエドワードさんに推薦しただけだよ」


 

 さっそくアグニに命じて作ってもらった商会へクリスさんを案内すると、彼女は目を輝かせながらそう言った。いや、それだけじゃない。なんか建物に頬ずりまではじめたんだが!!




「ほうほう……色々とお世話になった……つまり、私が売った宝石のおかげで、ヴィグナさんと結ばれたのでそのお礼というわけですね!! ちょうどいいです。お二人を結ばせた縁起物としてちょっとぼったくり価格で、アクセサリーを作ってみますか。ブランド名は『グレイスストーン』で、キャッチフレーズは『ヘタレなあなたも、ツンデレ気味なあの子に想いを告げれる勇気の石』ってかんじでどうでしょうか?」

「そっちじゃねえよ!! カイルとの戦いの時も物資を運んでくれたり、実際儲かるかわからない最初の時も色々とがんばってくれたお礼だっての!! てか、誰がヘタレだよ!!」

「だって……ヴィグナさんから色々と聞いてますよ。戦いが終わったらみたいなことを言ってきたから強引に告白させたとか……ちなみにあの人会うたびに惚気てくるんですよ。可愛いですね」

「筒抜けかよぉぉぉ、すっげえ死にてえ!! でも、その惚気の部分を詳しく聞かせてください、お願いします!!」

「それにしても……すごいものを作りましたね、グレイス様。馬車より多くの荷物が運べて、その上振動も少ない。素晴らしいです」



 俺の懇願を無視して、クリスさんは蒸気自動車を指さして言った。彼女が商会に必要な物を村で買うときに蒸気自動車を貸したのだが、結構気に入ってくれたようだ。

 ちなみにこの蒸気自動車には『世界図書館』の知識を使い、馬車に使用されていたスプリングを応用した『サスペンション』というものを試作してみたのだ。量産は難しいが徐々に数は増やせていけそうである。



「そうだろ、そうだろ。これはざっと2.6ヴィグナ力あるからな」

「ヴィグナ力……ですか……?」

「ああ、とある国では力の単位を馬で表すらしんだが、うちの領地は馬があまりいないからなじみがないだろ? だからより身近なヴィグナの身体能力で表そうかなと……ワイバーン一匹を引っ張ってこれるのが1ヴィグナ力だな」

「グレイス様……素直に馬で表したほうがいいですよ。多分殺されます……下手したら離婚案件です」



 俺が自慢げにいったらなぜかクリスさんがドンびいた顔をして言った。名案だと思ったがダメだったのだろうか? やはり異世界と同じ様に馬で表したほうがいいのだろうか……

 でも、あの女「グレイスに乗るの楽しいわね」とかほざきながら村の中を楽しそうにグレイス号で移動しているんだが……俺だけ名前を使われるのむかつかない?



「それで、王都に行くっていうのは本当でしょうか? そのグレイス様は……」

「ああ、この地に追放されたんだけどな……どうやら予想以上の成果を出したからかお話があるらしい。面白い話だよな。心配しなくてもノアには商会の事も色々と話してある。問題はおこらないはずだ」

「グレイス様、私が心配しているのはそこではありませんよ」



 俺が自虐的に笑うとクリスさんが珍しく真面目な顔をして、首を横に振った。



「私が心配しているのはそこではありません、グレイス様の事です。わかっているんですよね? おそらく彼らの目的は銃などの発明品です。せっかくアスガルドが発展しているのにそれを奪われる可能性がありますし……何よりもグレイス様の命が心配なんです」

「クリスさん……」

「これはエドワードさんも同じですが、私もあなたを信用しているんですよ。女性だからと侮りもせずちちゃんと商人としてみてくれましたし、失言をした私を許してくれました。私はあなたが領主だからここの商会で商売をしたいって思ったんです」

「ありがとう……でも、心配は不要だよ。レメクさんの仲間も王都にはいるし、ヴィグナや、ガラテアも一緒に行くんだ。最悪な所になったら逆にぶっ倒してやるよ」

「そうですか、覚悟の上ならば私からはなにも言いません。発注通り護衛にはすっごい豪華な馬車を選んでましたので楽しみにしていてくださいね。また、グレイス様の乗る蒸気自動車に関しても装飾をさせていただきますので」



 俺がそう言うとクリスさんはどや顔で言った。馬車はいわば貴族の顏になる。どれだけ立派なものを作れるかで領地の経営状況をしめすのである。正直くだらない風習だとは思うが、ここは舐められないために必要だろうから。





 後日俺とヴィグナ、ガラテアと数人の護衛で王都へと向かう事になった。見送りにはほとんどの住民がきてくれている。三人でアスガルドに来た時とはえらい違いである。しかし、ここで一つつっ込みどころがある。



「なんか、蒸気自動車の屋根に小型のグレイス像があるんだが!? 絶対邪魔だろ!!」



 そう……なぜか蒸気自動車の飾りとしてグレイス像が飾られているのだ。いや、ふざけんなよ。王都で自分の像を付けた蒸気自動車で行くってどんだけ恥ずかしいんだよ。

 

 

「ご安心ください、グレイス様。あれはただのグレイス像ではないんです」

「もう、それだけで嫌な予感がするんだが!?」

「なんとあれは小型のゴーレムでして、口から火が、目から雷が出ます。ヴィグナさんの魔力にあわせているんで、私がいなくてもちゃんと動くのでご安心を」



 俺が蒸気自動車の前で騒いでいると見送りにきていたノアが得意げにいった。いや、他人の魔力でゴーレムを動かせさせるって結構めんどくさいはずなんだが……ていうかさ……



「俺の像を兵器にするんじゃねえええええええ!!!」

「早く馬車に乗りなさい。置いてくわよ」

「俺置いてったらマジで王都に何をしに行ったんだって言う感じになると思うんだが……」



 先に車に入っているヴィグナにつっこみをいれながら俺はノアに領地を託す。



「短い間だけど、アスガルドを頼む」

「はい、お任せください。でも、絶対帰ってきてくださいね。ここの領主はあなたなんですから」

「当たり前だろ。絶対帰ってくるって」



 俺がそう言うと彼女は俺の指を取ってこういった。白く細い指が俺の指と絡み合い彼女の体温が何とも暖かい。



「指切りげんまんうそついたらガラテアさんにセクハラをする♪ うふふ、約束しましたからね。これはソウズィの残した儀式みたいですね。子供がガラテアさんに習っていたんで私も真似てみました」

「よく知ってるな……てか、俺に被害はないな……でも、その約束は守るよ」



 そうして俺はノアに苦笑をしながら別れをつげて蒸気自動車に乗る。



「マスター……貞操の危機を感じたのですが……」

「気のせいじゃないかな……」

「グレイス……今のは浮気ね」

「お前、自分の他に嫁を取れとか言ってんじゃねーか、指切りげんまんしたくらいだぞ」

「それとこれは別よ。というわけで手をつなぎなさいな」


 そういうとヴィグナが俺の手を強引にとった。こいつなりに心配してくれいるのだろう。そうして俺達は王都へと向かうのだった。


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