第119話 お婆さんギルマス現る

「こらあんた達! なに騒いでるんだい!」


 ミシェルさんにジェームズさん達を治してもらい、起きるのを待っていると、入り口の方から杖を持ち、これぞ魔法使いというローブを着たお婆さんがやってくる。それはいいんだけど、問題はこのお婆さん、すでにカンカンに怒っていますっていう雰囲気なことだ。


「げ、婆さん何しに来やがったんだよ」

「う、うむ・・・・・・」


 すると、お婆さんの姿を見たトムさんがすっごい嫌そうな顔をしながらぼつりと呟く。サイモンさんもトムさん同様嫌そうな顔をしている。二人の知り合いなのかな? 私がそんな風に考えていると、お婆さんはお婆さんとは思えぬ歩行スピードでどんどんこちらに近づいてくる。


「トム! サイモン! 騒ぎの原因はあんた達だね! 訓練場だから静かにしろとは言わないが、周囲のパーティーが不安になるレベルの悲鳴を上げるってのはどういうことだい!? 事情を説明しな! もちろんそこで倒れている5人の軍人っぽいやつらのことや、そこに大量にあるピュリフィケーションの灰のこともだよ! ミシェルもいいね!」

「あ~、はいはい」

「う、うむ」

「はい、わかりました」

「トム! サイモン! 返事ははいと簡潔に言いな!」

「「はい!」」


 あうあう。これはなかなかにハードな性格のお婆さんだね。トムさんとサイモンさんが借りてきた猫みたいに大人しくなっちゃった。何者なんだろう?


「ギルマス、少しいいでしょうか? 紹介したい人物がいるのですが」


 するとミシェルさんがこのお婆さんのことをギルマスと呼んだ。っていうことは、このお婆さんがこの街のハンターギルドのギルマスさんなの!? イーヅルーの街のギルマスはムキムキマッチョな戦士系の人だったから、ちょっと意外だ!


「いや、紹介するまでもないよミシェル。久しぶりだねゼニア、戻ってたのならどうしてあたしのところに顔を出さないんだい?」

「お久しぶりですギルマス」


 このギルマスさんはゼニアさんとも知り合いみたいだね。ゼニアさんが頭を下げて挨拶をする。


「で? 何であたしのところに挨拶にこなかったんだい?」


 うん、もうわかってたけど、何と言うか、ものすごく圧の強い人だね。


「申し訳ございません。この街の現状を考えるに、ギルマスはお忙しいかと思い、たかがランク6のハンターに過ぎない私にお手間を取らせるわけにはいかないと考えました」


 なんか、ここまで恐縮した感じのゼニアさん、初めて見るかも。イーヅルーの街ではロジャー将軍の前ですらいつもの感じだったのに。


「そうかいそうかい。だがその辺は構わないよ。むしろランク6のハンターであるあんたがいてくれた方があたしの仕事が楽になるって言うもんだよ。実際あんたのような単独行動の得意な高ランクハンターにやってほしいことがあったからね。それじゃあ早速やってもらいたんだが、構わないよね?」


 凄い、本当に凄いこのお婆さん。さも当然のようにゼニアさんに圧力一辺倒の交渉をするだなんて! しかもゼニアさんもこんな強引な交渉のされ方をされて嫌がっていないのもびっくりだ。ううん、実際の内心はわからないけど、少なくとも表面的には一切嫌そうな雰囲気を出していない。そしてトムさん達はそんなゼニアさんに同情の目を向けている。


 でも、そんなゼニアさんの口から出た次の言葉は、まさかの拒否だった。


「申し訳ございません、私は現在パーティーを組んでいるのですが、パーティーリーダーではありません。ですので、私の一存では決めることが出来ないのです」


 おお~、流石ゼニアさん、この流れでこんな怖そうな人の強引な依頼を断るなんて、流石ゼニアさん、凄いぞゼニアさん。って思ったんだけど、何やらゼニアさん、こっちを見てる・・・・・・? え? 私のほうを何で見るの? ちょっと止めてゼニアさん、こっち見ないで、この状況でゼニアさんに見られると、大変よろしくないことになりそうなんです! でも、ゼニアさんはこちらを向いた視線を外してくれない。すると当然のようにお婆さんギルマスのいささか鋭すぎる視線もこっちに向くわけで・・・・・・。


「ほう、この小娘がゼニアのパーティーリーダーかい?」


 ええええええ!? 私、ゼニアさんとパーティーは組んでるけど、リーダーになっただなんて初耳だよ!? そりゃあゼニアさんは私の予定を優先してって言ってくれているけど、それは私がリーダーっていうわけじゃなくって、っていうかこういうトラブルの対処は、ジェームズさん達の出番だよね! って、まだ寝てるし! ど、どうしよう・・・・・・。


「で、小娘、あたしの依頼をゼニアが受けるって話なんだけど、よもや断ったりはしないだろうね?」


 あうあう。このプレッシャーは何と言うか、とてつもないレベルだ。あの男ことバーナード隊長のプレッシャーが子供のそれに思えるレベルのプレッシャーだ。なんか変な汗が全身のあちこちから出てきちゃってるし、これはもう、はいって肯定するしかないんじゃないかな?


「ギルマス、彼女はあの薬師のさくらさんになります。私は縁あって現在パーティーを組んでいるのですが、彼女はこの国のハンターである前に妖精の国のハンターになります。圧力をかけるのはお止めください」

「妖精の国の薬師のさくら? もしや猫の話かい?」

「はい」

「ちっ、姫様をはじめ方々から便宜を図るようにって、指示が来ていた件かい。わかったよ、それじゃあプレッシャーをかけることすら出来ないね。だが、ダンジョンには入るんだろう? なおの事現状の話くらいはしないとだね。今から時間あるかい?」

「もちろんです! お話お伺いします!」

「うんうん、話の分かる小娘で良かったよ。それじゃ、あたしの部屋に移動しようか、トム、あんた達もおいで」

「あ、ああ分かったぜ婆さん。でも、ちょっと待ってくれ、こいつらどうする?」


 そう言ってトムさんがジェームズさん達の方に視線をやる。ジェームズさん達はミシェルさんの回復魔法のおかげで呼吸なんかは元に戻って、実に安らかな寝顔をしているけど、まだ意識は戻っていない。


「なら私が見ているわ」


 すると、ミシェルさんがこの場に残ってジェームズさん達のことを見てくれると言ってくれる。ありがたい提案だけどいいのかな? ミシェルさんに頼りっぱなしは申し訳ないんだけど・・・・・・。


「はあ? ずりいぞミシェル! 俺が残るからミシェルが婆さんの部屋いけよ!」

「いや、トムは我輩達のパーティーリーダーではないか。トムが話を聞かずにどうする? この場は我輩とミシェルにまかせればいい」

「なあ! サイモン、お前まで来ない気かよ!」

「トム。サイモンの言う通りよ、リーダーとしての仕事をしてちょうだい」

「く、お前ら・・・・・・」

「トム! グダグダとうるさいよ!」

「ああ、わかったぜ婆さん、今行くよ!」


 うん、ジェームズさん達のことはミシェルさんとサイモンさんに任せて大丈夫そうだね。私も急いでギルマスのお婆さんの後について行こっと。階段を登ったり廊下を歩いたりすること数分、私達はギルマス室へと到着する。


「ここがあたしの部屋だよ。茶を用意させるから座って待ってな」

「はい!」

「婆さん、茶だけじゃなくて菓子も頼むぜ。しょっぱいのがいいな」

「私は甘いものがいいわ」

「しょうがないね。小娘はどうする? 甘いのでいいかい?」

「は、はい! 甘いのでお願いします!」


 あ、あれ? 怖がったり嫌がったりしている割りに、二人ともお婆さんへの要求が凄いね。これが一流のハンターさんの交渉術なのかな? うう~ん、三人の関係性がよくわからないね。




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