第90話 天才にゃんこアオイ
無事部屋に戻った私は、台所でペッて口の中の血を出してから、ポーションを飲む。すると、私の体を柔らかい光が包んで、きれいさっぱり怪我を治してくれる。流石イージーにゃんこライフ魔法で作ったポーションだね、効果は抜群だ!
コンコンコン。
「さくらちゃんいる~?」
私がポーションでの治療を終えると、窓の方からガーベラさんの声が聞こえる。ガーベラさんがもう来てるって、早くない? ユッカさん全速力で帰ったのかな?
「は~い」
私はガーベラさんに会いにバルコニーに出る。
「さくらちゃん、怪我は大丈夫?」
「大丈夫ですよ。かすり傷でしたし、この通りポーションを飲んでもう全快です!」
「そう、ならよかったわ。でも、その服の血を見ると、結構な出血があったのね」
「口を切っちゃったので、食らった攻撃の割に、血だけはいっぱい出ちゃいました。でも大丈夫ですよ! なにせ勝利したのは私ですので!」
あ、でもこの血がそこそこついた服どうしよう? 洗濯物としていつものように出しておけば、お城の人が洗ってくれるかな? う~ん、きっと大丈夫だよね。兵隊さんなら血が付いた服を持ってくることなんてよくあることだろうし、それを掃除するお城の人達も、きっとそういう汚れたものの洗濯のプロのはずだ。
あ、そう言えばデスモンドさんが医療班を手配してくれていたね。勝手に部屋に戻っちゃって、悪いことしちゃったかな? でも、口の中の血の量も限界だったし、しょうがないよね。それに、あの偉そうな兵隊も鼻から血を思いっきり出してたし、きっと無駄にはならないはずだ。だから許してほしい。
「とりあえずさくらちゃん、こうして揉め事が発生してしまった以上、ここにいるのは避けたほうがいいわ。しばらくは妖精の国のギルドにいらっしゃい」
「はい、わかりました。じゃあ、すぐに仕度しますね」
「荷物は後で送らせてもいいから、最低限必要な物だけでいいわよ」
「わかりました!」
ぽふん!
私は猫ボディになると、血の付いた服を洗濯かごへ入れて、それから戸締りをする。後はお手製の猫用魔法のカバンを首にかければ、準備完了だ。あ、一応人間ボディになるかもだから、ローブを1着だけ持って行こうかな。
『準備完了です!』
「じゃ、行きましょうか。いつもさくらちゃんが使ってる部屋は空いてるから、そこを使ってね」
『はい!』
こうして妖精の国のギルドにやってくると、アオイやペルさんをはじめとしたにゃんこハンターのみんなや、ボヌールさん、ゼボンさん達職員のみんなも私を心配そうに出迎えてくれた。
『みんな、心配してくれたありがとう!』
そんな大袈裟な怪我をしたわけでもなければ、大袈裟な揉め事があったわけじゃないんだけど、私はついつい感極まっちゃった。これは人間ボディだったら泣いちゃってたね。猫ボディでよかったよ。
その後、特にやることも無かったのでゴロゴロしていると、お夕飯の時間になったので食堂へと向かう。
「おう、さくら。こっちで一緒に食おうぜ」
『はい』
ボヌールさんに呼ばれた席には、アオイやペルさんもいた。
「さくらが怪我したって聞いたが、例の自動で戦う剣は使ったのか?」
『はい、使いました。でも、それでも結構ギリギリの戦いでした』
私は3人に今回の戦闘の説明をする。
「なるほど、隙を突いて勝つことは勝ったが、さくらも結構ダメージを受けたってことか」
『う~ん、俺達の使う化け猫の術は、術の練度にもよるけど、猫の姿の時よりかなり弱くなるからな。いくら自動で戦う剣があってもきついだろ』
『そうですわね。少し気になっていたのですが、さくらさんは剣で勝つことにこだわりがおありなのですか?』
剣へのこだわりか~、言われてみると、なんで剣にしたんだっけ? そもそも私が武器を持った理由は、確か旅の薬師の装備に武器が必要って本で読んだからだよね。それで、武器を作るにあたり、なんとなく剣を作っちゃったんだったね。その後は、学校でハロルドスレイヤーに出会ったからそのまま剣を使ってる感じだよね。
『え~っと、こだわりがあったわけじゃないですね。最初は、旅の薬師としてこの街に入るにあたって、何か武器を持ってないと怪しまれると思って、剣を持ってたんです。それで、今は学校でハロルドスレイヤーと出会ったから、持っているって感じです』
『それでしたら、武器や戦い方を見直してみるのはいかがでしょうか?』
『でも、私がハロルドスレイヤーを使っても弱いのは、私の人間ボディの筋力や魔力が少ないからなので、武器を変更して解消されるような問題じゃないと思うんです』
自分で言っててちょっと情けなくなる。でも、現状の私ではハロルドスレイヤーを使っても、その性能を全然引き出せないから、すっごく弱いんだよね。リミッターを解除して、なりふり構わずならハロルド先生に一撃入れれたけど、あんな戦法そうそうとれないし、かといってリミッターの範囲内だと、ロイスちゃんやティリーちゃんといった、学校に通ってる子供達くらいにしか勝てないんだよね。しかも、その子供達にでさえ、子供達にレプリカハロルドスレイヤーを持ちだされるとぼろ負けしちゃうし。
「でもよ、話を聞く限り、勝てたのはほぼラッキーだろ? 相手は姫様が戦いを止めようと割り込んできたわけだから、それを無視して戦闘を続けるわけにもいかなかっただろうし、何より得物が本気装備とは全然違っただろうからな。さくらが即座に猫に戻って戦うんならいくらでも戦えるだろうが、人間の姿のまま抵抗する術を持ちたいってんなら、違うアプローチを考えるべきだぜ?」
『確かにそうですね。私、猫の姿では狩りしかしたことなかったので、戦闘が出来るか不安でしたけど、きっと戦闘でも人間の姿よりは強いですもんね。それに、戦闘が上手に出来なくても、隠れる魔法もあるし、人間の姿よりはるかに速く走れますから、逃げる手段には困りませんもんね!』
「いや、狩りって戦闘行為じゃねえの? そもそもさくらより強いやつを俺は知らねえんだが・・・・・・」
ボヌールさんもおかしなことを言うよね。狩りは狩りなのに。産業の分類で言えば、れっきとした一次産業なのです。つまり、農業や漁業の親戚になるのですよ。それに対して戦闘っていうと、軍隊とか警察になるわけだから、つまり、公共サービスなのです。ぜんぜん違うものなのです。
それに、私より強いやつを知らないって、ボヌールさん鏡見ないのかな? 鏡を見れば私より強い熊さんが映るのにね。それに、アオイやペルさんだって私よりかなり強いのに。あのミノタウロス達の拠点に行った時の二人の圧倒的な強さ、ボヌールさんにもぜひ見てほしかったな。
『あ~、まあ狩りのことは置いとくとしても、人間の姿のまま今より強くなるには、俺もペルや熊親父の考えに同意だな。俺達猫だって、爪が得意な猫がいれば、牙が得意な猫もいる。もっと言えば魔法をつかった遠距離攻撃が得意な猫もいるしな。そもそも戦いってのは、自分の得意分野で戦うもんだ。苦手なことで戦うのは愚策だぜ?』
『でも私、人間ボディの戦いでいえば、魔法で戦うよりも、ハロルドスレイヤーで戦った方がだいぶ強いよ?』
『ちげえってさくら。そういうこと言ってるんじゃねえよ。頭使えって話さ。人間ボディが弱いってんなら、人間ボディでまともに戦わなきゃいいんだよ』
『どういうこと?』
『門番どもが話してるのを聞いたんだけどよ。さくらの蚊とかGを倒すための毒煙玉、あれ、人間どもには最高レベルの毒物って誤認されたみたいだろ?』
『うん、そのせいであの男にすっごいネチネチネチネチ怒られたから、間違いないと思うよ』
『なら、本当に汎用的な毒煙玉を作っちまえばいいんだよ』
えええええ!? やってやれないことはないかもしれないけど、アオイ、発想が過激すぎるよ!?
『そんなびびる話じゃないぜ。流石に吸い込んだら死んじまうような毒はまずいだろうけど、動きを縛る毒ならいいんじゃないか? ほら、例えば食いもんなんかでも、料理してる時に目にしみるやつとかあるだろ? なんつったっけ? 玉ねぎ? 俺はあんまり好きじゃねえからうろ覚えだけどさ。そういう成分を集めて、更に魔法で強化するってのはどうよ? 目を潰されてまともに戦える奴はそうはいないぜ?』
な、なるほど、アオイってば天才かもしれない! 確かにRPGとかだと、敵を弱らせる、弱体化の魔法とか技って、割とポピュラーだもんね。学校で使うのはまずいかもしれないけど、実戦ではそんなこと言ってられないよね!
『アオイ、ペルさん、ボヌールさん、ありがとうございます! 希望の光が見えてきた気がします!』
『おう、いいってことよ』
『何か作るようでしたらお手伝いしますよ』
「ああ、俺もさくらの作るものには興味があるからな、協力するぜ! 素材もある程度のものなら倉庫にあるが、早速やるか?」
『はい!』
よ~っし、戦闘用毒煙玉プロジェクト、始動だ~!
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