第91話 新兵器

 お夕飯を食べ終えた私達は、早速倉庫で毒煙玉の作成に取り掛かる。


「毒の材料はこれとこれでいいのか?」

『はい、ありがとうございます!』


 今回私が毒煙玉の材料にしようと考えたのは、アオイの提案してくれた玉ねぎと、刺激物の代表格、唐辛子だ。玉ねぎだけじゃ、弱い気がしたんだよね。ただ、食べ物を粗末にするのは私のポリシーに反するので、今回使うのは痛んじゃってて食材としては使えなくなっちゃってるやつだよ。何でも、いっぱいあるみたいなの。


 ボヌールさんが言うには、このイーヅルーの街は、もともと対モンスター用の要塞だったっていう理由から、農地が今でもほとんど無いんだって。確かに私もこの街で大規模な農地を見たことがないんだよね。家庭菜園くらいの規模のものなら見たことあるんだけど。じゃあ食べ物はどうしてるのって言えば、この街の周辺って、モンスターのいる森や山、崖に囲まれているから、狩猟に関してはかなり向いてる土地なんだって、あと、湖があるから漁もね。


 だからこの街は、モンスターの素材が主力産業になってるんだって。というわけで、この街の食糧事情は、モンスターや魚のお肉以外は、基本的に他の街からの輸入に頼っているんだって。そうなると、輸送の途中で傷んだり、そもそも収穫から街に来るまでに時間が掛かってたりして、農作物のロスがそこそこ出ちゃうんだって。


 というわけで、そんな風に痛んじゃった玉ねぎや唐辛子がそこそこあるみたいだから、それをボヌールさんに用意してもらったというわけです。


 それじゃ、まずは痛んだ玉ねぎを兵器に加工しよう! 玉ねぎは日本でもこの世界でも、老若男女問わず誰でも知ってる、催涙兵器だからね! というわけで、玉ねぎから催涙成分を取り出すために、まずはすりつぶすのです!


 アオイやペルさんも手伝ってくれるっていうから、遠慮なく手伝ってもらおっと。


『じゃあ2人とも、玉ねぎを徹底的にすりつぶしてほしいです』

『おう、任せろ!』

『ええ、お任せください』


 私達は3人で玉ねぎを徹底的にすりつぶす。


『さくらさん、これは辛いです』

『確かに、こいつは目に来るぜ。何か対処方法とかってねえの?』


 う~ん、水につけたり、熱を加えると目にしみるのを緩和できるって言うけど、今回はその目にしみる成分が欲しいから、そう言うお料理テクニックは使えない。そうだ、結界で顔を覆っちゃえば大丈夫かも?


『えっと、このしみる成分は空気中に舞っている玉ねぎの成分なので、結界で顔を覆うのはどうでしょうか?』

『なるほど、それじゃあ結界で顔を覆うぜ!』

『はい!』


 二人は結界で顔を覆う。もう既に目の中に入った分はどうしようもないけど、今後はいる分は防げるはずだ。


『うん、なんか楽になってきた気がするな』

『そうですね』


 ふ~、よかったよかった。私一人ですりつぶすのは大変だもんね。私はしみないのかって? それが不思議なことに、全然平気なんだよね。もしかして、玉葱が目にしみるんじゃイージーにゃんこライフを満喫できないからって、猫ボディには玉ねぎが効かないのかな? だとしたら凄くいいよね!


『うし、こっちは終わったぜ』

『はい、こちらも終わりました』

『二人ともありがとう。それじゃあ次だね』


 やっぱり3人でやると違うね。あっという間に玉ねぎのすりつぶしが終わっちゃったよ。


 それじゃあ、次は唐辛子を同じようにすりつぶさないとだね。ちなみにこの唐辛子、ボヌールさんの倉庫にあった唐辛子の中でも、一番からいのにしてもらった。ふふふ、これは危険な香りがするのです!


 でも、だからこそ取り扱いには注意が必要だね。私もテレビで見たことしかないんだけど、辛み成分の強すぎる唐辛子は、素手で触るのが危険なくらい危ないものみたいだからね。それに、調理中に加熱した時の煙もかなり危険らしいし。


 私がそんなことを思っていると、早速アオイがその可愛らしい肉球を使って唐辛子をすりつぶし始めていた。


『ぐああ、痛い痛い! 俺の肉球が!』

『ちょ、アオイ。唐辛子は玉ねぎより危険なんだって!』

『そう言う事は最初に言えよな!』

『言おうと思ったらもう作業始めてるんだもん』

『アオイさん、取り合えず回復魔法をかけます!』


 ペルさんがアオイに回復魔法をかけると、どうやら痛みは引いたみたいだ。


『はあ、はあ、俺の肉球がどうにかなっちゃうかと思ったぜ』

『唐辛子の辛み成分は、結構凶悪なの、気を付けないと危険だよ』

『ああ、そうだな。ここは強化魔法で肉球をガードするしかねえな』

『ええ、そうですね。それに、少しでも違和感を感じたら教えてください。いつでも回復魔法をかけますので』

『おう、頼んだぜ!』


 ちょっとトラブルがあったけど、その後は唐辛子のすりつぶし作業も順調に終わった。私? 私は大丈夫! このキジトラ柄の猫ボディの肉球は、唐辛子に負けるほど軟弱じゃないみたい!


『ふう、これで終わりか?』

『うん。後は魔法で玉ねぎと唐辛子の成分を強化して、それを煙玉に吸わせれば完成だよ』

『そっか、終わりか、なんだろう。大したことしてねえのに、終わってすげえほっとしてる』

『私もです』

「ははは、まあ玉ねぎも激辛唐辛子も、扱うのが面倒な食材だしな」

『熊親父は知ってたのか?』

「そりゃあな。俺だって料理くらいすることあるしな。ただまあ、激辛唐辛子は普通扱わないけどな」


 そう言えばそうだよね。普通の唐辛子ならまだしも、激辛の唐辛子なんてゼボンさん何に使うために買ったんだろう? まあ、それは置いといて、今はサクッと新兵器を完成させないとだね!


 私は、玉葱と唐辛子をすりつぶしたものに、それぞれ催涙成分を強化する魔法と、辛み成分を強化する魔法をかける。そして、投げやすい野球ボールくらいの大きさの煙玉と、隠し持つのに便利そうなどんぐりサイズの煙玉にそれを吸わせる。うん、完成したみたい!


『じゃじゃ~ん、みんなで作ったお手製毒煙玉だよ! あとはこの毒煙玉に名前を付けて、実験して効果を確かめれば、ほんとのほんとに完成だね!』

『名前か~、俺はパスだな。そういうセンスはねえからな』

『私もパスします』

「俺ももちろんパスだ。ま、さくらが頑張って考えな。実験は適当に森の中のモンスターにでも試して来いよ」

『はい!』


 う~ん、名前どうしようかな。かっこいい名前を付けてあげないとだね!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る