第40話 ミノタウロス達がやってきた!
今日、ミノタウロス達が街に来る。ガーベラさんやロジャー将軍の話だと、今日の午前中に確実にミノタウロス達が街へと到着するんだって。戦争が始まると考えると怖いけど、私も妖精の国のハンターとして出来ることをしようと決意したんだ。怖がってばかりじゃいられない!
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
『おかわり!』
「さくらちゃん、食べ過ぎじゃないかしら?」
『大丈夫です! まだまだ入ります!』
私は初めての戦争という恐怖と緊張を誤魔化すために、朝からギルドの食堂でもぐもぐとただひたすらにご飯を食べていた。アオイやボヌールさんも、食べれるときに食っとくのが戦士の基本だって言ってたから、遠慮なく朝からバク食いしてる。
でもガーベラさんは、食べすぎを心配してくれていた。私が今日食べたご飯の量は、自慢じゃないけど、私の猫ボディの体積よりもすでに多いからね!
「さくらさんがこんなに気持ちよく食べてくれる子だったなんて、思いもしなかったよ」
『ゼボンさんの料理が美味しいのがいけないんですよ』
ゼボンさんというのは妖精の国のギルドの料理人さんだ。普段はあまり接点がないけど、この人の料理の腕前は超一流だ。今日もすごくご飯が美味しい。
そして、私がもぐもぐと食べていると、ついにその時はやってきた。
「おい、来たみたいだぜ!」
城壁の上で、外の監視をしてくれていたにゃんこがギルドへと入ってくる。同時に、町中に鐘の音が鳴り響き、窓の外では信号弾のような魔法の光が空に輝く。この鐘の音と光は、敵襲来の合図なんだって。みんなも満を持して妖精の国のギルドから外に出る。私も食べかけのご飯をサイコキネシスで浮かしながら外に出る。
「さくら、決してここから離れるんじゃねえぞ!」
『はい!』
ボヌールさんにそう言われて私は返事をする。今日の私の仕事は後方での回復係だ。そのため、建物の外には出たものの、ギルドの庭で待機だ。もし怪我人がでたら、ギルドの庭まで運んで来てくれる手筈になっているからね。
「それではみなさん。妖精の国のハンターギルド、出撃しますよ!」
「「「「「にゃ~!」」」」」
この戦争に間に合うように、アオイと一緒に王都から帰ってきたギルマスのユッカさんの号令と共に、妖精の国のハンターギルドのハンター達がみんな一斉に飛び出していく。アオイもペルさんも行ってしまった。残されたのはギルドの職員であるガーベラさん、ボヌールさん、ゼボンさん、それと私の4人だけだ。
『みんな大丈夫かな?』
「大丈夫よ。みんな一流のハンターなんだから」
「ああ。心配するなって、みんな強いからな」
『わかりました』
「それじゃあ、準備して待機していましょうね」
『はい!』
残ったメンバーの役割は、私とガーベラさんが回復係、ゼボンさんが食事係、ボヌールさんがいざという時の護衛になる。あ~ダメ、ますます緊張してきちゃった。なんかこう、全然落ち着かない! あ~,う~。
「さくらさん、まだ食べれるのなら、食べるかい?」
『はい、そうします!』
「そうだ、食える時に食えるだけ食っときな! そのうちすげえ数の怪我人が押し寄せてきて、飯どころじゃなくなるかもしれねえしな!」
『はい!』
私はゼボンさんお提案に乗ってご飯を再度食べ始める。ボヌールさんは食える時に食えって言ってくれるけど、今の私はご飯を食べることで緊張を誤魔化さないと、メンタル面がかなりまずいことになっちゃいそうなのだ。なので食べる! ひたすら食べる! これでもかっていうくらい食べる!
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
ど~ん!
私がご飯をただひたすらに食べていると、突如轟音が鳴り響く。私の猫ボディが思わずびくってする。
『びっくりした~、何の音なんだろう?』
「今のは城壁に設置されている魔法大砲の発射音だな。どうやらミノタウロスどもが大砲の有効射程に入ったようだ」
その後も次々と魔法大砲が発射される。私達のいる場所からは、城壁が邪魔で前線の様子が見えないけど、そっか、ついに戦争がはじまっちゃったんだ。
「さくら、こっちの射程内に敵が入ったってことは、敵の射程内にこっちが入った可能性も高いってことでもある。改めて言うが、ギルドの庭には結界が張ってある。敵からの攻撃が城壁を越えてここまで来ても、結界があるうちは安全だから、絶対に敷地内から出るんじゃねえぞ?」
『はい!』
そして魔法大砲の砲撃が始まってから数分後、ついに、敵の攻撃がこちらに届き始めた。
どか~ん! どか~ん!
敵の攻撃が次々に城壁に、そして街へと降り注ぐ。敵の攻撃は。何やら火の玉のような丸い爆弾みたいだ。
『あの、街にも敵の砲弾ですか? 火の玉が落ちてますけど、大丈夫なんですか?』
「大丈夫だ。街の北側半分は敵の遠距離攻撃にさらされる恐れは最初からあった。だから、住民はすでに城に避難済みだ。家財道具なんかも基本的には地下室に入れてあるはずだから、街を気にする必要はないぜ」
『わかりました』
どか~ん! どか~ん!
その後も街のあちこちに敵の火の玉が落ち、爆発する。城壁の上の兵隊さん達を狙っているのか、城壁周辺での爆発が特に多い。
「っと、来たぜさくら、怪我人だ!」
「さくらちゃん、半分任せてもいいかしら?」
『はい!』
ギルドの庭には次々と怪我人が運び込まれてくる。みんな目を背けたくなるほど重症を負った怪我人ばかりだ。日本にいたころだったら、この光景だけでダウンしてたかもしれない。
でも、この世界に来てから、猫ボディでたくさん狩りをしていたからなのか、私は自分でもびっくりするほどしっかりと現状を受け入れられた。
『いきます。汎用回復魔法!』
私はポーションを作る時のように、回復魔法を怪我をした軍人さん達にかけていく。すると、あっさりと軍人さん達の怪我が治る。う~ん、ポーションで捻挫を治した時以来だけど、回復魔法の効果ってすごいね。
「あ、ありがとうございます!」
「にゃ!」
たぶん念話は使えないと思うので、私は可愛くひと鳴きする。軍人さんは私の返事を聞くと、すぐに走って戻ろうとして、ふらついて倒れた。
「おいおいお前、自分がどんな大怪我したか理解してんのか? そのレベルの怪我ってのは、何もしてなくてもとんでもない勢いで消耗するんだ。すぐに動けるようになるかっての。とりあえずそこのベッドで寝てろ。飯食えるなら食え」
「はい、わかりました」
「さくら、次いけるな?」
『はい!』
私とガーベラさんは次々に運び込まれる重症の怪我人さんを治していく。
どのくらいの人数を治したのかわからないし、どのくらいの時間が経ったのかもよくわからないけど、忙しいというのはそれに集中出来て、怖いとか緊張とか、余計なことを考えなくて済むからそれはそれで悪くないね。
「おいさくら! いいか? 今からここに火の玉が落ちてくるけど、結界があるから平気だ、びびるなよ!」
私が順調に回復魔法を使っていると、ボヌールさんが突然そんなことを言い出す。
『火の玉?』
「あれだ」
ボヌールさんが指さす方向をみると、丁度私達のいる妖精の国のギルドめがけて一直線に向かってくる火の玉があった。妖精の国のギルドは城壁から道路を挟んですぐのところにあるから、城壁めがけてミノタウロス達が攻撃をしているのなら、流れ弾が来ることくらいは想定していたけど、教えてもらいたくなかったかも。
私は再び回復魔法に専念しようとするけど、ダメだ、気になっちゃう! 怪我人さんも、もう治ってベッドで寝ている人たちも若干パニック気味になっている。あ~、うが~、教えてもらわなければ気にならなかったのに~!
そんなことを考えていたけど、火の玉はどんどん近づいてくる。
あの火の玉って、何で出来てるのかな? 落ちたところで爆発してるみたいだし、火薬とか使ってるのかな? それとも火魔法なのかな?
もはや現実逃避じみたことを考え始めた私の脳みそだけど、その間にもさらにどんどん近づいてくる。
ボヌールさんからはびびるなよって言われてるけど、もうダメ、もう嫌、もう無理! 私は目をつぶって全力で叫ぶ!
『うわ~ん! こっちくるな~!』
・・・・・・あれ? 何の音もしない?
「あら、さくらちゃん、これはサイコキネシスよね? 火の玉をキャッチしちゃったの? 凄いわ!」
「ああ、見事だぜさくら!」
私はゆっくり目を開けると、そこには空中で停止している火の玉があった。この感じ、どうやら無意識にサイコキネシスで火の玉をキャッチしていたみたいだ。でも、キャッチしちゃったけど、どうしよう、これ。
『あの、これ、どうしたらいいでしょうか?』
「ん? 取り合えず、今は街の外に出てるやつらはいないはずだから、投げ返せばいいんじゃねえか?」
「そうね。投げ返しましょう!」
『はい』
私は取り合えず、飛んできた方向めがけて投げ返した。
『これでよかったですか?』
「ああ、バッチリだぜ!」
「ええ、最高よ! さくらちゃん! それじゃ、回復の続きをしましょうか!」
『はい!』
私は再び怪我人の治療へと戻る。
「あれ? この怪我人どもって、あの攻撃で怪我した連中が多いよな? ってことは、さくらに受け止めてもらえば、怪我人減るんじゃないか? ん~、ユッカが戻って来たら相談するか?」
「こらボヌール! サボってないで仕事しなさい!」
「ああ、悪い。すぐ行く!」
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