第67話 妖精の国ハンターギルドの秘密会議その4

 私の名前はガーベラ、妖精の国ハンターギルドの職員よ。


 今日も恒例の秘密会議の日、出席者はいつもと一緒で、私、ギルドマスターのユッカ、解体係兼倉庫番のボヌール、料理人のゼボン、それから所属ハンターのアオイとペルちゃんよ。


「ガーベラ、今日はなんの話し合いをするの? ミノタウロスの脅威も去ったし、会議することなんて無いと思うんだけど」


 ギルマスのユッカが聞いてくる。確かにミノタウロスの脅威が消えた今、この街は平和そのものだものね。突然の会議に戸惑う気持ちもわからなくは無いわ。でも、そもそもこの会議はそう言った真面目な議題に関して話し合いをする場ではないのよ。別名、ただのお茶会なんだから。


「今日の議題はね、さくらちゃんの話よ」

「さくらさんの話か、さくらさんの話ならある意味ミノタウロスよりも重要だね。でも、この国に来た経緯とか、過去に何をしてたのかとか、僕がどれだけ調べてもよくわかんなかったよ?」


 ユッカは抜けたところがあるし、戦闘能力も高くないけど、ユッカは調査とか書類仕事とか、そっち方面に関しては文句なしに達人なのよね。そのユッカの調査で何も出なかった以上、私には打つ手なしね。


「ユッカの調査は信頼しているわ。あなたが粉骨砕身調べて何も出ないのなら、もう調査のしようがないわ。でも、今日の話はそう言う事じゃないの。みんなはさくらちゃんが人間の姿でもこの街でいろいろやってたことは知ってるかしら?」

「報告書にあった、薬師のさくらさんのこと?」

「ええ、その通り。理由は知らないけど、さくらちゃんは人間達と接触するときは、人間の姿で、薬師のさくらちゃんとして接していたの。でも、それが何と、とうとうこの街の軍人たちにもバレちゃったみたいなの」

『バレちゃったって言うけど、あれは隠してたのか? もともとバレバレだった気がするけど』


 アオイがそう言う。まあ、それはそうなんだけどね。私も最初から気付いていたし。


「ですね。私に料理を頼むときも、湖の貴婦人で出てきたこういう料理が美味しかったから食べたいって、何度か言われましたよ。猫のさくらさんが湖の貴婦人に泊まったという情報は無かったので、薬師のさくらさんとして食べたのかと勝手に思っていましたが」


 さくらちゃん、そんなことをゼボンに頼んでいたのね。


「だな~、隠すがあったのかはだいぶ怪しいよな。俺のところにも、あの剣の切れ味とか扱いやすさとかどうでした? って、まるで鍛冶師が自分の作品の使用感をチェックするかの如く聞いてきたしな。警備隊のバーナード隊長は薬師のさくらから借りたって言ってたが、十中八九さくらの作った剣だって思ったぜ」


 さくらちゃん、そんなこと聞いてたらバレるに決まってるじゃない。


『そうですわね。名前も毛色も魔力の波長も、何一つ隠しておりませんでしたもの。もっとも、例え隠されていたとしても、何となく同族の変身は見抜けるのですが』


 ペルちゃんも、なかなかに厳しい指摘ね。


「それでも一応隠していたみたいなのよ。でも、今回は軍の関係者の前でどうどうと変身したらしいの。そして、その場にいた軍の関係者に、やっぱり猫だったんだって言われて、なんで私が猫って知ってるの? って聞いたそうよ」

「それって、この街の軍の人達も、もともと知ってたみたいな口ぶりだよね?」

「それはわかるでしょう。彼らも彼らで薬師のさくらちゃんのことを調べていたし、何よりミノタウロス達との騒動の中で、猫のさくらちゃんのことも調べていたんだから。いくらさくちゃんが隠そうとしていたからって、ここまで抜けているとバレない方が不思議よ」

「それはそうだよね~、あのボヌールと7mのミノタウロスとの戦いの時に、さくらさんが発射した訳の分かんない攻撃とか、軍人なら調べるよね」

『でも、なんで人前で変身なんてしたんだ? 一応隠してたんなら、そんな迂闊なことは普通しないだろ? まさか、隠してたことを忘れちまったとかか?』

「流石にそこまで抜けてないと思うわよ。何でも今回、さくらちゃんが薬師さくらちゃんとして、学校の武器の授業で剣を使って戦いたかったらしくて、自動で戦う変わった剣を作ってきたのよ。私も見せてもらったけど、なかなか面白い武器だったわ」

『自動で戦う剣?』

「ええ、猫のさくらちゃんの時に魔力をチャージしておけば、薬師のさくらちゃんの時に自動で戦えるっていう剣ね」

『自動で戦うってことは、剣にチャージした魔力を身体強化なんかにも使って戦うってことか』

「ええ。私が持った感じだと、私でも剣豪になれそうな感じだったわ」

「でも、それでなんで猫だってバレたことにつながったの? 薬師のさくらさんがその剣で強くなっても、おかしな要素はないよね?」


 そうよね、普通そう考えるわよね。


「それがどうも意地になって、ストッパーがあったにもかかわらず、お構いなしに強大な魔力を薬師のさくらちゃんの体で受け止めたらしいのよ。確か、化け猫の術はちょっとした負荷でも解除されちゃうのよね?」

『そうだな。得手不得手にもよるが、基本的に戦闘力は大幅に落ちるし、変身後の体が強くない限り、ちょっとしたことであっさり解除される』

「そう言う訳で、さくらちゃんの一応の秘密のひとつが、公になっちゃったってわけ」

「でもさ、もとからバレバレだったわけだから、気にする必要なくない?」

「それがね~。今日さくらちゃんがここにやって来て、ガーベラさんも私が薬師のさくらと同一人物だって知ってたんですか? って、悲壮な声で聴いてきたのよ。あまりに気の毒で上手く慰めてあげられなかったわ。というわけで、どうにかさくらちゃんを元気付けられるアイデアを募集します。ほら、意見どんどん言って!」

「はい」

「はい、ゼボン」

「この間の8mのミノタウロスのお肉はまだまだあるし、美味しく料理を振舞えばいいんじゃないかな?」

「もう、さくらちゃんは女の子なのよ? そんな食べ物だけで元気になるわけないでしょう? きっと今はショックでご飯がのどを通らないはずよ」

『せっかくの春ですし、花が奇麗な場所に行くというのはどうでしょう?』

「いいわねペルちゃん。きっとさくらちゃんも喜ぶわ!」

『え~、絶対さくらは花より団子だって』

「俺もそう思うぞ」


 せっかくペルちゃんがいいアイデアを出してくれたって言うのに、アオイやボヌールはさくらちゃんが花より団子ですって? これだから男どもは!


「ユッカはどう思うの?」

「いや、僕はさくらさんとみんなほど親しくないから」


 この後、私達の議論は白熱したわ。


 結論は奇麗な花の見える場所での食事会になったわ。まあ、悪くない結論ね。花に癒されてからなら、ちょっとは食欲も出るでしょうしね。


「ん~、今日も結構がっつりお夕飯食べていったんだけどね」


 ゼボンが何かつぶやいているようだけど、よく聞き取れなかったわ。



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