第4話 捻挫なんてやっつけろ!
拠点に戻ってきた私は、とあることを思い出した。そう、ここは剣と魔法の世界だ。つまり、回復魔法だってあるに決まってる! ふっふっふ、捻挫よ、思い知るがいい。お前なんて回復魔法の前にはいちころに違いない!
ちょっとおかしなテンションになっちゃったけど、そこは許してほしい。だって魔法だよ? 剣と違って、日本じゃ使いたくても絶対に使えなかったものだ。だからこそ、日本にいたころからずっ~と憧れてたんだよね。
ぽふん!
私は痛くないように、今度は寝っ転がって人間ボディに変身する。ふっふっふ、私の予想はあたった。寝っ転がって変身すれば、変身後も寝っ転がったままだった。前回は立った状態で変身したせいで、変身後いきなり右足に激痛が発生したからね。
とりあえず上半身を起こして、私は捻挫をした右足首に回復魔法をかける。
「ヒール!」
捻挫した右足首にかざした私の両手から、柔らかな光が現れ、傷をいやしていく。
なんてことは起きなかった。
「あれ? ヒールは回復魔法の定番の名称だと思ったんだけど、違うのかな?」
う~ん、ちょっと呪文を変えてみよう。
「回復魔法よ、私の捻挫を癒せ!」
これも違うのか、次だ次。
その後も、私は知りうる限りの回復魔法の名前を叫ぶ。でも、全然だめだった。日本人なら誰でも知っているような有名ゲームの回復魔法の名前とかも試したんだけど、うんともすんとも言わないとは、まさにこのことかってくらい、何にも起きない。
「これはもしかして、回復魔法の適正がないとか、特殊な方法、例えばヒーラー系のジョブに付かないと回復魔法が使えないとか、そう言う事なのかな? う~ん、そうだ。猫の姿に戻って魔法が使えるのかチェックすれば、何かわかるかな」
ぽふん!
私は猫の姿になって、回復魔法よ出ろと念じる。すると、私の目の前には、きらきらと光輝く回復魔法っぽいエフェクトが現れた。
これって、きっと回復魔法だよね! 流石イージーにゃんこライフボディ、普通に使える! 待って待って、ならこのまま、どこにあるのかはわかんないけど、人間ボディに回復魔法を使えれば問題解決だ!
と思っていろいろ試したんだけど、ダメだった。何をどうやっても猫ボディで使える回復魔法で、人間ボディを治すことが出来ない。
でも、いろいろやったからこそわかったこともあった。まず、猫ボディだと私が思い描く多くの魔法を使うことが出来るっていうことだ。火魔法とか水魔法とか、私がイメージできる魔法はほとんど使えた。
二つ目は、人間ボディだとどんな些細な魔法も発動しないってことだ。こっちに来てから二日、散々思ってきたことだけど、猫ボディに比べて、人間ボディがハードモードすぎる。別に日本人だった時から弱体化してるなんて思ってないよ。でもね、剣と魔法の世界に、魔法も使えない日本人そのままのボディはダメでしょ! 昨日食べた1m越えの角の生えたウサギにだって、負ける自信があるよ!?
はあ、そんなことより今は捻挫だ。ほんっとこの捻挫どうしよう。振出しに戻っちゃったな。う~ん・・・・・・、あ、そうだ。魔法がダメなら、薬はどうなんだろう? 薬草とか、ポーションとか、回復系のアイテムっていうのも、剣と魔法の世界の定番だよね!
私は猫の本能に訴えかける。キジトラさんがイージーにゃんこライフな力をくれたこのボディには、頭脳だってついているんだ、絶対に作り方を知っているはずだ。
薬草~、ポーション~、やくそ~う、ぽ~しょ~ん~。
流石はキジトラさん印の猫ボディだ。あっさり回復薬の作り方が判明した。ふむふむ、何種類か作り方があるみたいだけど、一番簡単なのは、魔力を豊富に持っている植物をゴリゴリしてからそこに水を入れて、回復魔法を注ぎ込みながら混ぜればいいのか。意外と簡単にできそうだ。
ただ、魔力の豊富な植物か。ここは森だから植物はいっぱいあるけど、魔力の豊富な植物っていうのがよくわかんないな。ん~、私が寝床にしている、桜の花びらでもいいのかな? うん、何となく大丈夫そうだ。ここには散った花びらがいっぱいあるし、これを材料にしよう。
まず、すり鉢みたいなのが欲しいね。あ、土魔法で作れるのね。次に、花びらを集めないとだね。これは人間ボディに戻ってやった方が楽かな? あ、これもサイコキネシスで出来るのね。でも、地面に落ちてたやつだからちょっと汚れてるね。池の水で洗えばいいかな。え~っと、あ、池の水も水魔法なりサイコキネシスなりで取ってこれるのね。バシャバシャと洗って、よし、奇麗になった。
じゃあ、この桜の花びらをすり鉢に入れてっと、これで準備おっけいだね。私は目を閉じて精神集中をする。そして、す~、は~、と息を整え、かっ! っと目を開けてから桜の花びらに猫パンチマシンガンをお見舞いする。
ぺしぺしぺしぺしぺしぺし~!
よし、これで完璧に桜の花びらをゴリゴリできた。
じゃあ、もう一回池の水を取ってきて、すり鉢に入れればいいのかな。ついでに、手も桜の花びらをゴリゴリしたせいで汚れてたから、洗っちゃおっと。
それで、最後は桜の花びらをゴリゴリしたのと水を、回復魔法を使いながら混ぜれば完成か。え~っと、回復魔法の種類は、人間にも効く汎用タイプの回復魔法ってイメージをすればいいのかな? ま、材料もいっぱいあるし、違ったらやり直せばいいよね。
回復魔法を使いながら桜の花びらと水を混ぜると、回復魔法が桜の花びらと水を混ぜたものにどんどん吸収されていくのがわかった。私は回復魔法が吸収されなくなるまで頑張って混ぜ続ける。ふ~、これで完成だと思うんだけど、本当にこんなのでいいのかな? 完成した回復薬の見た目は、桜の花びらの影響か、桜色だ。あまりに簡単に出来ちゃったから少し不安だったけど、私の猫のカンが大丈夫だと言っているから、きっと大丈夫なんだろう。
私はとりあえず使ってみることにした。え~っと、使い方は、人間ボディに戻って一口飲むか、患部に直接かければいいのね。患部に直接かけるには、靴と靴下を脱がないといけないから、ちょっと怖いけど飲んでみるかな。
ぽふん!
私は人間の姿に戻ると、手で回復薬をひとすくいして、飲んでみる。すると、私の体を淡いピンクの光が包み込む。光っていたのはほんの数秒だったけど、光が収まった時、私の足の捻挫は、見事に治っていた。
「これは、成功っぽい! 全然痛くない!」
靴と靴下を脱いで確認してみても、腫れていたりする様子は一切ない。
「ふっふっふ、見たか捻挫め! お前なんて私の手にかかれば、いちころなんだよ!」
初めての回復薬にちょっとおかしなテンションになっちゃったけど、私は無事に捻挫との戦いに勝利した。
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