第99話 ギルマスさんのお部屋
「今後はこのような呼び出しは無しでお願いしたいものですね」
「ああ、わかっている。今日はすまなかったな」
バーナード隊長の嫌味に謝るのはギルマスさんだ。あの後、地下の訓練場からギルマスさんのお部屋に移動した私達は、このバーナード隊長という名の超イヤミったらしい男にお説教をされることになった。しかもそのお説教の対象には、ギルマスさんだけじゃなくて、私とゼニアさん、それに受付さんと試験官さんまで含まれていた。この男に、というか、警備部隊に何かを要請したのはギルド関係者なんだから、私とゼニアさんは関係ないのに。
おまけに、なぜか私とゼニアさん、受付さんに試験官さんは、床に正座させられている。ギルマスさんのお部屋はこれぞ執務室っていう雰囲気のお部屋で、執務机に応接セットまであるんだから、ちょっと詰めて座れば私達全員座れるのに!
なんであの男とギルマスさんだけが、応接セットでお茶を飲みながら向かい合って座ってるのさ。
「ところでさくら様。ロジャー将軍から少し聞いたのですが、ハンターギルドの資格を取るのは、王女様と一緒に鬼が島に行くためですよね? 誰かと一緒に行くのですか?」
あの男がこれ見よがしにお茶を飲みながら聞いてくる。
「鬼が島、ですか? 私が行くのは海産物の美味しい島ですよ?」
「おや? ご自分の向かう予定の島の名前すらご存じなかったのですか? 王女様が次に向かう場所に同行するのなら、その島の名前は鬼が島で間違いありません。海産物でも有名ではありますがね」
この国がフージ王国で、この街がイーヅルーの街、これから行く島が鬼が島って、なんかすっごく和風なネーミングだよね。人の名前は洋風なのに、街の名前が和風って、ちょっと違和感あるよね。
「そうだったんですね。えっと、同行者に関してはお姫様達と一緒に行くので、お姫様達がいますよ?」
「そういう意味ではありません。王女様達と一緒に鬼が島に向かうことはわかっていますが、鬼が島についた後は違うでしょう? 王女様達には王女様達のご予定がありますからね。私が聞いているのは、王女様達以外、向こうでさくら様と行動を共にする同行者はいるのかと聞いているのです」
「それでしたらいません。私一人で行きます!」
ガーベラさん達はこの街の妖精の国のギルドの職員だから、この街でお仕事があるし、アオイ達は鬼が島にはあんまり興味がないみたいなんだよね。何でも鬼が島にあるダンジョンのモンスターが、あんまり美味しくないんだって。海産物は? って思ったんだけど、海産物も好みが分かれるみたい。
私は元日本人だから、猫って魚好きなイメージがあるんだけど、猫が魚好きって思っているのは日本人だけみたいなんだよね。確かに猫の本来の狩りの相手って、小動物だもんね。それに、猫は濡れるのを嫌うから、本質的には魚を捕獲して食べる生き物じゃないのかもしれないね。
「はあ、さくら様おひとりで行かれるつもりですか? トラブルを起こさないでくださいよ?」
失礼ね! 私はトラブルメーカーじゃないからね。問題なんて起きません。
「あら、もしよければ私がついて行きましょうか?」
すると、ゼニアさんが手を上げてくれる。
「いいんですか?」
「ええ、もともと鬼が島への移動は考えていたの。鬼が島もこの街同様、この国の要衝なのよ。この街から危機が去った今、より戦力を欲している鬼が島へ移動しようと考えているハンターは、それなりに多いのよ」
「ま、基本はやばいことになりそうな街ほど、モンスターの討伐にしろ雑用にしろ、報酬が良くなるからな。ギルドとしても、鬼が島への移動は推奨してる」
ゼニアさんの説明に、ギルマスさんがフォローをいれてくれる。なるほど、そういうことなら鬼が島へ移動するハンターさんもいっぱいいそうだよね。
「ゼニアさん、あなたがさくら様と一緒に行って、いったい何になるというのですか? トラブルメーカーが二人になったら、もっと酷いことになるだけでしょう? はあ、仕方ありませんね。王女様の出立までに、私の方で常識のある同行者を選定しますか・・・・・・」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけど、私とゼニアさんが2大トラブルメーカー? 聞き捨てならないよね!
「バーナード隊長、私もゼニアさんのトラブルメーカーなんかじゃありませんよ!」
「ほんとよね。失礼しちゃうわ」
「さてギルマス、二人だけで少し相談したいことがあるのですが、このままお時間頂戴していいでしょうか?」
なあ! この男、私とゼニアさんの抗議を無視する気だな!
「もちろんだ」
「そう言う訳ですので、二人はさっさと出て行ってください」
「おい、こいつら連れてけ」
くう、ギルマスさんまでこの男の味方をするなんて、信じられない!
「かしこまりました。さくらさん、登録の続きがありますので、こちらに来てください」
うう、登録の続きは私もしたい。悔しいけど、ここは引いておくかな。
「はい」
私はそう返事をして受付さんについて行こうとしたけど、長時間の正座のせいでまともに立ちあがれなかった。ゼニアさんに手を貸してもらって、よろよろとお部屋を出ていく私を、あの男が笑いながら見ているような気がした。
もう気がしただけでも有罪でいいよね? いつか絶対仕返ししてやる!
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