第98話 ギルドマスターさん現る
「さて、てめえはどこのどいつだ? こいつらをやったのはてめえで間違いねえんだよな?」
鬼の形相の大男が骨をぼきぼき鳴らしながら私に近づいてくる。ううう、誰この人。ボヌールさんより怖い人なんて滅多にいないって言ってたのに、いきなりボヌールさんより怖い人が出てきたんだけど。
それと、こいつらをやったってどういうことなんだろう? 私が戦ってたのは試験官さん一人のはずなんだけど・・・・・・。私は疑問に思って周囲を見回して見ると、そこには、試験官さんだけじゃなくて、審判をやってくれていた受付さん、更にはこちらを気にしていた訓練中だった人達まで倒れていた。
そしてみんな、かひゅ~とか、はひゅ~とか、そんなものすごく苦しそうな息遣いだ。おまけに、顔にあるいろんな穴から、大人として出しちゃダメなものをいろいろ出しちゃってる。これは、もしかして私と同じ症状? っていうことはこの人達、毒煙玉の巻き添えになってたの?
「ええっと、やったのは私というか、私じゃないというか・・・・・・」
確かに毒の煙幕で試験官さんを攻撃したのは私だけど、ハロルドスレイヤーで止めを刺したわけじゃないから、まだやっつけてない。それに、審判をしてくれていた受付さんや、見学をしていた人達に関しては、そもそもやっつける気なんて無かったた。特にこっちをちらちら見てた人達は自業自得だと思うの。そう、好奇心は猫をも殺すってやつだ。
「ギルマスさん。そんな恐ろしい顔をしてはダメよ。さくらさんが怖がっているじゃない」
すると大男の後ろから女性の声がする。この声は、ゼニアさんだ! ゼニアさんにはあらかじめ作戦を説明していたから、私の毒煙玉に巻き込まれないように、いったん1階に避難してたのかな? やっぱりできる女は違うね!
それとゼニアさん、この恐ろしい人のことをギルマスさんって言ったよね? まさかこんなに怖い人がハンターギルドのギルドマスターなの?
「ゼニア、てめえの知り合いか?」
「私の知り合いも何も、薬師のさくらさんよ。ギルマスさんだって知っているでしょう?」
「ん? そういや確かに、以前警備隊から送られてきた手配書のガキに似てるな。だが、なぜ薬師がこんなところで毒を撒いてたんだよ」
「それはさくらさんがハンターギルドに登録に来たからよ。ギルマスさんならそこに倒れている人を見ればわかるんじゃないかしら? 実技試験の最中だったのよ」
「ん? 言われてみると確かに受付と試験官の組み合わせか。ってことは、ロジャー将軍の言っていた件か」
「ギルマスさん達の悪だくみの話は、私は知らないわ」
うん、私もそんな話は知らない。
「だがよう、薬師のガキ。これはちいっとばかしやり過ぎじゃねえのか? あの毒の煙幕、1階にまで立ち込めてきてたんだが? しかもだ。途中で毒性が大幅に下がったようだが、最初の強かった毒の煙幕を足元に浴びた連中は、足に激痛が走るって今も苦しんでんだよ。てめえ、俺のハンターギルドに喧嘩売ってんのか?」
そんなことを言われても困っちゃう。だってこの地下に入ってすぐの場所、つまり階段の側で試験を始めたのは、私の意向じゃないし。
「あら、奥で訓練中だった人達がいたから、遠慮して入口付近で試験を開始したんじゃないかしら? でも、それも審判と試験官が決めたことよ、さくらさんは関係ないわ」
流石ゼニアさん。凄く頼りになります!
「ゼニア、お前は引っ込んでろ、俺はこのガキに聞いてるんだ。んで、やり過ぎだとは思わなかったのか?」
えええ、待って、ゼニアさんにいなくなられると凄く困る。でも、確かにゼニアさんに丸投げも良くないよね。
「えっと、試験官さんが手を抜かないって言ったので、私も手を抜くわけにはいかなかったといいますか、なんて言いますか・・・・・・」
だ、ダメだ。私は剣だけじゃなくて口喧嘩すら強くない・・・・・・。
「で? やり過ぎとは思わなかったのかよ?」
ううう、ダメだ。ギルマスさんのプレッシャーが凄すぎる。でも、やり過ぎと思ったと言えばいいのか、思わなかったといえばいいのか、どう答えるのが正解なのかがわかんない。
どうしよう。どんどん近づいてくるし。ここは、もういっそどんぐりサイズとは言わず、サッカーボールサイズの毒煙玉を使って逃げようかな? 使うのと同時に猫ボディに戻って逃げればいいよね。
と、とりあえず使うかはともかく、魔法のカバンの中からサッカーボールサイズの毒煙玉を出しておこう。
私がサッカーボールサイズの毒煙玉を魔法のカバンから取り出すと、すぐさまゼニアさんが私とギルマスさんの間に割って入ってきた。そして、ゼニアさんはギルマスさんを思いっきり蹴り飛ばす。ギルマスさんも両手でガードしたみたいだけど、ゼニアさんの蹴りの威力が凄かったのか、大きく後ろに後ずさる。
「ゼニア、これはどういうことだ? 俺は引っ込んでろって言ったよな? にも関わらず俺に攻撃までするとは、どうなるかわかってんだろうな!?」
「ギルマスさん、頭を冷やしなさい。さくらさんの手に持っているものが見えないの?」
「あ? ただの煙玉だろうが」
「さくらさん、さっき使った小さな毒煙玉を出してちょうだい」
「あ、はい」
私はゼニアさんに言われるがままにどんぐりサイズの毒煙玉を取り出す。
「ギルマスさん、さっきの毒の煙幕を生み出したのはこの小さい方の毒煙玉なのよ? もしさくらさんが今持っている大きな毒煙玉を使ったらどうなるか、わからないわけではないでしょう? ハンターギルドだけでなく、ギルドの周辺にまで迷惑がかかるわ」
「あん? 俺を脅そうってのか? そんなもんが俺に効くと思ってんじゃねえだろうな?」
「違うわ。見境なく高圧的な態度をとるのは良くないということよ。いまのさくらさんみたいに、パニックになることもあるわ。ギルマスさんの相手は私一人で十分だから、さくらさんもその大きな毒煙玉はしまってね。使ったらまた警備部隊のバーナード隊長に嫌味を言われちゃうわ」
「はい!」
「ほお、タイマンで俺に勝てるっていうのか、ゼニアよ」
「ええ、そうよ」
ゼニアさんとギルマスさんは、まさに一触即発の状態になる。す、凄い迫力。二人の視線の間に、火花が見えるような気さえする。
私はとりあえずゼニアさんに言われた通り、大きな毒煙玉を魔法のカバンにしまう。いざとなったら猫ボディにもどって、ゼニアさんに強化魔法をかけて応援しないとだね。
私がそんなことを思っていると、階段からさらに人が降りてくる。あれ? あの服装って。
「はあ、ハンターギルド内への緊急の救援要請があったから何かと思って来てみれば、まったく、またあなたですか? さくら様。おまけにギルマスがいるにもかかわらずこの騒ぎとは、いったい何があったんです?」
やっぱりそうだ。階段から新たに降りてきたのは、私とゼニアさんの天敵。あの男こと、警備部隊のバーナード隊長だ。
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