第97話 ハンターギルドの試験

「みいぎゃあああああああ!」


 目が、鼻が、口が、、全身があああああ!


 ぽふん!


 がさごそ、だだだだだだだ!


 私は堪らず猫ボディに戻る。そして、猛ダッシュで毒の煙幕から逃げ出す。


 ぜえぜえ。あ、危なかった。まさかあんなに痛いとは思わなかった。イージーライフにゃんこ魔法で強化すると、玉ねぎと唐辛子でさえもあそこまで凶悪な凶器になるなんて。


 それよりおかしいよね。毒煙玉を作ってた時は、アオイやペルさんと違って私の猫ボディは痛くも痒くも無かったのに、今日はいったいどうしたんだろう? ってそっか、痛くも痒くもなかったのはあくまでも猫ボディだったからってことなのかも! 人間ボディだとここまでのダメージを受けるとは。毒煙玉おそるべし!


 さて、取り合えず窮地は脱したわけだけど、この後どうしようかな。このまま猫ボディの魔法、サイコキネシスでハロルドスレイヤーを使えば、試験官さんにもさくっと勝てると思うけど、それだとこの試験はどうなるんだろう? なんとなくだけど、猫ボディで勝つのはまずい気がするよね。


 やっぱりここは人間ボディに戻って勝ちたいところだね。でも、このまま人間ボディに変身して大丈夫かな? う~ん、きっとダメだね。前に捻挫した時、猫ボディに一旦戻って、すぐさま人間ボディに変身したけど、その時捻挫はそのままだったもんね。ハロルドスレイヤーの力を解放して倒れた時は時間の経過で治ったから、たぶん時間の経過で人間ボディは治ると思うんだけど、今は時間がぜんぜん経ってないから、人間ボディになっても治ってないと思う。


 ということは、捻挫を治した時みたいに、人間ボディに変身してからポーションを飲むしかないね。でも、前回の捻挫は足さえ使わなければ痛くなかったけど、今回は人間ボディに戻った瞬間に全身に激痛が発生する可能性が高いよね。ここは、人間ボディへの変身からポーションを飲むところまで、最速で行う必要があるね。


 ポーションはさっき猫ボディに戻った時に、地面に落ちちゃったカバンの中にあるから、急いでそれを回収しよう。ついでに脱げちゃった服もだね。


 ただ、猫ボディでなら十中八九大丈夫とはいえ、あの毒の煙幕の中にはもう入りたくないので、ここはサイコキネシスの魔法で手繰りよせよう。


 私はサイコキネシスを発動させると、元いた場所のあたりをがさごそとあさる。


 よし、みーっけ!


 カバンの中のポーションも、ちゃんとあるね。じゃあ後は、人間ボディに戻ってポーションを飲むだけだけど、万が一にも効かないとショックだから、今一度ポーションに回復魔法を追加しておこう。確かガーベラさんが、ポーションに追加で回復魔法をかける事で、一時的にポーションの効果を上げれるって言ってたもんね。


 でも、今のこの状況のまま人間ボディに戻ってポーションを飲んでも、それだけじゃダメだね。なにせ元凶の毒の煙幕がまだ大量に残っているもんね。かといって煙幕を吹き飛ばすのも良くないよね。煙幕のない場所で変身したりなんかしたら、正体がばれちゃうもん。ううん、待って、もしかして、正体はとっくにバレてるかもしれないからそれは気にしなくていいのかな? う~ん、でも、猫ボディでの勝利は、何となく私的にも人間ボディでの勝利とは分けたいから、ここはバレないようにしようかな。


 そうと決まれば、ここはイージーライフにゃんこ魔法で強化した分を無効化しよう。そうすれば残るのは普通の玉ねぎと普通の唐辛子の成分がちょっと入った、少し刺激的な毒の煙幕だからね。ついでに煙幕をよりもくもくにしている魔法も解除しようかな、そうすればそのうち毒の煙幕そのものも消えるはずだしね。どんどん薄くなるただの玉ねぎと唐辛子の煙幕、これならきっと人間ボディでも耐えられる!


 よ~っし、じゃあ、毒の煙幕を強化している魔法の無効化、人間ボディへの変身、ポーションの一気飲み、この工程を最速でやるだけだね。変身後は目が使えない可能性があるから、あらかじめポーションの瓶のふたを開けて、その上で両手でしっかりと持っておく。これで準備万端だ。


 さあ、やるよ。大丈夫、私はやればできる子だ! そう、やればできる子だ!


 す~は~、す~は~。よし、心は決まった! いざ! 尋常に、勝負!


 魔法よ、無効化して! 私はイージーにゃんこライフ魔法で毒の煙幕を強化している私自身の魔法を無効化する。よし、成功だね! 次は変身だ!


 ぽふん!


 むぐぐぐぐぐ! 全身、特に目と鼻と口というか喉が痛い! でも、ここで怯んじゃダメだ。ポーションは私の手の中にある! 一気に飲み干すんだ!


 私はポーションをごくごくと飲み干す。ぷは~!


 ポーションのおかげで痛みが一瞬で引いていく。やった、無事に成功だ。


 まだ毒の煙幕は健在とはいえ、魔法を解除した今、ただの玉ねぎと唐辛子くらい、恐るるに足らないね! とはいえ、やっぱりどのくらいのダメージになるのか、ちょっと、ううん、だいぶ怖いので、恐る恐る目を開ける。うん、少ししみるし、涙が出てくるけど、耐えられない程じゃないみたいだね。


 あとは、素早く着替えて、ハロルドスレイヤーを持ってっと。


 よし、準備完了だ。毒の煙幕のせいで目はしみるけど、試験官さんを煙幕の中で探して、一撃入れれば私の勝利だ! 向こうはまだ毒魔法で強化されてた時の毒に苦しんでいるはずだし、いまなら確実に勝てる!


 そう思って煙幕の中で試験官さんを探し始めたんだけど、階段のある方向から大きな声が響いてきた。


「おいてめえら! 俺のギルドの地下でなにしてやがる! おい、誰か返事しやがれ!」


 な、何この声、誰の声かわかんないけど、すっごく怒ってる声だ。


「ああ!? 返事しねえだと!? おい、お前ら、この煙幕を全部吹き飛ばせ!」

「「「はい!」」」


 すると風が巻き起こり、私の毒の煙幕があっさりと消え去る。そして階段からは、鬼の形相の大男が降りてきた。


 ど、どうしよう。私は何も悪いことはしてないはずなのに、すっごく怒られそうな雰囲気を感じる。こんなことなら、せめて煙幕をよりもくもくにしてる魔法だけでも維持しとけばよかった。そうしたら気付かれずに済んだかもなのに!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る