第96話 ハンターギルド
私はゼニアさんを仲間にして、ハンターギルドへとやってきた。ハンターギルドはすっごく分かりやすい場所に建っている。何せこの街に入ってすぐのところにある、門前広場にでで~んって建ってるからね。しかも、この街にある3つの門すべての門前広場にあるんだよ。だから、ハンターギルドは3個所あるんだけど、今私が来ている場所は、その中でも一番大きくて、この街のハンターギルドの本部的役割も持っている、中央門のハンターギルドです。
ごくり、ここがこの街のハンターギルドの本部か。緊張しちゃうね。
「ふふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。今の時間はハンター達も仕事に行っている人が多いから、中は空いていると思うわ。それに、さくらさんは妖精の国のギルドのボヌールさんとお知り合いよね? あの方より怖い人なんて、そうそういないわよ」
「それはそうかも知れないですけど、ボヌールさんは外見はともかく中身は優しいって知ってるので」
「ふふふ、そうなのね。でも、ハンター達も基本は可愛い子が多いのよ? 私もついつい可愛がっちゃうくらいだし」
うう~ん、基本強面の人の多いハンターさん達を可愛いだなんて、ゼニアさんと私とでは可愛いの基準が違いすぎるね。
「さ、行きましょう。こんなところにいたらみんなの邪魔になっちゃうわ」
「はい!」
私は意を決してハンターギルドへと進んでいく。ハンターギルドの入り口の扉は開けっ放しになっているから、中の様子が入る前からわかるんだけど、なるほど、確かにゼニアさんの言うように、この時間人は少ないみたいだね。後ろにゼニアさんがいると思うと安心できるし、ここは堂々と乗り込もう!
無事に中に入ったところで私は周囲を見渡す。ハンターギルドの中にある設備そのものは妖精の国のギルドとあんまり変わらないのかな? 受付カウンターがあって、売店があって、階段があって、ご飯屋さんもある。
「さ、さくらちゃん。受付カウンターにいきましょ」
「はい!」
受付にはこれぞ役所の人って雰囲気の人達が座っている。窓口は何か所あったので、私は誰も並んでいない、真面目そうな男の人の座るカウンターへと向かって行く。
「ハンターギルドへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「はい、ハンター登録をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。身分証明書はお持ちでしょうか?」
「はい、これで大丈夫ですか?」
私はロジャー将軍の鍵を受付さんに渡す。この国では日本みたいに、正確な戸籍があるわけじゃないみたいだから、身分証明書がなくても各ギルドに登録することは出来るんだって。ただ、やっぱり身分証明書があったほうが何かとスムーズに手続きが進むらしいの。
「こちらはロジャー将軍の紋章ですね。もちろんこの鍵で大丈夫です。では、次にこちらの書類に記入をしてください」
「はい」
渡された書類の記入事項は、名前、得意な武器と戦い方、受けたい依頼の傾向、他のギルドへの加入の有無などだね。でも、その中でも必須の記入は名前だけみたい。名前だけって、それでいいのかな? もしかして、これがロジャー将軍の鍵パワーなの?
「あの、最低限名前だけでいいんですか?」
「そうです。パーティーを組まずにソロで活動していく予定でしたら他の項目を記入する必要はありません。もしパーティーを組みたい場合でも、ご自分でメンバーを探す場合は不要です。ですが、ギルドの仲介でパーティーを組むことを希望するようでしたら、紹介に必要になります」
「では、私はソロの予定なので、これでお願いします」
「かしこまりました。では次に実技試験をさせていただきます。この実技試験は、ハンターの仕事の多くが街の外での仕事になるため、最低限の武力があるのかのチェックと思ってください。本来ですと、得意な武器や戦い方等から試験内容を決定するのですが、さくらさんの場合は剣ということでよろしいでしょうか?」
受付さんはちらりと私の持つハロルドスレイヤーに視線を向けながら聞いてくる。
「はい。ただ、剣以外にもサブ武器があるのですが、そちらを使用してもいいでしょうか?」
「もちろん構いません。試験内容は試験官との模擬戦になるのですが、どんな形であれ、試験官に実力を見せていただければ大丈夫です。試験はすぐに受けられますが、今からでもよろしいでしょうか?」
「はい!」
「では、訓練場に向かいますので付いてきてください」
私は受付さんについて訓練場へと進んでいく。訓練場は建物の地下にあるみたいだね。結構広い地下空間が広がっていてびっくりだ。中には数人の人がいて、素振りしたり模擬戦をしたりと、訓練をしているみたいだ。
「地下なのに広いんですね」
「はい、ここはいざという時に様々なことに利用できるように、広く作られておりますので。直近ですと、ミノタウロスの襲撃時に野戦病院として使用しておりました。では、少しお待ちください、試験官を呼んできます」
「はい」
受付さんは、訓練中の人に声を掛ける。もしかしてあの人が試験官さんなのかな? すると私の予想通り、受付さんは訓練中の人と二人でこちらに戻ってくる。
「おう、お前が加入希望のさくらか。ってかお前って、例の薬師のさくらだよな?」
「例の薬師かはわかりませんが、薬師もしているさくらです」
「そうかそうか、お前のポーションには俺達ハンターもかなり世話になったからな、礼を言うぜ。だが、試験は試験、手は抜かねえからな!」
「はい! 望むところです!」
「ははは、やる気十分ってか? んじゃ、早速やるぜ」
試験官さんは隅っこに置かれていた木槍を1本手に取り、私の前まで歩いてきた。それと、さっきまで訓練をしてた人達も、興味があるのか訓練を中止してこちらを見ているみたいだ。
ううう、ゼニアさんに見られる分にはいいんだけど、見知らぬ人に見られてるとちょっと緊張しちゃうね。でも、海産物のためにも今は頑張らないとね!
「立会人と審判は私が務めます。双方準備はいいですか?」
「ああ」
「はい」
「では、はじめ!」
先手必勝! 私は手の中に隠し持っていた、新兵器の毒煙玉の中でも一番小さいサイズ、どんぐり毒煙玉に魔力を流して、親指で試験官さん目掛けて飛ばす。ふっふっふ、これはハロルド先生から教えてもらった、指弾という技なのです!
ハロルド先生みたいに目とかにピンポイントで当てる技術はないけど、今飛ばしたのは毒煙玉だからね、とりあえず前に飛んでくれれば大丈夫なのです!
「指弾か?」
私の指弾に試験官さんもすぐに反応する。でも、私の指弾は試験官さんまで届かずに、地面にポトリと落ちる。
「ん? 届いてねえぞ」
試験官さんに、指弾が届かなかったことを指摘される。でも、これでいいのです。なにせ私が飛ばしたのはどんぐりサイズとはいえ、毒煙玉だからね! 私と試験官さんの間には、ちょっと微妙な間が生まれたけど、すぐさま毒煙玉が本領を発揮して、周囲に毒の煙幕を展開する。
「ちい、煙幕か!? って、うがああああああああああ!」
試験官さんが毒の煙幕に覆われたかと思ったら、凄まじい絶叫が地下訓練場にこだまする。そういえばこの毒煙玉、結局一度もテストをすることなく今日初めて使ったけど、凄い効き目だね。
「ふっふっふ、ただの指弾と思ったのが運の尽きです! そう、これは毒煙玉なのですよ! さあ負けを認めるのなら今のうちですよ!」
私は試験官さんに負けを認めるように言うが、試験官さんは絶叫していて私の話を聞いていないみたいだ。
そして、試験官さんに襲い掛かった毒の煙幕が、私のほうにもどんどん広がってくる。でも、慌てない、焦らない。なにせこの毒が私に効かないことは製造時に確認済みだからね! つまり、私にとってこの毒の煙幕は毒の煙幕にあらず! 私だけは自由に動ける、私のフィールドというわけです!
私は毒の煙幕にあえて自分から突撃する。煙幕の中からはまだ試験官さんの苦しむ声が聞こえるから、間違いなく勝機だね!
「試験官さん、覚悟~! みいぎゃああああああああ!」
でも、毒の煙幕に突撃した私を待っていたのは、全身を襲う激痛だった。
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