第95話 お姫様からの返事
「さくらちゃん、いま時間大丈夫かしら?」
『はい! ゴロゴロしてるだけなので大丈夫です』
今はゼボンさんの作る試作料理の味見をするために、食堂でゴロゴロ待っているだけだからね。
「ふふ、そうなのね」
ガーベラさんがそう言ってほほ笑む。ん? よく考えると今の私って、ダメダメな気がする。特に人間としていけない気がしてきちゃうのが不思議だよね。ただ、今は猫ボディだし、猫としてはご飯を待つ間ゴロゴロしてるっていうのは正解な気がするから、このままでいいよね?
「少し時間が掛かっちゃったけど、海産物の豊富な島に行く件、無事に了承をもらってきたわ。王女様がこの街を出立する際に、一緒に行けるわよ」
『やった! ありがとうございます!』
やった~! これで久しぶりの海産物に思う存分ありつけるね! それに、海産物より美味しいと言われている海のモンスターも! ふふふ。
「どういたしまして。それでついて行くことに関する条件なのだけど、特にないわ。海産物もそのままもらえるから、ただただ連れて行ってもらえるっていうことね」
『そうなんですか? 野戦病院を開く件はどうなったのですか?』
「それはさくらちゃんの気が向いたらしてくれればいいわ」
『それでいいんですか?』
「もちろんよ。だって、元々がポーションを妖精の国の定価で大量に売った件のお礼と、揉め事の件のお詫びだからね。さくらちゃんが同行したいって件を向こうに伝えたら、責任をもってお連れしますって、あっさり了承してもらえたわ」
それはラッキーだね! 猫ボディでなら、野戦病院をするのはそこまで苦じゃないとはいえ、やっぱり何かしらしなきゃいけないことがあると思うと、心の余裕が失われるからね。しかもそれが、人の命のかかった野戦病院ともなれば、なおさらだよね。
「それに、元々私達妖精の国とこのフージ王国は、直接的な軍事協定とかがあるわけではないのよ。あくまでも妖精の国の魔法薬、つまりポーションなんかを売ってほしいっていう関係ね。ただ、ポーション自体が多少軍事物資の性質を持つから、間接的には軍事的協力国になるのだけどね。だから、この国に妖精の国のギルドがあるのも、軍事的に協力するためではなくて、海を渡って製品を運ぶより、この国で作ったほうがいろいろ手間がかからないからなの。そういうわけだから、いくらギルドがこの国にあるとはいえ、表だって野戦病院をやってほしいとは言いにくいのね」
『でも、ミノタウロス達の時はやりましたよね?』
「あの時はロジャー将軍も内心切羽詰まってたんじゃないかしら? 以前留守を頼まれたことはあっても、あんなに直接的にお願いされたのは初めてだったし。まあ、ミノタウロスなら美味しいから、アオイ達も割と乗り気だったしね。だからさくらちゃんも、妖精の国のギルドが積極的にこの国の争いに介入したって思わないでね。私達はあくまでも巻き込まれたっていう建前だから。さて、それじゃあこの話はこのくらいでいいにして、重要な話をしましょう」
『重要な話ですか?』
「ええ。その海産物の豊富な島なんだけどね、ダンジョンのおかげもあってポーションの素材が取れるから、妖精の国のギルドの出張所がこの街同様にあるんだけど、担当している種族が熊なのよ」
『熊さん、ですか?』
「ええ、この国にある妖精の国のギルドの出張所は、場所ごとにハンターの種族が違っていてね。島の担当は熊たちなの」
わ~! それはちょっと嬉しいかも! てっきり他の種族には妖精の国本国に行かないと会えないと思ってたんだよね。でも言われてみれば妖精の国のハンターは、単独や少数で狩りをする肉食動物が多いって言う話だもんね。草食動物ならまだしも、にゃんこ以外でも単独での狩りを好む種族なら、この国にいて当然だよね!
「あら? さくらちゃんは熊達と出会えるのが嬉しいの?」
『はい!』
「そうなのね。アオイなんかは以前一緒に寝てた時に潰されかけたとか言って、大きな種族を嫌うのに」
『え? 潰されるんですか? それは嫌です!』
「ごめんなさいね、少し脱線しちゃったわ。その話はひとまず置いておくとして、本題に入るわね。今言ったように、ギルドの出張所ごとにハンターの種族が違うのよ。だから、島のギルドの出張所は、熊達が快適に暮らせるように出来ていて、さくらちゃん達猫が快適に暮らせるようにはなっていないのよ」
なるほど~、でもそれは当然だよね。確か、私達にゃんこ同様、熊さんも薄明薄暮性だから、生活のリズムが極端に合わないってわけじゃないと思うけど、寝床の好みなんかはきっとちがうもんね。
「だから、さくらちゃんにはギルド以外の寝床を探してもらわないといけないの。王女様が泊まる場所を用意してくれるとは言ったのだけど、場所が領主の館だったのよね。しかも王女様はポーション等を引き渡して、激励の式典をしたら王都に帰る予定になっているそうだから、滞在は一時的なものになるの。王女様がいなくなった後、一人で領主の館に泊まるのは、ちょっと嫌でしょう?」
『はい。それは絶対いやです!』
「だから、寝床は街の宿屋を取るのがいいと思うの。さくらちゃんは人間の姿で人間の宿に泊まるの、嫌いじゃないでしょう?」
『はい』
「おすすめの宿屋に関しては私も知らないのだけど、王女様達に教えてもらえばいいわ。王女様は知らないかもしれないけど、近衛の人達ならきっと知っている人がいるからね」
『はい、そうします!』
最近は宿屋にも全然泊まっていなかったし、丁度いい機会かもしれないね! そもそも私ってば、自分のお金で宿屋に泊まったことが一度もないのよね。ここは普通の宿屋暮らしを満喫するのも楽しそうだよね!
「ただ、そこで一つ問題になることがあるの。身分証明書ね」
身分証明書か~。ロジャー将軍の鍵じゃだめなのかな? それとこのギルドのタグ。
『えっと、これではだめなんですか?』
私はロジャー将軍にもらったカギと、以前ガーベラさんに作ってもらった妖精の国のギルドのタグを見せる。
「ロジャー将軍の鍵は、ちょっとだけ街に入る分には問題ないわ。ただ、街でいろいろなことをするとなると問題になりやすいのよ。なにせ島を治めているのはロジャー将軍じゃないからね。他の地域の支配者のひも付きの人間が街であれこれするのは、好まない人が多そうでしょう?」
『確かに問題になりそうですね』
「それと、妖精の国のギルドタグも出来れば避けたほうが無難ね。もちろん猫の姿の時は使ってもらって構わないんだけど、人間の姿で妖精の国のギルドタグっていうのは、不自然でしょう? まったくダメっていうわけじゃないけど、余計なことを詮索されるのは鬱陶しいものよ。だから、この街でしているように、猫の姿のときはこのギルドのタグ、人間の姿の時はロジャー将軍の鍵といったように、使い分けるのをお勧めするわ」
『わかりました。でも、そうするとどうしたらいいんでしょうか? 人間の姿での身分証明書を思いつかないのですが』
「それはね、この国のハンターギルドに登録するのよ!」
『ハンターですか? でも、この国の国民じゃない私が、登録できるんですか?』
「本来なら少し問題があるけど大丈夫よ。ロジャー将軍の鍵があるからね。それを身分証明書としてハンターギルドに登録しちゃえばいいの。ロジャー将軍の鍵を使う件は、既に許可を取ってあるの」
『わかりました。それじゃあ、ハンターギルドで登録してきますね!』
「ええ、さくらちゃんの実力なら落ちることはないと思うけど、頑張ってね! あ、実技試験があるから、あの剣だけじゃなくて、毒煙玉も忘れずに持って行ってね」
『はい!』
それじゃあ2階で着替えて、早速行こうかな! あ、でも、街でよく見かけるハンターって、怖そうな人が多いんだよね。一人で行って大丈夫かな? ん~、そだ、空いてたらゼニアさんに一緒に来てってお願いしようかな!
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