第94話 もっと美味しい海産物?

『かっいさんぶっつ、かいさんっぶつ! かっいさんぶっつ、かいさんっぶつ!』


 ロジャー将軍とお姫様との話し合いは今度こそ無事に終わった。今度こそ間違いなく終わったよ。だって、みんな帰ったからね。


 お姫様との会話は、最初こそちょっと緊張したけど、終わり良ければ総て良しだね! 今の私の思考は海産物100%だ! お姫様ってば、どんな海産物送ってくれるんだろう?


 お醤油もあるって言われちゃうと、元日本人としてはお刺身は外せないよね。それから煮付けでしょ~、塩焼きでしょ~。あ、塩焼きはサケの塩焼きがこの街でも食べられるから後回しでもいいかな。あとは貝類も美味しいよね。網焼きにして醤油とお酒をぽたりとか、うん、想像しただけでよだれが出ちゃいそう。しかもさらに、てんぷらとかフライだってあるわけだし、うう~ん、たまんないね!


『おいおいさくら、現物が来るのはまだまだ先だぜ? 今からそんなんじゃ、待ちきれなくなるぞ』


 おおっと、顔に出ていたみたいだ。アオイにそんなことを言われちゃった。


「ふふふ。でも、海産物はいい収穫だったわね」

『はい! しかもギルドのみんなで食べれるくらい送ってくれるなんて、流石お姫様ですよね。太っ腹です!』

『だな! たださくら、届くのはあくまでも普通の海産物だから、絶対的な美味さに期待し過ぎるのは止めとけよ?』

『普通の海産物? それじゃあまるで、普通じゃない海産物があるみたいに聞こえるんだけど』

『それがいるんだよ。しかもそっちの方が美味いんだぜ?』

『そうなの?』

「もう、アオイったら、海産物を楽しみにしてるんだから、余計なこと言わなくてもいいのに」

『いや、でもよ。相手はさくらだぜ? 北の崖の上のモンスタークラスの美味さを期待されてると、ちいっと問題な気がするだろ?』

「それもそうね。さくらちゃん、一般的に海産物というと、人に害をなさない貝や魚のことなの。それはいいかしら?」

『はい』


 それは別に普通のことだよね。日本で食べてた魚だって、基本的に人を害するような魚は少なかったもんね。サメみたいに油断するとこっちが食べられちゃいそうなのとか、フグみたいに食べる時に気を付けないといけない魚はいたけど。


「でも、海にも自然の魔力の濃い場所と薄い場所があってね。自然の魔力の濃い場所には、人がそう簡単に倒せないものすごく強い海産物がいるの。例えば、普通の魚は船に攻撃をしてくることはないわ。でも、魔力の濃い場所に住む魚には凄い巨大な魚もいてね、そういう魚に体当たりをされたら、並みの船は木っ端みじんになっちゃうのよ。しかも、ほぼ100%自身を強化する魔法を常時使用しているから、逃げることも難しければ倒すことも難しいの」

『それ、本当に海産物、魚なんですか? ちょっと怖すぎます』

「ふふふ、そうよね。だからそう言う強い海産物は、一般的には海産物とは呼ばないわ。明確な境界線があるわけではないのだけど、基本的には人に害をなさない、あるいは少し注意すれば害のない海の生き物を海産物と言って、人に害をなす強い海の生き物のことを、海のモンスターと呼ぶのよ。これは陸上でも同じね、2cmくらいの蜂は昆虫って呼ぶけど、30cmくらいあるような蜂はモンスターって呼ぶからね」

『んで、今回あの女が送ってくれるって言ったのは、海産物だからな。海のモンスターは含まれないってことだな』

「それで問題なのはどっちのほうが美味しいのかということなのだけど、海の生き物でも、自然の魔力の濃い場所に生息する生き物の方が美味しいのは陸上と一緒なのよ。だから、一般に海産物と呼ばれているものよりも、海のモンスターの方が美味しいのも事実なの。とはいっても、海のモンスターにもいろいろいるから、少しくらいは海のモンスターを取ってきてくれるかもしれないわね。この国は人間の国でも有数の海洋国家だから、海のモンスターと戦える船も持っているからね」


 なるほど~、つまり、普通の海産物よりも、海のモンスターって呼ばれてる魚の方が美味しいってことだね! でも、日本には海のモンスターなんていなかったし、普通の海産物が食べれれば十分だよね! ・・・・・・十分、だよね?


 うううう、普通の海産物より美味しい海産物、もとい海のモンスターなんて言われちゃうと、ちょっと食べたくなってきちゃう。


『さくらって、顔に出やすいよな』

「ええ、本当ね。ねえさくらちゃん。もしさくらちゃんが海のモンスターを食べたいのなら、王女様へのお願い、変更してもらう?」

『え? 海のモンスターも確かに食べたいですが、海産物も食べたいですよ?』

「ほら、王女様が今度ダンジョンに行くという話は知っているわよね?」

『はい』

「実はそのダンジョンのある場所はね、島なのよ」

『そ、それってつまり』

「そう、だから王女様へのお願いを、海産物を持ってきて、から、一緒について行かせて、に変更すれば」

『美味しい海産物だけじゃなくて美味しい海のモンスターも食べ放題!』

「そういうことよ」

『で、でも、そんなことお願いするのは迷惑じゃないですか? それに、その強い海のモンスターを狩れるかもわかりませんし』

「それは大丈夫よ。まず同行の件だけど、王女様は出来れば私かさくらちゃんに、ダンジョンのある街へ同行をお願いしたいって言うのが本音だからね」

『そうなんですか?』

「ほら、ミノタウロス達がこの街に来た時に私達で妖精の国のギルドの臨時野戦病院をやったでしょう? あれ、ロジャー将軍をはじめ、軍人さん達に凄く好評だったのよ。だから、王女様は出来たらダンジョンの街でも野戦病院を開いてほしいって言っていたわ。でも、私はこのギルドの数少ない職員で動けない、そうなるとさくらちゃんを誘いたかったと思うのだけど、今回の一件で安易にお願いしづらくなっちゃったというわけなの。だから、連れてってって言えば、簡単に連れて行ってもらえるはずよ」

『それから、海のモンスターをさくらが狩れるかって件に関しちゃ、100%大丈夫だ。お前が時々狩ってくるデカいトカゲ、あれより強いのなんてそうそういねえからな。それに、海戦で問題になる足場も、空中歩行の技があるからいらねえしな。ま、海の底の方にず~っといるような奴を狩りたいっていう場合は、ちょいと工夫がいるかもしれないけどな』

『わかりました。じゃあ、お姫様に頼みに行ってきます!』

「待ってさくらちゃん、こういうのは交渉が大事なの。だから、私に任せてね」

『はい!』


 あ~、どうしよう、今からすっごい楽しみだよね! すでに待ちきれないって感じだ! しかも、普通の海産物でも嬉しいのに、より美味しい海のモンスターなんてものまでいるなんて、これは俄然やる気が出てくるよね!




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