第88話 トラブル発生
「ふう~、疲れちゃったわね。でもこれで依頼は終了かしら?」
「はい」
ここ1週間の頑張りで、お姫様の依頼は何とか終わった。依頼の期限はお姫様がこの街を出発するまでだから、本当はあと3週間くらい納期に余裕があったんだけど、こういうのはさくっと終わらせるに限るからね!
「それでは、私も拠点に戻りますね」
「ええ、ありがとうさくらちゃん、助かったわ」
お姫様からの依頼を受けてからの1週間、ず~っと妖精の国のギルドに泊まっていたから、久しぶりの我が家だね。
ハロルド先生に見つかっちゃってからというもの、私はもう薬師のさくらと猫さくらが同一人物であることを隠すのを全面的に中止した。だって、なんかみんな知ってたみたいなんだもん。はあ、知ってたのなら教えてくれればいいのにね。この正体を隠すみたいなことって、ちょっとだけ楽しかったけど、それなりに大変だったんだから。
というわけで、妖精の国のギルドからもどうどうと人間ボディで出ていく。
妖精の国のギルドは街の北端、お城は南端なのでちょっと距離があるけど、最近運動不足だったし、今日は人間ボディで歩いて帰ることにしよっと。時間も丁度おやつの時間くらいだから、どこかでお菓子を買うのもいいよね。
あ、ダイエットをするために歩くわけじゃないから、お菓子は食べてもいいのですよ! それに、もし太りそうになったら、猫ボディで食べればいいと思うんだ。だって、猫ボディの胃袋はまさに4次元の胃袋だからね、きっと太らないのです。
なので私はさっそく中央通りの食べ物屋さんでクッキーを買って、ついでに屋台でジュースも買うと、てくてく歩きながらぱくぱく食べる。そしてのんびり食べ歩きをしていると、夕方になるころにようやくお城に到着した。
「ふう、猫ボディの時は気付かなかったけど、やっぱり街を南北に横断するのは、それなりに大変だね」
私は門番さんに挨拶しながらお城に入る。そして、いつものルートを通って私の部屋へと向かっていると、いつもと少し様子が違った。何だろう。いつものルートなのに、ちょっと華やかになってる気がする。それに、軍人さんや文官さんの往来も、いつもと違って凄く多い。
デスモンドさんによると、この区画には客室しかないから、警備の巡回の兵隊さんと、お掃除の人くらいしか通らなくて、静かでいいところって話だったんだけど、いまは明らかにたくさんの人がいる。
しかも、私の知らない人が多い。巡回の人とか、お掃除の人とかとは、すっかり顔なじみになっちゃってるから、その人達ならほとんどわかるんだけど、今いる人達は見たことない人ばっかりだ。だれなんだろう?
どことなく着てる服や鎧が、普段巡回してる人達よりもいい気がする?
私は普段と違う通路を、ちょっと警戒しながら歩いていると、私のお部屋に通じる通路で二人の兵士に止められた。この二人も、見たことない人だ。
「この先になんのようだ」
何の用も何も、私のお部屋があるんだけど。
「この先に私のお部屋があるので帰ってきたのですが」
「部屋がある? この先にはこの国の王女様であるバーバラ姫の部屋があるだけだ。早急に立ち去れ!」
ええええええ!? ちょっと待ってよ。確かにこの先は客室がある区画だけど、何部屋もあるよね? だからその中にお姫様以外に私の泊まってるお部屋もあるんだけど!
「いえ、私の部屋もこの先にあるんです」
「この先はこの城の貴賓室だぞ? お前のような身なりの小娘の部屋が、この先にあるわけないだろうが!」
確かに私の服装は、見た目は普通の冒険者の着るようなお洋服だ。でも、買ったのはゼニアさんおすすめのお店だし、モンスターの素材を使った服だから、結構高級品なんだよ! 見る目の無い兵隊さんめ!
「この服は結構いい服なのよ!? それに、私のお部屋はこの先にあるっていってるでしょ!」
私の服のセンスだけならまだしも、あのお店を馬鹿にするような発言にカチンときた私はついつい大声を出して張り合っちゃう。私にだって、引けない戦いってものがあるのですよ! 何よりここで引いちゃったら、お部屋に帰れない!
「もういい、取り押さえて檻に突っ込むぞ」
「はっ!」
すると、この兵隊たちは私を捕まえようと近づいてきた。ふふん、過去の私ならやられていたかもしれないけど、ハロルドスレイヤーがある今、戦えないと思わないことね!
「なに? やろうっていうの? いいよ、受けて立つ!」
「ふん! そんな木剣で何が出来るというんだ? まあいい、武器を抜いたのなら手加減もいらないだろうしな。おい、やるぞ」
「はっ!」
そう言うと、二人の兵隊さんは木の棒を構えて近づいてくる。持っているのは木の棒だけど、構え方はティリーちゃんと同じような感じだから、きっとこの二人は棒術の使い手じゃなくて槍使いだね。
まさかこんな形で初めての実戦を行うことになるとは思わなかったけど、負けるわけにはいかないね!
「行くよ! ハロルドスレイヤー!」
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