第16話 妖精の国ハンターギルドの秘密会議

 私はガーベラ、この街の妖精の国ハンターギルドの数少ない職員よ。


 そして、私が今いるのはギルドの会議室。今日の議題はもちろん、可愛い新メンバーのさくらちゃんのことね。ギルドではさくらさんって呼んでいるけど、さくらちゃんは可愛いし、いつかちゃん呼びを許可してもらいたいわ。


 そうそう、この会議のメンバーは、私のほかに、ギルド側から買取担当の熊男と料理人が出席し、ハンター側からアオイと、ペルちゃんが出席しているの。このメンバーにギルマスが加われば、このギルドの初期のころからの、馴染みのメンバー勢ぞろいっていうところね。


「それでアオイ、今日連れてきたさくらちゃんは実際のところどうなの?」

「どうとは?」

「迷子の件よ。この街と妖精の国ではそもそも大陸が違うから、妖精の国から適当に歩いてきて到達できる場所じゃないでしょ。仮に妖精の国から船で来たのなら、この国というか、この大陸に入る前に私達が知っているはずだわ。もしかして、誘拐とかかしら?」

「そりゃあないな。夕方に一緒に狩りに行ったが、さくらはのほほんとした見た目や言動と違って、かなりできるぜ。獲物に襲い掛かる動きはかなりの鋭さだったし、空中歩行まで自在に使いこなしてた。あいつを捕らえるのは、相当難しいぜ。それに、変なことに巻き込まれた経験があるにしちゃあ、俺らにも人間達にも一切警戒心がなかったしな」


 なるほど、アオイはこのギルドに所属しているハンターの中でも、最強クラスのハンターだ。そのアオイがここまで褒めるほどなら、犯罪者なんかに後れを取るようなことはなさそうね。


「それに関しちゃあ俺も同感だ。あの獲物に気取られもせずに一撃で仕留めたっぽいやり口、かなりの腕だろうと思うぜ。それに、そもそもこの国の治安はかなりいいし、その中でも軍人だらけで特に治安のいいこの街に、悪さをたくらむ奴らが来るとは思えねえ。街の外は、それこそ高ランクのモンスターの住処だしよ」


 熊男も同意見みたいね。でも、それだと振出しに戻っちゃうのよね。


「なら、家出の線はどうかしら?」

「おいおいガーベラ、家出って。お前ら妖精族にはわかりにくいかもしれねえが、さくらは立派な成猫だぞ? すでに独り立ちしてるって」

「そうですわね。家出というよりは、むしろさくらさんが好奇心に任せて船に乗り込み、遊んでいるうちにこの周辺まで。いえ、自分で言っておいてなんですが、かなり無理のある状況ですね」

「ああ。それなら空を走ってたらここについたって可能性のほうが高いんじゃね?」


 家出の件をアオイにすぐに否定される。ペルちゃんの船迷い込み説も面白そうだけど、船で妖精の国からここまでは、1か月以上かかるから、気が付いたら航海が終わっていたっていう可能性は無いのよね。でもアオイの言う、空を走ってここにって、それこそ無理じゃないかしら。私達妖精族でも結構つらいのに。


「空をって、私達妖精族でもこの大陸まで飛ぶのは、かなりつらいわよ?」

「う~ん、そこは何とも言えないな。俺ならやろうと思えば出来るしな。さくらが俺と同等か、それ以上の実力があるのなら、不可能じゃないだろ?」

「そうね。でも、もし仮にアオイ以上の実力があるとしたら、あんなのほほんって雰囲気になるかしら?」

「う~ん、そこなんだよな~、普段の身のこなしとか話し方、目線の使い方が、狩りを知らない子供っぽいんだよな」

「そうなのね。う~ん、考えても答えは出そうにないわね」

「だな~。ちょっとひとっ走り王都の本部まで行って、問い合わせしてみようか?」

「そうね、気になって眠れないってほどじゃないけど、気になるものね、お願いしてもいいかしら?」

「ああ、任せとけ。ペル、俺のいない間はさくらのこと頼むぜ」

「ええ、もちろんよ」


 アオイが王都に行ってくれるなら、何か情報を掴めるかも知れないわね。王都にはギルマスもいるし、協力してもらいましょう。


「そういえばアオイ君、さくらさんと出会ったのは今朝だと言っていたよね?」


 いままで黙っていたけど、料理人もさくらちゃんのことが気になっていたのね。まあ、熊男の話だと、さくらちゃんは料理人のステーキをほめていたみたいだしね。


「ああ、そうだぜ」

「でも、連れてきたのは夕方だよね? どうしてだい?」

「そりゃ簡単な理由だ。俺達猫は基本単独か、仲のいいやつとの少数での行動を好むからな。こういう猫が多い場所ってのは、好みが分かれるんだ。だから、朝の段階ではいきなり連れてこないで、新入りが来るけど落ち着くまで構うんじゃねえぞって、他の連中に釘を刺してたんだ」

「なるほど、そう言うことだったんだね」

「まあ、さくらは全然平気そうだったから、俺の杞憂だったみたいだけどな」

「それとガーベラ、さくらさんは君にポーションの瓶を要求したんだよね? ということは、彼女は薬師なのかな?」

「そうね、もしそうだとしたらありがたいわね。私達の分はともかく、この街の軍人やハンターの分はぜんぜん足りてないものね。3か月前の戦いのせいで、今も将軍をはじめ、臥せっている人が何人もいるし」

「ん~、あんまりプレッシャーかけんなよ? 俺達猫の長所は隠蔽系のスキルと、爪や牙に魔法を纏わせた攻撃だからな? さくらがポーションを作れるとしても、重傷者を回復させれるような上位の物を作れるかは別問題だ。それに、回復魔法とか、薬の技術なんかは、どっちかっていうとガーベラ達妖精族の仕事だろ?」

「わかってるわよ。ただ、どの程度のポーションが作れるのかは、一度確かめておいてもいいと思うの。空き瓶を買うってことは、その内このギルドに持ち込んでくれると思うし」

「そうだな。まあ、外で狩りをするよりも、中で薬作ってた方が安全っちゃ安全か」

「じゃあ決まりね。それじゃ、さくらちゃんに関することはこのくらいにしておいて、次の議題にいきましょうか」


 その後も、いつものメンバーでいつものようにぐだぐだとした会議が続く。いいえ、会議じゃないわね。ちょっとしたおしゃべり会ね。



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