第17話 門番ジェームズさんの夕食

 俺はジェームズ、肉屋の息子にして、この街の門番だ。もうちょい正確に言うなら警備部隊の隊員だな。あ~、今日も一日疲れたぜ。でも、今日は久しぶりに良いことがあったし、ついついテンションが上がっちまうな。


「ただいま~」

「おう、ジェームズ、帰ったのか。って、何だお前、上機嫌じゃねえか」

「おう、親父、帰ったぜ、わかっちまったか?」

「何年お前の親父やってると思ってんだ。そのくらいのことはわかるさ」

「それもそうだな。でもよ、今日はまじでいいことあったんだ、夕食の時に飲みながら話してやるよ」

「なんだ? もったいつけて。こないだみたいに、アオイにガールフレンドが出来たとかって話じゃねえだろうな?」

「ちげえちげえ、あれもいいニュースだったが、今日の方がビッグニュースだぜ」

「そうかい、あんまり期待せずに待ってるよ」


 んったく、マジでいいニュースだってのに、親父の奴、信じてねえな。ま、とりあえず風呂だな。汗だくってわけじゃねえが、やっぱさっぱりしたいしな。


 風呂を出て、少しくつろいでいると、母さんが夕食だと呼びに来てくれる。ほんじゃまあ、今日のビッグニュースを、飯食いながら親父と母さん相手に語ってやろうじゃねえか。


「んで、ジェームズ、何があったんだ?」

「私もジェームズのいうグッドでビッグなニュースっていうのが気になるわ。この間はアオイちゃんにガールフレンドが出来たっていう話だったけど、今日はもっとすごいニュースなのかしら?」


 母さんもどうやら食いついてくれてるようだな。今日のニュースはビッグニュースすぎるし、二人がどんな顔するか楽しみだぜ。


「今日昼過ぎの話なんだがよ。まだ10代前半くらいしか見えない女の子が、街に来たんだよ、ポーションを売りたいってな」

「ほう、若い薬師がきたのか、そりゃあよかったじゃねえか。でも、いうほどビッグニュースか? 確かに薬師は少ないが、この街にだってそこそこいるだろ?」

「そう思うだろ? 俺も最初はそう思ったさ。しかもその子、俺が身分証の提出を求めたら、申し訳ないのですが、特定の団体への所属をしておりません。本日は薬を売りにまいりましたって言うんだよ」

「なんだそりゃ、有名な物語の一説じゃねえか」

「そうなんだよ。しかも、カバンの中を見せてもらったら、ポーションがピンク色だったんだ」

「あん? ポーションっていやあ、普通青系の色だろ?」

「それ、本物なの? この街が常にポーション不足だからって騙されてはないわよね?」


 やっぱ親父も母さんもそう思うよな。俺も最初はそう思ったし。


「普通そう思うだろ? ただ、俺は仕事を忠実にこなす男だからな。とりあえず詰め所に来てもらったったんだ。んで、ポーションを1本出してもらって、鑑定を頼んだのさ。そしたら鑑定人も、いやいやながら鑑定してくれたわけだが、どうだったと思う?」

「どうって、ピンク色だろ? 何かの果汁だったとかか?」

「そうね、ジェームズの話なら、その果汁が美味しかったっていうオチかしら?」


 おいおい、親父はともかく、母さんは俺のことをなんだと思ってんだよ!


「違う違う、果実が美味しかったって、それのどこがビッグニュースなんだよ! そうじゃなくって、本物だったんだよ、そのポーションが! それも、上の連中が血眼で探してる、将軍の怪我すら治せそうな最上級ポーションだったって話だ」

「そいつは、マジでビッグニュースじゃねえか!」

「ほんとにそれはビッグニュースね」

「はっはっは、流石に親父も母さんも驚いたみたいだな!」


 俺が上機嫌で笑っていると、最初は驚いていた親父の顔色が、みるみる悪くなる。


「っていうかジェームズ、お前よく無事だったな」


 なんだ親父のやつ、無事も何も、この話のどこに俺の無事が関係するんだよ。どこにも危険な要素なんてないだろ?


「あん? 無事ってなんだよ親父」

「いや、そんな貴重品を作れるような薬師様を、仮にも疑って、取調室に一度放り込んだんだろ?」

「ああ、そうだけど」

「もしその対応に向こうが怒って、ポーションを売らないなんて言い出してたらお前、今頃どうなってたと思う?」

「え・・・・・・? いや、でも、規則じゃそうなってるんだぜ?」

「それは怪しいやつに対する規則だろ? 向こうはポーションを見せたんだぞ? つまり、私は最上級のポーションを売りに来ましたって現物を出して証明している相手にその対応は、本当に規則通りか? そもそもそのポーションの瓶、どんなやつだった?」

「そういや鑑定人が、入れ物の瓶は妖精の国の物だって言ってたな。あ、あれ? もしかして俺、やばかった?」

「相当やばかったと思うぞ。下手すりゃ外交問題だ。物理的に首がすっ飛んでてもおかしくないぞ?」

「は、はは、まさかそんなピンチだったとは思わなかったぜ。でもまあ、そんなに気にすることもないと思うぜ。だって俺、その後隊長命令で、その子を湖の貴婦人へ案内したし、そん時も結構仲良くしゃべってたしな!」

「そ、そうか? なら大丈夫なのか?」

「あなた、きっと大丈夫ですよ。バーナード隊長は、要人の機嫌を損ねるような真似をする御方じゃないし、ジェームズも仕事中の外面だけはいいですから。それに、時々店に来てくれてるアオイちゃんは、妖精の国のハンターギルドの中では古参なのでしょう? ジェームズはアオイちゃんと仲がいいし、そう言った事情こみでジェームズが任されたのだと思いますよ」

「それもそうだな」

「おいおい、なんだよそれ、仕事中の外面だけはいいって、しかも俺が助かったのはアオイのおかげだってのか? こないだも俺の頭の上に飛び降りてきたんだぞあいつ」

「すべて事実です! アオイちゃんには今度サービスすとるとして、ジェームズ! あなたはもっといろいろなことを勉強しなさい! 今回はお相手が優しかったから良かったものの、次はどうなるかわからないわよ?」

「で、でも、隊長に怒られなかったし」

「そんな貴重なポーションが手に入ったのなら、やる事は多いでしょう? あなたのお説教は後回しにされただけですよ」


 ぐっ、そういや、さくら様を無事に湖の貴婦人に送り届けた後、隊長いなかったな。ってことは、早速将軍のところに持ってってたのかもしれない。


 はあ、にしてもまいったな、親父と母さんから教えてもらって初めて気づいたぜ、まさかそんなピンチだったとはな。これは勉強嫌いとか言ってる場合じゃねえな。それと、明日一番で隊長に謝らないとだ。


 って思ってたんだけど、夜勤の同僚が家にやってきて、隊長が城から帰ってきて、俺を呼んでるからすぐに来いって伝えてくれたのは、夕食のすぐ後だった。



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