第37話 ポーションの樽は凶器?
『うし、じゃあ街に戻るか?』
『うん』
時刻は間もなくお昼。時計があるわけじゃないんだけど、太陽の位置がそろそろお昼だよって教えてくれてる。ガーベラさんにお昼には帰るって言っちゃったから、急いで帰らないとね。
私はポーション100個入りのカバンを首にかけて、さらにサイコキネシスでアオイ特製ポーションサーバーと、アオイが取ってきた木材の残りを持ち上げる。この木材はボヌールさんへのお土産にするんだって。
『さくら、それ重くないか?』
『大丈夫だよ。アオイは護衛なんだから、手が空いていた方がいいでしょ?』
『いや、まあそうなんだが』
『じゃ、出発だね!』
いくらなんでも護衛してもらって、ポーション作りも手伝ってもらって、保存容器まで作ってもらって、さらに荷物持ちまでなんてさせられないからね! それに、サイコキネシスで持って行くだけだから、ぜんぜん重くないし。
『只今戻りました~』
『おう、戻ったぜ』
「あら、二人ともお帰りなさい」
私達は木材をボヌールさんの倉庫に預けてから、妖精の国のギルドの中に入る。するとガーベラさんが受付のカウンターで出迎えてくれる。
「さくらちゃん、その小さな樽はなあに?」
『この樽は中にポーションがいっぱい入ってる。ポーションサーバーです! 樽はアオイの特製なんですよ』
「あら、それはすごいわね」
『中身はこっちのポーション100個と同じ中ランクポーションです。アオイに確認してもらったので大丈夫だと思いますが、確認してください』
「アオイが確認してくれたのなら大丈夫ね」
私はポーション100個入りのバッグと、アオイ特製ポーションサーバーをカウンターに置く。
みし。
『『みし?』』
「みし?」
みしししし。
『ちょ、さくら待て!』
「さくらちゃん!?」
『え?』
アオイが後ろから慌てたように声を上げる。ガーベラさんも正面で焦っている。え? え? 私は訳が分からず少しパニックになる。すると次の瞬間。
バキバキバキ!
「みぎゃ~!」
なんかバキバキ言い出したと思ったら、突如カウンターが崩壊した。あ~、ビックリした!
カウンターはポーションサーバーを中心にベコンって崩れていた。中に入ってるポーションが飛び散ってる様子はないから、ポーションサーバーは無事かな? でも、なんでいきなりカウンターが壊れたんだろう? このカウンター、奇麗だしそんなに古そうに見えないんだけどな。
私が戸惑っていると、アオイとガーベラさんがポーションサーバーとカバンをチェックしてくれる。
「樽とかばんは無事なようね。さくらちゃん、怪我はない?」
『はい、大丈夫です。でもカウンターが』
「それよりもこの樽、内部を拡張してあるの?」
『はい』
『ああ、中身はさくらの拡張魔法と保存魔法がかけてあるぜ。ちなみに樽そのものにかかってる強化魔法は俺がかけたぜ』
おお~、アオイってば樽にそんな魔法かけててくれたんだね。でも、壊れなくてよかった~。
「ところでさくらちゃん、この樽の中ってどのくらいポーションが入っているかわかる?」
『え~っと、いっぱいです』
「なるほど。アオイ、さくらちゃんはいっぱいって言ってるけど、どのくらい作って、どのくらい入ってるの?」
『あ~、たぶんだけど500リットルくらいか?』
『え? そんなに作ったの?』
「そんなに多いの?」
私とガーベラさんが揃って驚く。
『おいおいさくら、自分で作ったポーションだろうが!』
『そうだけど、特に量は気にしてなかったから。でも、なんでカウンターが壊れちゃったんだろうね?』
「さくらちゃん? それ、本気で言ってるの?」
『は? さくら、正気か?』
あれ? 私、おかしなこと言ったかな?
『えっと、私おかしなこといいました?』
「気付いていないのね。さくらちゃん、この樽の中には500リットルのポーションが入っているのよね?」
『そうみたいです』
「それがどういう事かわかる?」
『え~っとポーションがいっぱい入ってるってことですよね?』
『はあ、さくら、水1リットルってどのくらいの重さか知ってるか?』
そんなことくらい私だって知ってる。1リットル1kgだ。1リットルのペットボトルに水を目いっぱい入れて、筋トレしたりしたこともあるしね!
『1kgです!』
『その通りだ。んで、この樽の中には500リットルのポーションが入ってるわけだ。つまりこの樽の重さは?』
え、でもこんなに小さいのに、あ! そうよ、空間拡張したんだった。それで中身が500リットルなら、500kgに決まってる! あ、っていうことは。
『500kgです・・・・・・』
『やっと気づいたか・・・・・・。その通りだ。いくら小さいとはいえ、中を拡張してあるから、500kgあるんだよ、この樽。そんな重量物をカウンターに置けばどうなると思う?』
『潰れると思います・・・・・・』
『そういうことだ』
「そういうことね」
ううう、まさかカウンターの崩壊の犯人が私だったなんて。
『ごめんなさい』
「ふふふ、誰にでも失敗はあるから、気にしなくていいのよ?」
『でもよ、さくら。この樽はさくらがサイコキネシスで運んでたんだから、重さくらいわかるだろ?』
『え? どうして? サイコキネシスって重さ感じないよね?』
『は? いや、サイコキネシスは重さによって消費魔力全然違うだろ?』
『そうなの?』
そこはよくわかんない。最近はなんとなく魔力を使ってるってことはわかるようになったけど、使ってる魔力が多いのか少ないのかとか、そういうのは全然わかんないのよね。
『そうなの? っておいおい』
「ふふふ、さくらちゃんが謝る必要はないのよ。こんな重たいもの女の子に持たせてたアオイがいけないんだから」
『はあ? それは酷くね?』
「あら? 違うの? さくらちゃんに全部持たせて、アオイは手ぶらだったと思うけど」
『ええっと、私が自分で持つって言ったので』
「さくらちゃんは優しいのね。そうそう、このカウンターのことは気にしなくてもいいのよ。ほら」
ガーベラさんがそう言うと、カウンターに使われている木がうねうね動き出し、やがて元の形に戻る。おお~凄い! 魔法みたい! って、魔法がある世界だったね。
「私、植物系の魔法は得意なのよ?」
『すごいです!』
『まあ、そう言う訳だから、カウンターなんて何回壊してもいいぜ?』
『いえ、次回以降は気を付けます! でもこのポーション樽、こんなに破壊力があるのなら、もしかしてサイコキネシスでぶんぶんやるだけで、凶器になったりしますか?』
「ええ、そうね」
『まあ、確かにな。でも、俺がこの樽にかけた強化魔法は、中身の重さに耐えれるようにってのがメインだから、そんな使い方したら、最初の一撃でぶっ壊れるぜ』
『そっか、それじゃあダメだね。壊れちゃったら中のポーションが飛び出して、敵が回復しちゃうもんね』
『あ、ああ、そうだな』
「そ、そうね」
来たる決戦に向けていい武器になるかなって思ったんだけど、世の中そんなに都合よくいかないね。
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