第38話 妖精の国ハンターギルドの秘密会議その2
私の名前はガーベラ、妖精の国ハンターギルドでは、今日も秘密の会議という名のおしゃべり会の日よ。
場所は例によってギルドの会議室。参加メンバーは私、倉庫番のボヌール、料理人のセボン、ハンターで猫のペルちゃん、それと帰ってきたギルマスのユッカとアオイの6人ね。
「はい、お茶とお菓子を用意しましたよ」
「おお! サンキュー! セボンの菓子も久しぶりだな! うん、やっぱうまいな~!」
セボンがお茶とお菓子を用意してくれると、早速バクバク食べ始める妖精が一人いる。セボンの気づかいはありがたいけど、お菓子が先だと話し合いに集中出来なくなるのよね。主にお菓子好きのギルマスが。まあ、今日は良いにしてあげましょうか、昨日の夜に王都から帰ってきたばかりで、まだまだ疲れが残っているでしょうしね。
「それでアオイ、さくらちゃんの情報はなにかあったかしら?」
『いや、全然なかったぜ。やっぱ普通のルートでこの国に来たわけじゃないと思うな』
『捜索届とかはどうでしたの?』
『そっちも無かったぜ』
「ということは、前回アオイの言っていた、空中散歩を楽しんでいたらここまで来ちゃった説が一番有力なのかしら?」
『だろうな。今日あいつの森の中にある拠点に連れてってもらったんだが、ず~っと空中歩行でも全然平気そうだったしな。そうそう、さくらの拠点な、まさかの北の崖の上にあったぜ』
「北の崖ですって? あんな危険地帯に住んでいるの?」
『それは本当なのですか?』
『ああ、さくらは拠点は安全だし、モンスターも強いのは出ないって言っていたんだが、拠点は結構深い位置にあったぜ。そうだな、だいたい街から崖までと、崖から拠点までが同じくらいの距離ってところだな』
『普通ですと、そんなに奥地だと強力なモンスターしかでませんよね?』
『ああ、そのはずだ。でも、北の崖の上は、不気味なほど静まり返ってたな。上空から行ったから、地上の様子はそこまで詳しく把握できてるわけじゃないんだが、モンスターの気配がまるでしなかった』
『サンダーバードはどうでしたの? 上空を通ったのでしたら、あの鳥に襲われてもおかしくないでしょう?』
『いや、出会わなかった』
「何かの予兆なのかしら? ちょっと不気味ね」
『ええ、本当ですね』
強力なモンスターの住処である北の崖の上からモンスターの姿が消えるなんて、そんなことあり得るのかしら? 北の崖の上のモンスターの危険度は、東の山に住むミノタウロスと比べても更に高い。これは、もしかしたら調査が必要かしらね。
「ミノタウロスの件が落ち着いたら、調査をする必要がありそうね」
『そうですね』
私達が真剣に悩んでいると、アオイが突如何かを思い出したかのように顔を上げる。
『ん? いや、待てよ。そういやさくらのやつ、ちょっと散らかってるから片付けてくるとか言って、一人で先に拠点に降下してったんだよ。俺は散らかってても気にしないって言ったのによ』
『アオイさんはデリカシーが無さすぎます』
「ほんとね。女心っていうものをわかっていないわ」
『ちょっと待ってくれ、本題はそこじゃねえんだ。さくらが一人片付けに降下した時さ、俺も覗くのは流石に悪いと思って出来るだけ見ないようにしてたんだが、かといって護衛としてついて行って完全に見失うわけにもいかないだろ? だから、軽くモンスターが接近してないかとか、さくらの位置とかを確認してたんだけど、その時にちらっと見えちまったんだよ、すげえ数のモンスターの牙だの爪だのをせっせと片付けてるさくらの姿をよ』
『もし、アオイさんの見たモンスターの牙や爪が崖の上のモンスターのものなら、さくらさんはものすごく強いことになりますよ?』
『ああ。ただ、流石に今隠したの見せてとは言えないだろ? だから確認せずに帰ってきたんだが、今度聞いてみるか?』
さくらちゃんの狩ったモンスターの爪と牙って言えば、そうよ、魔法のカバンよ!
「ちょっと待ってアオイ、確かさくらちゃんに貸した魔法カバンの中に、さくらちゃんが狩った獲物の牙や爪があるって言っていたわ」
『まじか!? 今どこにある?』
「受付で預かっているから、すぐに取ってくるわね」
『ああ、頼むぜ』
私ったらうっかりしていたわね。さくらちゃんの実力を知りたいのなら、さくらちゃんが取ってきたモンスターの素材を見れば、その実力が大体わかるっていうのに。
私は大急ぎで受付にある魔法のカバンを持つと、すぐに会議室に戻る。
「取ってきたわ」
「よし、見せてみろ!」
私はボヌールにカバンを渡す。こういうのは買取担当のボヌールの方が詳しいのよね。
ボヌールは魔法のカバンを開けて中身を次々に取り出していくけど、凄いわね。私でもすぐにわかったわ。この素材から感じる強力な魔力、これは、間違いなく高ランクのモンスターの素材ね。
「すげえな・・・・・・」
「ええ、これ程の素材がこんなに集まっているところ、見たことないわ」
『アオイさん、この嘴と鉤爪を見てください』
『これ、サンダーバードの嘴と鉤爪じゃねえか! さくらのやつ、サンダーバードなんて知らない。時々ぱちぱちと音の鳴るぱちぱち鳥ならいるけど。とか言ってやがったけど、思いっきりサンダーバードいるじゃねえか!』
「このかばんの素材、全部崖の上の高ランクモンスターのものだ。間違いねえぜ」
「ということは、アオイが見た素材が北の崖の上のモンスターの成れの果てならさくらちゃんが北の崖の上の高ランクモンスターを狩りまくってたってことになるのかしら?」
『だろうな。ってか、もしそうなら、強すぎんだろ』
『ええ、凄いことですね』
「こうなると別の意味でさくらちゃんのことが気になるわね。アオイ、ペルちゃん、さくらちゃんって実は猫達の中で有名なハンターだったりしない? あるいは権力者。汎用型の高ランクポーションを作れる製薬技術に加えてこの戦闘力。無名の迷子って言われると、凄く違和感があるわよ?」
『気持ちはわかるが、聞いたことねえな。ってか、そもそも俺達猫は基本ソロ狩りが主流だ。場合によっては猫の集会があって、そこにボス猫がいたりするが、近隣のボス猫のならともかく、広く情報共有なんてしてねえしな』
『私も覚えがありません。ですが、強いて言えばさくらさんのキジトラの毛と丸っこいボディは、伝説の猫の1匹に似ている気がします』
「伝説の猫?」
『はい。その昔いたとされる、ものすごい強い猫です。その牙はどんなものでも噛み砕き、口から出るビームはすべての物を消滅させ、その毛皮はどんなことがあってもキューティクル一つ乱れなかったと言われています』
「面白そうな話ね。でも、おとぎ話の類じゃないのかしら?」
『ん~、おとぎ話っぽいけど、一応実話だったと言われてるな』
『はい。ただ、アオイさんの話では、さくらさんは爪で攻撃する派だったのですよね?』
『ああ、そうだ。たしか伝説のキジトラは、爪はあんまり使わず、噛み付きとビームでがんがん獲物を仕留めるって話なんだよな。だから、狩りのスタイルがちょいと違うんだよな』
『そうなのですよね』
「そうなのね」
『ただまあ、さくらを戦力として数えるのは止めとこうぜ。どうもあいつ、争いごとは好かない性格っぽいし。何より力の制御が上手いのか雑なのかよくわからんところがある。もしめちゃくちゃ強かったとしても、そんな強い力を制御なく使われたら、そのほうがめんどくさそうだ』
『そうですね。この間みたいに、さくらさんには回復役をやってもらったほうがいいでしょうね』
「わかったわ。ボヌール、話は聞いていたわよね?」
「ああ、もちろんだ。本番ではこないだ同様、俺が常にさくらと一緒に行動してりゃいいんだろ?」
「ええ、頼んだわよ」
それにしても、やっぱりお菓子を先に出したのは失敗だったわね。ギルマスのユッカは話し合いそっちのけでお菓子を食べてるし、セボンもそんなユッカの餌付けに忙しそうだし。おまけにボヌールは、さくらちゃんの素材に完全に目を奪われてる。一応名目上は会議なのに、みんな好き勝手にしてるんじゃ、ほんと、ただのお茶会よね。
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