第8話 初めてのお金!

 無事に獲物を仕留めた私とアオイは、二人で街に戻る。今は夕方ということで、門に並ぶ人の列はすごく多いけど、相変わらず猫は顔パスというか、種族パスだ。


『そうそう、この門なんだけどな。夜間は真ん中以外は閉まっちまうから気をつけろよ。ま、さくらも空中歩行が出来るから、上から入る分にはどこから入ってもいいけどな』

『うん』


 っていうか、上から入ってもいいんだね。


『あ、ただその場合も、猫アピールはしとけよ。具体的には光魔法なんかで、俺は猫だぞ~って、見張りの兵隊どもにわかるようにな。それか、隠蔽系の魔法でこっそりとな。モンスターと勘違いされると、攻撃されることがあるからな』

『うん!』


 確かにそれは重要だね。


 私達が門に近づくと、門番さんが声をかけてくれる。


「アオイか、相変わらずすげえ速さだな。角ウサギとはいえ、門を出てからまだ30分も経ってないんじゃねえか?」

『当然だ!』

「しかも、処理も完璧ときた。お前の取ってくる獲物は、いつも処理がいいからな、こりゃあまた親父に、ギルドにいい肉が入ったって知らせねえとかな」

『今回のは俺のじゃねえよ。さくらのだ』


 そういってアオイは私のほうを向いて、たしたしと地面を叩く。


「なに? アオイじゃなくて、ガールフレンドのほうだってのか? ってことは、この氷魔法もガールフレンドが?」

『そうだ。っつうか、ガールフレンドじゃねえって何回言えばわかるんだよおまえ』

「こりゃすげえ、流石はアオイのガールフレンドってか?」

『だから、ガールフレンドじゃねえって言ってんだろ! もういいや、さくら、行くぞ』

『うん』


 アオイと門番さんの会話は、どこか面白いね。門番さんにはアオイの念話は聞こえてないはずなのに、なんでか会話としてある程度成り立っている。


 私はアオイの後に付いて街に入る。門前広場は朝にも負けず賑やかだ。でも、アオイはそんな門前広場には目もくれず、壁沿いの道路を東側にと歩いていく。そして、アオイは結構立派な門の前で止まった。


『うし、付いたぜ!』


 門には看板もかかってる。


『えっと、妖精の国ハンターギルド、フージ王国イーヅルー支部?』

『そうだ。ここは俺達妖精の国のハンターギルドの、フージ王国、イーヅルー支部だ。さ、入るぜ』


 なんか、この街のある地形が伊豆半島っぽいって思ったけど、この街の名前がそのまんま伊豆半島っぽい名前だね。


 それと、俺達妖精の国の? 私達は猫の国の出身じゃないの? 少し疑問に思ったけど、アオイはどんどん進んでいっちゃう。私も遅れないようについて行く。


 ハンターギルドの門をくぐると、中には二つの建物があった。建物にも看板が掛けられている。店舗みたいな建物が、妖精の国ハンターギルド支部で、倉庫みたいな建物が納品受付兼倉庫みたい。


『それじゃ、納品するから倉庫に行くぜ』


 アオイと一緒に倉庫に行く。倉庫は石造の大きな倉庫で、入口は広く、小さ目なトラックなら入れそうなくらい広い。地面は床がなくって、外と同じ石畳だから、外で狩った獲物をそのまま持ち込めるようになっているってことかな。内装も、これぞ倉庫っていうくらいに飾りっけゼロだ。壁は石がむき出しだし。部屋を飾るような物も一切ない。


 そんな殺風景な倉庫には、買い取りと書かれたカウンターだけがある。カウンターの上に呼び鈴があるから、あの鈴で呼べばいいのかな?


 アオイがサイコキネシスで鈴を鳴らす。すると、奥から、のっしのっしと一人の悪人顔の大男が現れた。なんていうか、デッカ! 私が猫で小さいこととか関係なく、すっごく大きくないかな? 門番さん達と比べても、この人は縦にも横にもすごく大きい。


『よう、熊親父、買い取り頼むぜ』

『く、熊親父?』


 確かに熊みたいに大きいけど、そんなあだ名なんだ。


「おう、アオイか、って、ん? なんだその見慣れないキジトラ柄の猫は」

『新入りだ。なんかトラブったらしくてな、迷子になってあっちこっち行ってるうちに、この街にたどり着いたんだと』

「そうか、そいつは大変だったな。だが安心しろ、ここは妖精の国ハンターギルドだからな、いろいろと助けになってやれるはずだ。俺はボヌール、見ての通り熊の獣人で、ここの買取を担当している、よろしくな!」


 そういってボヌールさんは丸いお耳をぴこぴことさせて見せてくれる。


 おお~、熊耳だ。丸くてかわいい。それに、ボヌールって、フランス語で幸運とか幸福のことだったよね。うん、名前と熊耳のおかげで、怖い顔も大きな体も、可愛く見えるね! ううん、ごめんなさい、やっぱり嘘です。この顔の怖さは、熊耳と名前くらいじゃ中和すらされないと思う。


『さくらです。よろしくお願いします』

「さくらな。覚えたぜ。んで、今日の買取はその角ウサギか?」

『はい』

「じゃ、このカウンターの上においてくれ」

『はい』

「それじゃ、ちょっと待ってな。サクッと査定するからな」

『はい』


 カウンターの上に置いた角ウサギを、ボヌールがチェックを開始する。


『そういえば、ボヌールさんには念話が通じるんだね。もしかして、朝言ってた念話の使える人って、ボヌールさんのこと?』

『違う違う。朝俺がその内合わせてやるっていったのはまた別の奴だ。門番達の上役の人間に、念話を使えるのがいるんだよ。ってか、言われてみりゃそうだな、熊親父も人種って意味じゃあ人間よりだったぜ、ただここで働いているせいか、ついついこっち側の奴だと思って忘れてたぜ。ま、念話ってのは所詮ただの魔法だからな、通じる奴には通じるんだ。普通の人間は口で話せば済むからな、わざわざ念話を覚えるやつは少ねえみたいだけどな』


 ふ~ん、念話って、外国語みたいな感じなのかな? でも、そもそも私がこの世界の人間の言葉がわかるものちょっと不思議だね。今度調べてみようかな。アオイは優しいし、聞けば答えてくれると思うけど、何でも聞いてると、世間知らずの変わった猫扱いされちゃいそうだし、出来るだけ自重しよう。


 アオイと二人で話をしていると、角ウサギの査定が終わったようだ。


「査定終わったぜ。首の切り口といい冷やしてある処理といい、申し分ないな。3割のプラス査定で買い取るぜ。いいか?」

『ありがとうございます』

『良かったな。さくら』

『うん!』

「じゃ、この札をもってギルドの受付に行きな。そこで金をもらえるからな」

『はい!』


 倉庫を出た私とアオイは、もう一つの、店舗みたいな方の建物に入る。


 こっちは外見からして奇麗な木造の建物だったけど、中もきれいだ。なんか、ハンターギルドっていうちょっと物騒な名前と違って、ホテルのエントランスのようなきれいな雰囲気だ。


『さくら、こっちだ』

『うん』


 私とアオイはそのままカウンターへと向かって行く。すると、カウンターにはかわいらしい女の子がいた。身長は30cmくらい、ピンクの色の長い髪、背中に見える半透明の羽。この人は、きっと妖精だ! おお~、すごい。小さいのがぱたぱた飛んでる。


「あら、アオイさん、こんにちは。そちらの子は?」

『こいつはさくら、何でも、いろいろあって一人でこの街までたどり着いたらしいんだ。さくら、とりあえず熊親父に貰った札をガーベラに渡しな』

『あ、はい。これです、お願いします』

「はい、ありがとうございます。あら、3割プラス査定なんて、あなたも優秀なハンターになれそうね」

『さくらです』

「ガーベラよ、よろしくね。はい、お金」

『あ、半分はアオイに』

『ん? いらねえよ。さくらが取った獲物じゃねえか』

『え、でも』

『でもじゃねえんだよ』

「ふふふ、さくらさん、大丈夫ですよ。アオイさんはこう見えて凄腕のハンターですからね。お金には困っていないのよ」

『そういうわけだ。全部受け取っとけ』

『うん、ありがとう!』


 お金だ、お金だ。お金だ~!



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