第110話 熊さんギルド
無事に鬼が島のハンターギルドで拠点登録を終えた私達は、今度は妖精の国のハンターギルド、鬼が島出張所へと向かう。
「ハンターギルド、何も起こりませんでしたね」
「さくらさん、もしかして絡まれたりするか不安だったの?」
「はい。私はこの国の人には子供に見えるそうですから」
イーヅルーの街ではあの男ことバーナード隊長のせいで、私の顔のわかる手配書が出回っていたから、それが幸いしておかしなちょっかいを掛けられることはなかったけど、この街ではそうはいかないと思ってたんだよね。
「ふふふ、それは平気よ。ハンターギルド内で揉め事なんて起こしたら、ハンターの訓練を担当する教官なんかがすぐに駆け付けてくれるわ。それに、受付の人の中にも腕の立つ人はいるからね」
「そうだぜ嬢ちゃん、俺達でさえ手を焼くこともあるハンター連中を相手にしてるんだ。ギルド職員なめちゃいけないぜ。俺達の同僚にも、一時期受付にいたかわいい子にちょっかいだして、痛い目見たやつもいたからな」
「さっきの受付・・・・・・、ぱっと見は普通の女だったが、目線の配り方や手が素人じゃなかった・・・・・・」
「そうね、さっきの受付の女の人は恐らく私と同類ね」
なるほど。でも言われてみれば当たり前だよね。ギルドの仕事の一つに、ハンターに対する教育があるって言ってたもんね。私も戦闘の訓練を受けようかと思ったくらいだし。となると、並みのハンターよりも強い人がいないと教えられないもんね。
そして受付の女の人も強そうだったのか~、ぜんぜん気が付かなかった。おまけにゼニアさんと同類ってことは、レンジャーとかアサシンとか言われるタイプの戦闘スタイルってことだよね。うう~ん、侮れないね。
そんなことを話しつつも、妖精の国のハンターギルド、鬼が島出張所へと移動する。妖精の国のギルド鬼が島出張所は、この街のハンターギルドのすぐそばにあったみたいで、すぐに到着した。
「それじゃあ、私は猫に戻りますね」
「ええ、分かったわ」
今日の私の服装はキジトラ柄の迷彩服プラスフード付きのローブだ。フードを目深にかぶってから猫ボディに戻ることで、誰にも見つからずに変身できるという便利な服装なのです。
ぽふん!
私は猫ボディに戻って、フード付きのローブを魔法のカバンにしまうと、ゼニアさんの肩に乗せてもらう。猫ボディに戻ると念話しか使えなくなっちゃうからゼニアさん以外のメンバーと会話が出来ないのは不便だけど、妖精の国のハンターギルドに行く以上、猫ボディに戻るのは必須だもんね。
私達はみんなで妖精の国のハンターギルドの門をくぐる。妖精の国のハンターギルド鬼が島出張所は、イーヅルーの街に比べるとその雰囲気がだいぶ違う。イーヅルーの街の妖精の国のギルドは普通のお家風な建物だったのに、鬼が島の妖精の国のギルドはなんて言うか、岩穴っていうのかな? そんな雰囲気だ。所属ハンターが熊さん達だから、熊さん達が過ごしやすいようになっているのかな?
「なかなか迫力がある建物だな。自然の岩を模しているのか?」
「この街にいる妖精の国のハンターは熊という肉食動物だと聞く・・・・・・。恐らくその熊達にとって落ち着く形になのだろう・・・・・・」
「イーヅルーの街の出張所にいた猫は、妖精族みたいに体が小さく魔力が強いタイプだったが、熊ってのは体がデカいパワータイプらしい、見た目も迫力があるっていう話だし、ちょっと緊張して来たぜ」
「大丈夫よ、確かに熊達の中には強面の子もいるけど、基本は気のいい子が多いから。私も何度かその毛並みを触らせてもらったことがあるわ」
「流石ゼニアの姉さんだ。毛並みを楽しむとかマジで尊敬するぜ」
熊さんの毛並みか~、私も触ってみたいな! 動物園とかで見たことはあっても、触れることってないもんね! それに、赤ちゃん熊なら触れあいイベントをやってたりもするけど、大人の熊との触れあいとか、凄く興味があります!
『ゼニアさんゼニアさん、急いでいきましょう! 私も熊さんの毛並みを堪能したいです!』
「ふふふ、わかったわ」
私達は妖精の国のギルド鬼が島出張所へと入っていく。外見と同じように内部も岩が多い構造だけど、思いの外明るい。それどころか、日向ぼっこの出来るスペースまで用意されており、そこでは熊さん達が眠っていた。
これは思ったよりも居心地がいいかもしれないね。アオイが言ってたように踏まれるのは嫌だけど、その問題さえなければ結構快適に過ごせるかもしれない。
『ゼニアさん、熊さんですよ熊さん。無防備に寝てますよ!』
「ふふふ、そうね。でも寝ている熊に勝手に触るのはダメよ?」
『はい!』
流石の私でも寝てる熊さんに勝手に触ろうとは思わない。そのくらいは自重できますとも!
なので今はゼニアさんの肩に乗ったまま受付に向かう。
「あれ? 猫じゃん。猫が来たぞ~! みんな~!」
カウンターにいた妖精さんがいきなり騒ぎ出したと思ったら、奥に引っ込んじゃった。
「あ~、ほんとだ猫が来てるよ~」
「うわ~、猫ちゃんだ~、かわいい~」
「にゃんこだにゃんこ~!」
「干し肉食べる~?」
「干し魚もあるよ~?」
な、なんだろうこれ。ユッカさんがいっぱいいるような気分になるね。
取り合えずゼニアさんの肩に乗ったまま妖精さん達に取り囲まれるのは、ゼニアさんの迷惑になりそうだったので、私はゼニアさんの肩からカウンターに降りて、そこで妖精さん達とのスキンシップを楽しむ。
ふ~むふむふむ、干し肉も干し魚もなかなかいいお味をしておりますな。私は干し肉に関してはちょっとうるさいんだよ? って思っていたけど、これは普通に美味しい! そして、干し魚は流石本場だよね。もの凄く美味しい!
私はいっぱい出された干し肉と干し魚をもぐもぐと食べ続ける。
「こらお前ら、猫ちゃんが困惑してるだろ? ほら解散しろ解散!」
「「「「「ええ~」」」」」
「解散!」
「「「「「は~い」」」」」
すると奥からさらに新たな妖精さんが登場して、私の周りの妖精さん達を追い払う。
「まったく、困った連中だね。さて、あんたがガーベラの言っていたさくらちゃんでいいのかい?」
『はい、私がさくらです。ガーベラさんを知っているんですか?』
「もちろんだよ。この国に来ているギルドの職員は、ちょこちょこ交流会を行っているからね。イーヅルーの出張所のメンバーとも全員知り合いだよ。ま、ガーベラに関しちゃあ本国にいた時からの知り合いだがね。それと、あんたのことは手紙をもらって知っているよ。さて、今日は拠点登録でいいんだね?」
『はい、よろしくお願いします』
「それじゃ、ギルドのタグを出しな」
『はい、どうぞ』
私はギルドのタグを受付の妖精さんに渡す。
「それじゃ、少し預かるね。そうそう、自己紹介がまだだったね。あたしの名前はカーネーション、よろしくね」
『はい、こちらこそよろしくお願いします!』
拠点登録の手続きが終わるのを待っていると、外から賑やかな声が聞こえてきた。正確には声じゃないね、念話だね。
『がっはっは! 今日もなかなかの戦果だったな兄者!』
『うむ、肉がまずいのが残念だが、大物だったな弟よ!』
どうやら狩りを終えた熊さん達が帰ってきたみたいだ。二人組の熊さんは、二人とも推定2m越えのでっかい熊さんだ。地球で言うところのグリズリーとかに当たる種族になるのかな?
『ん? そこにいるのは猫か?』
『そのようだな兄者。人間もいるようだが、猫が人間とパーティーを組んでるってことか?』
『ふむ、少し聞いてみるか』
熊さん達が私のほうに近づいてくる。会話の内容から兄弟みたいだね。そして兄者と呼ばれた熊さんが、私に話しかけてくる。
『ほう、こんなところに猫がいるとは、珍しいな』
う~ん、熊さんと話したことないから、どんな風に返せばいいのかよくわかんないね。アオイは熊どもに遠慮は不要、取り合えず出会い頭に猫パンチを食らわせて、会話はその後でいいとか言ってきたけど、流石にそれはね。
でも、ペルさんもガーベラさんも、同じハンター同士だから遠慮はいらないって言い方だったんだよね。ここは取り合えず同じ雰囲気で返事をしようかな?
『ほう、こんなところで熊さんと出会えるなんて、ラッキーだね!』
『う、うむ? ここは俺達の拠点だからいて当然なんだが、まあいい、何をしに来たんだ?』
『私の目的は一つ、美味しい海のモンスターを食べに来ただけだよ』
『なるほど、海のモンスターか。そう言えば猫の中には海のモンスター好きの個体もいるって話だったな』
『でも、ついさっき目的がもう一個増えたんだよね』
『ほう、どんな目的だ?』
『それはね・・・・・・』
そう言ってから私は身構える。
『やる気か? 面白い・・・・・・』
私が身構えたのに合わせて、熊さん達もファイティングポーズを取る。
ふっふっふ、では早速、増えたもう一個の目的を達成させてもらおうか!
私は素早くカウンターから飛び出すと、熊さんのお腹にダイブする。そして、顔を思いっきりお腹にうずめる。う~ん、汚くはないと思うし、においもそんなにしないけど、トリートメントとかを使ってちゃんと手入れをしていないのかな? あんまり柔らかくないね。
お腹の感触を確かめた私は、次に頭に狙いを定めて超高速で移動する。うう~ん、お腹の毛の方が柔らかくて気持ちいいね。ついでに耳は、おお~、これはなかなか素晴らしい感触ですね!
ついでだからもう一人の熊さんの毛並みもたっぷりと堪能し、そのまま二人の熊さん達の後ろへと着地する。ん~、もう一人の方もいまいちだね。この熊さん兄弟、においこそそんなにしないけど、手並みの手入れがなってない。私のカンが正しければ、きっと一番気持ちよさそうな毛の持ち主は、日向ぼっこで寝ている熊さんだ。
『消えただと!?』
『なに!?』
どうやら私の超高速もふもふアタックに、二人は何をされたのか気付いていないようだね。私は二人の後ろから堂々と話しかける。
『二人とも30点くらいだね』
『な!? 貴様いつのまに!』
『兄者、この猫出来るぞ!』
「あらさくらさん、もう毛並みを堪能したの?」
『はい。でも、お手入れをさぼり過ぎです。あんまり気持ちよくなかったです』
『なんの話だ!?』
どうやら熊さん達には私の超高速モフモフは見えなかったらしい。
「おやおや二人とも、見事にやられたね」
カウンターの中で作業中だったカーネーションさんが熊さん達に話しかける。
『なんの話だ?』
「お腹を見てごらん」
『『こ、これは!?』』
お腹? 私、毛並みを堪能しただけでイタズラはしてないよ? って思ったら、二人の熊さんのお腹の毛が絡まって毛玉みたいになっていた。
えっと、その、これは手入れをしていないこの二人の熊さんが悪いんであって、私は悪くない。うん、そういうことにしよう。そもそも私が熊さんの毛を堪能した時に出来た毛玉かもわかんないもんね! きっと最初から毛玉はあったんだよ。うんうん。
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