第111話 猫と熊の友情、のはず

『貴様! 何者だ!?』

『気を付けろ弟よ、ただの猫じゃない』


 あれ? これは熊さん達が本気で警戒モードだ。確かにちょっと毛玉を作っちゃったけど、そこまで警戒しなくてもいいのにね。


『ご、ごめんね熊さん。でも、そんなもふもふを見せられたら、もふもふしないわけにはいかないでしょう?』

『はあ? 何言ってんだお前?』

「はいはい、そこまでにしなさい」

『だがカーネーション。この猫の速さ、異常だぞ?』

「前に言ったでしょう? ガーベラからさくらちゃんって言うものすごく強い猫が、海のモンスター目当てにこの街に来るからよろしくって言われたって」


 ガーベラさん私のために連絡までしてくれてたんだね。でも、ものすごく強い猫? 私は狩りはちょっと上手だけど、戦ったことなんて無いんだけどな? あ、手紙を出した時点では、アオイかペルさんが一緒に来ると思ってたとかかな?


『そんなこと言ってたか? 兄者、覚えてるか?』

『ふむ、そう言えば数週間前に言っていた気がするな』

「そう言う訳だから、しばらくはさくらちゃんもこのギルドの一員よ。仲良くしなさいね」

『わかった』

『ち、兄者がそれでいいなら俺も構わん』


 二人の熊さんはファイティングポーズを解除する。


 よし、ここは自己紹介しとこうかな。


『私はさくら、よろしくね』

『ああ。俺は熊太郎だ』

『俺は熊次郎、太郎の兄者の弟だ』


 熊さん達も自己紹介をしてくれる。お兄ちゃんが熊太郎で弟が熊次郎か~、うう~ん、なかなかいいネーミングセンスだね!


『二人ともよろしくね』

『うむ、こちらこそよろしく頼む』

『ああ、俺もよろしく』


 これで仲直り出来たかな? でも、熊さん達には一言言っておかないといけないね!


『でも、お二人には一言言っておかなくてはいけないことがあるのです』

『なんだ?』

『いいだろう、聞いてやる』

『もふもふが足りないのです。そんな素晴らしい毛並みを持っているのに、どうして手入れしないんですか!?』


 そう、せっかくの熊もふもふなのに、その触り心地はダメダメだった。


『なるほど、それがさっき言っていた30点ということか』

『ふん、俺と兄者の毛並みが30点だと!? いいだろう、俺達兄弟の本来の毛並み、見たいのなら見せてくれる! 明日また来るがいい!』

『明日ならもふもふなの?』

『今は数日間ダンジョンにもぐった帰りだからな。毛の手入れが行き届いていない』


 そっか、ダンジョンに数日いた後なら毛の手入れが出来てなくても仕方ないね。ちなみに私の猫ボディは、いついかなる時ももふもふのふわふわのさらさらです! 毛づくろいとかは特にしてないんだけど、不思議と全く汚れないんだよね。


『分かったよ二人とも、明日また来るね』

『うむ。日向ぼっこ終わりの、そうだな、3時くらいに来い』

『そうだな、その時間がベストだな兄者よ』

『それじゃあ、明日楽しみにしているね! あ、ゼニアさん明日3時大丈夫ですか?』

「もちろんよ。明日は旅の疲れを取るためにお休みの予定だったでしょう?」

『そうでした!』


 こうして私達は、熊さんともふもふの約束を取り付けて妖精の国のハンターギルド、鬼が島出張所を後にした。




 人間ボディに戻ってフード付きのローブをぼふっと被ってから、宿屋さんの馬車に乗り込む。馬車に揺られて宿屋さんに戻ると、ジェームズさん達もすでに戻っていた。


「ただいま戻りました~」

「おう、おかえり。どうだった? トラブルは無かったか?」

「そんな人をトラブルメーカーみたいに言わないでくださいよ。何にも無いですよ」

「ん? そうなのか? アレック達は微妙な顔してるぞ? さくらさん、何かやったんじゃないか?」

「何もしてないですよ。ね、アレックさん」

「う、うむ・・・・・・」


 おかしい、今日は本当に何もなかったはずなのに、なんでアレックさんはそんな微妙な返事をするんだろう。


 その後、アレックさん達が妖精の国のハンターギルド鬼が島出張所で起こったことをジェームズさんに話す。


「そんなことがあったんですか。それでさくらさんは熊ハンター達ともめたにもかかわらず、トラブルが何も無いと?」

「熊さん達と仲良くなって明日会う約束をしただけですよ? トラブルではありません!」

「さくらさん、話しを聞く限り熊ハンター達とのやり取りはトラブルです。はあ、初日から問題を起こさないでくださいよ。俺、さくらさんがトラブルを起こすたびに軍に報告しなきゃいけないんですよ?」

「違いますよジェームズさん。トラブルじゃありません。猫と熊の美しき友情が芽生えただけなんです!」

「そう思っているのはさくらさんだけですよ。はあ、まいりましたね。私達はこの街の住民や軍、あるいは人間のハンター相手にトラブルが起きないようにするための対策はたてていましたが、妖精の国のギルドでのトラブル対策はしていませんでしたからね」


 だからジェームズさん、トラブルじゃないんだってば!


「はい、念話を使えるメンバーがいないのも問題ですよね。ゼニアさんに毎回通訳をお願いするわけにもいかないですし」


 むう、コビーさんまで。


「そうだな。アレック、妖精の国のギルドのカーネーションさんとは接触したか?」

「ああ。ガーベラさんからすでに手紙があったようで、内々に協力を約束してくれた」

「そうか、ならひとまずは大丈夫か。ではさくらさん、少々お話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」

「え? お腹空いたし、ちょっと早いかもだけどお夕飯食べたいな~って」

「お時間ありますよね?」

「は、はい」


 あ、あれ? 何この感じ。このいや~な雰囲気の敬語、まるであの男ことバーナード隊長にそっくりだよ? まさかジェームズさんって、あの男と本質的には同類なの? うげ~、そんなの聞いてないよ~。



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