第112話 猫VS熊

 翌日、私達は熊太郎次郎兄弟の指定した午後の3時に、妖精の国のハンターギルド、鬼が島出張所へとやってきた。


「いいですか皆さん、ここからは敵地です! 決して油断しないでください!」


 私の注意喚起にゼニアさんとジェームズさん達の顔色が変わる。


 変わる・・・・・・。


「ふふふ、今日は昨日の熊さん兄弟の毛皮を堪能できるのよね? 私も楽しみだわ」

「俺も、触っていいのか・・・・・・?」

「あら、きっと大丈夫よ。熊さん達は毛並みをほめられるとすごく喜ぶから」

「おいアレック、俺達は昨日のさくらさんの失態の確認っつうか影響を調べに来たっていうか、そういう事なんだぞ? 少なくともこれ以上のトラブルは起こさせねえようにだな」

「わかっている。だからこそゼニアさんに対応を聞いた・・・・・・」


 ジェームズさん達が何か話をしているようだけど、私はぽふんっと猫ボディに戻って妖精の国のギルドの中へと進んでいく。そして中に入ると、熊太郎次郎兄弟が待ち構えていた。


『よくきたな猫、見ただけでわかると思うが、昨日の俺達とは違う』

『兄者の言う通りだ。遠目にもわかるだろう? 俺達の至高の毛並みが!』


 す、すごい。熊太郎次郎兄弟の毛並みは、遠目からでもわかるほどにふわふわのもこもこでもふもふだ! そしてほんわかと香ってくるこの匂い。シャンプーにリンス、ううん、それだけじゃない。これは、日向ぼっこの匂い!? なるほど、匂いすら完璧に仕上げてきたということだね!


「あ、猫が来たよ~」

「時間通りだね!」

「お~い、にゃんこ~!」

「猫だ猫~!」

「こっちこっち~」


 妖精さん達も私達を歓迎してくれる。ただ、今日はこの妖精さん達が曲者だ。なにせ今日私と熊太郎次郎兄弟の毛並み、どっちが上なのか勝負の審判だからね!


 審判が妖精さん達なのは簡単な理由だ。このギルドにいる妖精さん達は、カーネーションさんを除いて、みんなユッカさんと同じステレオタイプな妖精さんなんだよね。自由気まま、天真爛漫、忖度とか権力とかそんなの一切関係無し、自分が楽しいことこそ至上主義という、実に妖精族らしい妖精さん達なのだ。


『二人の毛並み、確かに見事なようです。でも、私だって毛並みの良さには自信があるんです! 負けませんよ!』

『昨日はその毛並み、触れなかったからな。今日こそ確かめさせてもらう』

『ああ! だが、俺と兄者が負けるとは思わねえがな』

「それじゃあ3人とも準備はいいかしら?」

『もちろんです!』

『うむ』

『ああ』

『開始の合図はいらねえぜ』


 そう言うと熊太郎次郎兄弟が構える。もちろんそれに合わせるように私も身を低くする。


『『いざ!』』


『尋常に!』


『『『勝負!』』』


 私は低くした身をそのまま回転させてお腹を見せて寝っ転がる。いわゆる仰向け、あるいはへそ天と呼ばれる最強のポーズだ。


 猫の毛並みの中でも特に柔らかくて触り心地のいいお腹の毛をこれでもかと見せつける!


 ふっふっふ、どうだこの毛並み!


 そんな私のもとに審判である妖精さん達だけじゃなく、熊太郎次郎兄弟やゼニアさんも集まってくる。


「おお~、柔らかいよ」

「うん、これはふわふわだね」

「もこもこでもあるね」

「もふもふっていうんだよ?」

「むにむにじゃない?」


 ん? 柔らかいとかもこもこ、もふもふはいいとして、むにむには毛並みの話じゃなくてその先のお腹の触り心地じゃないかな? 私の猫ボディは確かにちょっとわがままボディ系のボディだけど、審査対象じゃないと思うし、これは生まれつきなんだよね。


『う~む、この手触り』

『くう、兄者、この猫なかなか』


 ふっふっふ、どうだこの極上の毛並みは!


 私はその後もへそ天でごろごろしつつ、その極上の毛並みを見せつけ、触らせる。あ、この触り方はゼニアさんかな? ゼニアさんってばハンターとして凄腕なだけじゃなく、撫でるのも上手なんだよね。


「どうみんな? さくらちゃんの毛並みは堪能できた?」

「うん、大丈夫」

「わかった!」

「いい毛並みだった!」

「うん、気持ちよかった!」

「むにむに~!」


 だからむにむには毛並みの感想じゃないと思うんだけどな。


『次は俺達だな』

『兄者、俺達の毛並み、見せつけてくれようぜ』


 今度は熊さん達が仰向けで横になる。


 そしてそこに妖精さん達が殺到する。


「きゃはは」

「お腹お腹!」

「おっきいね!」

「猫より硬い」

「でもおっきいよ!」


 むむむ、私の毛並みより硬いという言葉も聞こえるけど、大きさは流石に私じゃ太刀打ち出来ない。妖精さん達が去ったので、今度は私が熊さん達を触る。というかそのお腹に乗っかる。


『こ、これは・・・・・・』


 まずい、これはまずいぞ。確かに柔らかさだと私のお腹の毛の圧勝だと思う。でもこの大きさは間違いなく脅威だ。特に私や妖精さん達からすると、お昼寝すら出来ちゃうサイズだし!


「あら、凄いわね。さくらさんと比べると少し硬めだけど、この大きさ。この毛足の長さ、素敵ね」


 むむむ、ゼニアさんの指摘ももっともだ。大きさだけじゃなくて毛の長さでも熊さん達には勝てない。妖精さん達は熊さんのお腹で楽しそうに寝転がっていたし、この勝負、柔らかさVS大きさと長さの勝負になりそうだね。


 ってちょっと待って、長さ、硬さ、大きさの3要素のうち、2要素で太刀打ちできないって、私ピンチ?


「それじゃあみんな、どちらの毛並みがいいか決まったかしら?」

「「「「「は~い」」」」」

「じゃあ、みんな勝者の札を上げてね。せーの!」


 ばばばばば。


 いつ作ったのかわかんないけど、妖精さん達のもつ札が一斉に上がる。


「熊さん、熊さん、熊さん、熊さん、猫さん。この勝負、4対1で熊さんの勝ちね」

『うむ!』

『うおおおおおおお! 俺達の勝ちだ兄者あああ!』

『ま、負けちゃった・・・・・・』

「それじゃあ熊さんに投票した子に質問です。熊さんの何が良かったのかな?」

「大きさ」

「寝れる!」

「ごろごろ!」

「おっきい!」

「それじゃあ猫さんに投票した子は?」

「柔らかい」


 はうう、あうう。まさか、まさかこの私のイージーにゃんこライフボディが敗北するだなんて・・・・・・。


 私が敗北に打ちひしがれていると、私に投票してくれた子がとある提案をする。


「あのね、熊さん達をお布団に、猫さんを枕にするのが一番だと思うの」


 えええ!? なにその贅沢! アオイあたりがいたら熊さんのお腹の上にアオイを寝かせて、私がアオイを枕に熊さんの上で寝たいよ!


「あ、それいいかも」

「さんせ~い!」

「やろうやろう!」

「熊さん寝て~」


 私と熊さん達の目が合い、そしてうなずき合う。


 なるほど、思いは熊さん達も同じようだね。ここは共闘して、妖精さん達に猫と熊の毛並みの素晴らしさを思い知らせるときだね! というわけで熊さんが寝てその上に私が寝る。そして妖精さんが私を枕に熊さんの上で寝る。一番手はこの案を提案した私に一票入れてくれた子だね。


「うん、これが一番いいよ~」

「次私の番~」

「ずるい、僕だよ~」

「ええ~、じゃんけんしよ~」

「魔法勝負がいい~」


 なんか妖精さん達がもめだしたけど、そんなことはどうでもよくなっちゃった。う~ん、熊さん達のお腹の上はすっごく気持ちいいかも。これは100点満点のお布団と認めざるを得ないね。




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